大吾と噂①
●前回のあらすじ●
マールとヴィヴィは勘違い可愛いちっぱい女子だった。
「魔王ってあの魔王?」
「どの魔王か分からないけど多分その魔王」
うわーぉ。
マジで魔王かよ。全然イメージと違うんですけど。
魔王ってもっとこう、髑髏の肩当てにマントしてたりとか、デカイ角生えてたり筋肉モリモリだったりしてるのかと思った。
それに幹部とか四天王とかを引き連れて世界征服を目論んでいるみたいな。
それかハンバーガーショップのクルーになってるか。
「マールちゃん」
「何ですか大吾さん」
「俺がこっちに来る時に強大な魔王がいるって聞いたんだけど」
「言いましたね」
「目の前に魔王がいるけど」
「いますね」
「全然そんな感じしないんだけど。むしろちっぱい可愛い」
「別にわたしは強大な魔王がいるって言っただけで、魔王が悪の限りを尽くしてるなんて言ってないと思いますけど」
「確かに」
魔王とは魔族の王。
人は魔族を嫌っているが、元は魔族の力である魔法を使う人がその魔族を忌み嫌うのはどういう事だ、と。
見た目が凄い似てるけど微妙に違うし我が国で生み出したキャラクターです、って言ってる某国みたいな話だ。
逆ギレもいいところである。
まぁ俺も魔族=悪ってイメージがあったから人の事は言えないけどね? イメージだけで語ってはいけないという事だ。
だって見てくれ。目の前の魔王を。
これが魔族だ! 全員じゃないだろうけどこんなにも可愛いちっぱい女子が魔族だ!
「てか豹人族も魔族なの?」
「うーん。魔族って言ってもこっちの人がそう言ってるだけだしね。色々な種族が住む普通の国だよ。その国の王ってだけ」
「そんな国の王がこんな所に来てていいのか? 政治とか色々あるだろ」
その辺よく知らないけど。
政治経済の事はからっきしだ。
今度消費税が上がるって話も『マジかよ2%はデケェな』くらいにしか思ってなかったし、選挙だって選挙会場には行くものの、投票する紙を書くスペースに貼ってある候補者一覧から一番最初に目が留まった人の名前書いてたレベルだし。
「国の事はお父さんに任せてるから大丈夫」
「任すとは」
「あたしがこっちに来たのも要は異文化交流みたいなもんだしね。ちょっと長い外交みたいな」
「えっと? でもギルドランクAになるくらいだから結構いるんだよね?」
「ずっとこっちにいるわけじゃないから大丈夫だよ。たまに帰ったりしてるし」
「自国より他国にいる時間が長い王とは」
「そこはほら。考え方次第だよ。人との関係が良くなれば国にとってプラスでしょ? あたしはそんな分け隔てない考えを持つ人を捜してたんだ」
「それが俺だって?」
「だってダイゴ言ってたじゃん。『皆が幸せ100の世界をつくる』って。そんな考えを持ってる人に会った事ないよ」
「確かに‶ちっぱい愛は種族を超える″って言葉があるくらいだしな」
そもそもマールだって言ってしまえば天使なわけだし、マールがよくてヴィヴィがダメって話はおかしいな。つまりは魔族じゃダメって話もおかしいわけで。
「でもそんな国に出来るのは全然まだまだ先の話だぞ。何せその話は俺が言ってるだけで一緒にいるマールですら『そんな話でしたっけ?』ってポッカーン可愛い顔してるくらいだから」
信者の3人も串焼きあげただけで詳しい話してないし。
それにしてもポッカーンマールちゃん可愛い。お口におにぎり入れてパンパンにしたい。
「じゃあこれから3人で頑張って、皆に知ってもらわないとね! こんなに素晴らしい考えを持ってる人もいるんだぞって!」
「まぁそうなんだけど。えっ。なに。ついてくるパターン?」
「そうだけど?」
「俺が理想とする世界に欠かせないのがこちらにいらっしゃるちっぱい天使マールちゃん」
「マールちゃんは世界の中心」
「そうだ。そんな世界の中心であるマールちゃんを祖としたマール教。俺はそんなマールの良さを全世界に広めなくてはならない」
「つまりマールちゃんの良さを広めつつ誰もが幸せでいられる世界をつくる、と」
「そうだ」
「じゃあ尚更その事を広める人が多い方がよくない?」
「そうだ?」
「そんなわけでよろしく、ダイゴ。マールちゃん」
「よろしく?」
「こちらこそ、よろしくお願いします! ヴィヴィさん!」
きゅきゅっと握手を交わす俺たち。
こうしてマール教の信者がまた一人増えると共に仲間も一人増えたのだった。
あれー? 両手に‶ちぱ″で嬉しいけど、マールちゃんと二人じゃなくなるのは悲しい。
でもマールも女の子が一緒にいた方が楽しくていいかもしれない。全ては俺とマール、とヴィヴィたちの未来の為に!
