大吾とクエスト➂
●前