―――
「問題が発生した」
「どうしました大吾さん?」
「どしたのダイゴ」
俺とマールは念願のトロピカルジュースをゲットし、ヴィヴィと一緒に現在広場のベンチにて小休憩している最中なのだ、が。
「おい、アイツがヴィヴィさんを倒した…」
「マジ? 全然強そうに見えないんだけど」
「何でもヴィヴィゲームの最中にヴィヴィちゃんを脅して胸を揉みしだいたとか」
「うわー。最低のクズね」
「おいおい。ただでさえ小さいヴィヴィさんの胸になんてことしてくれたんだあの男は」
なーんか俺の耳に届く程の声量でヒソヒソ噂されてるんですけどー。
確かにヴィヴィは有名人で、俺がヴィヴィのちっぱいを揉んだのは認めるよ?
でもしだいてはいない。
ソフトにタッチしただけだ。
ちょっとふにふにしたかもしれないけど。
そして安定のクズ呼ばわりですわ。
だが残念だったな。
俺は他人の評価なんか気にしない我が道を行くタイプなんだ。
言いたい奴には勝手に言わせとけって考えなんだが。
「お前がヴィヴィを倒したダイゴって野郎だな。俺と戦え。どんなきたねぇ手を使ったのか知らねぇが、テメェを倒せば俺の名も上がるってもんだ」
こういう輩には困りますわー。
だって俺がステータスアップ出来るのってちっぱい女子に対した時だけだし。
こいつはなに。
超筋肉モリモリじゃん。
道着みたいな格好からしてまた武闘家っぽいんですけど。何なんマジで。俺ってば武闘家を惹きつける何かがあるの?
「本日の営業は終了しまして」
「んだぁ? 尻尾巻いて逃げるのか? それとも女じゃねぇと相手出来ねぇ腰抜け野郎か?」
「それは違う」
「じゃあやんだな?」
「正確にはちっぱい女子じゃないと相手に出来ないんだ」
「ちっぱ…はぁ?」
ヴィヴィもそうだったけどこのモリ男(あだ名)も『ちっぱい』って言葉を知らないらしい。
あれおかしいな。
ちっぱいの知名度は全国区のはず。ケイだって知ってたのに。
もしかしたら冒険者には知られてないのかもしれない。
これはいけない。
俺が広めないと(使命感)。
「ヴィヴィよぉ。こんな奴に負けるようじゃお前の時代も終わったな。痛い目見ないうちにさっさと国に帰ったらどうだ?」
ヴィヴィが人気者と言っても全員が全員支持してるわけじゃないわけで、モリ男はやっすい挑発を向けて来た。
しかしヴィヴィはさすがと言うか、別段気にする様子もなくマールと一緒にモリ男を見ながらトロピカルジュースをチューチュー飲んでいる。
おいおい。二人共そんなリスみたいにほっぺパンパンにしてジュース飲んでたら怒りを逆なでするようなものなんですけど。あとそんな二人可愛い。
「テ、テメェら…! ふざけた面してそんなもん飲みやがって…!」
ほーら言わんこっちゃない。
モリ男の全身ピキピキしてますやん。
挑発に乗らないのはさすがだけど、無意識でも挑発し返すのはやめようね?
まぁこんな分かりやすい挑発に乗せられるのもどうかと思うけどな。
「テメェらそんなもん飲んでる暇があったらおうちに帰ってママンのおっぱいでもしゃぶってな。そうすりゃその貧相な胸もちったぁ大きくなんだろ」
「お前今なんつった?」
俺の事は何を言われようと一向に構わん。
だが俺だけならまだしも俺のマールちゃん、それにちっぱい尊い存在であるヴィヴィにその矛を向け、あろう事かちっぱいに対し‶貧相な胸″だと? ‶大きくなる″だと?
ゆ‶! る‶! さ‶! ん‶!
ちっぱいを卑下する奴はどんな奴でも許さない。
例えそれがちっぱい女子であろうと、見るからに強そうな筋肉モリモリの野郎でもだ!
考えを改めさせねばならぬ。私はこの時だけは行かねばならぬ。
ちっぱい女子を守る為に。
ちっぱいに胸を張れる未来の為に。
「何だ腰抜け野郎。女を馬鹿にされて怒ったのか? あ? 女で合ってるよな? よく見ねぇと男と変わらない体だし分からなかったわ」
「もうそれ以上喋らない方がいいぞ。因縁付けて口が回る奴は大抵小物って相場が決まってるからな。体がデケェだけで脳みそ空っぽなお前でも人の言葉くらいは理解出来んだろ。相手してやるからさっさとかかって来いよ」
「上等だこの野郎。ボッコボコにして男女の前で素っ裸にしてやるよ」
「俺はお前が泣いて謝るまで絶対許す気はないからな。殺す気でかかってこい」
「ま、待って下さい大吾さん! 大吾さんまだレベル1じゃないですか! ボッコボコにされるのは大吾さんですよ! わたしは気にしてませんからやめて下さい!」
「そうだよダイゴ! こんな奴気にしないでジュース飲もう? これ以上何か言って来たらあたしがコイツの事、星にしてあげるよ!」
「男には、やらねばならぬ、時がある。かかって来いやコラァーッ!!!」
こうして俺とモリ男の勝負が始まった――
――10分後。
「も、もう勘弁してくれ! 俺が悪かった! 許してくれ! この通りだ!」
モリ男は土下座をしながら地面に額をガンガン顔ドラムしていた。
さっきまでの威勢はどこへやら、モリ男の顔は涙と鼻水と涎でぐちゃぐちゃになっていた。
「何か勘違いしてるようだが、お前が謝るのは俺じゃないだろ。謝るならこの二人にじゃないのか?」
「はっはヒッ! ヴィヴィ、それに金髪の嬢ちゃん。すみませんでした! すみませんでしたァ!」
「これに懲りたらもう二度とちっぱい女子を馬鹿にするんじゃねぇ。今度はこんなもんじゃ済まさねぇぞ」
「わ、わかった! もう二度と馬鹿にしねぇ!」
「わかったならとっとと消えろ。これ以上ボコボコにしたところで無駄だからな」
「は、はヒーーーーッ!!!」
俺の‶台詞″を受け、モリ男は無傷でその場から逃げて行った。
「守ってくれてありがとうございます、大吾さん。大好きです…って何言わせますか!」
「*」
「凄いねマールちゃん。こんな状態のダイゴの言葉がわかるなんて」
はい。
そうです。
俺はボッコボコにされました。
ボッコボコにされはしたが、どんなに強烈なパンチを散弾銃のように浴びようとも何度でも立ち上がった。
守るものがある男は何よりも強い。負けなければ勝ちだ。
しかし最初のモリ男の一発で顔が『*』になったのでマールに俺の台詞を代読してもらっていたのだ。ところでマールちゃん今俺に大好きって言った? 俺もです。
モリ男もパンチ一発入れる度に変形する俺の顔を見てどんどん顔色を変えていった。
それはそうだろう。
本来ならばワンパンKO出来る程の威力であろう一撃を何度打ち込もうと向かってくるのだ。
EPSで足は遅いが耐久MAXの敵が迫ってくる感覚だったのだろう。
最終的に『*』でもありアンパンでもある顔になったところでモリ男は恐怖で泣き崩れて勝負は終了した。
俺は一発もモリ男に入れられなかった。
俺がモリ男に勝てた理由。
それはマールとヴィヴィを馬鹿にされ開花したスキル――
『不屈のちっぱい愛』
ちっぱいの神専用スキル。消費MP0。
仲間のちっぱい女子が攻撃対象になった時に発動する。攻撃対象にされたちっぱい女子を『庇う』状態になる。
以降の如何なる攻撃、魔法、スキルを受けてもHP1を残して耐え、状態異常の効果を無効にする。
職ボーナスの‶ちっぱい魂″はちっぱい女子からの攻撃を耐えるスキル。
この不屈のちっぱい愛はちっぱい女子を庇う縛りはあるものの全ての相手からの攻撃を耐えるスキル。
つまりちっぱい天使マールちゃんとちっぱい魔王ヴィヴィがいる限り俺は倒れる事はない準チートキャラになったわけだ。
でも耐えれるだけで攻撃力などがアップするわけじゃないからボッコボコにはされるけどね? 相手が折れるのをただ待つのみ。
「だ、大吾さん? 大丈夫ですか? お顔がアメリカさんにボコボコにされた紅のお豚さんみたいに…」
「あんなに殴られて死んじゃうんじゃないかってヒヤヒヤしたよ」
両手に‶ちぱ″で心配してくれるマールとヴィヴィ。嬉しさで顔の凹みが1㎝戻った。
「*」
「わたしたちの為に怒ってくれたのは嬉しいですけど、こんな事はもうやめて下さい」
「*」
「大吾さんがそういう人だって事は知ってますけど…」
「*」
「だ、だからそんな顔してそんな事言っても説得力ないんですってば」
「ちょっと待って。あたしを置いて二人で行かないで」
なに、なんなの今の会話。熟練夫婦か何か? と、ヴィヴィ。
そうです。俺とマールは既に半生どころか一生を共にした夫婦なんです。
その後も俺の台詞をマールが代読してヴィヴィがツッコむという流れで広場での小休憩時間は終わったのだった。
結局トロピカルジュース少ししか飲めなかったけど、マールとヴィヴィが美味しそうに飲んだっぽいので良しとしよう。
負けないは勝ち
大吾さんはちっぱい女子がいる限り無限の力を手に入れます




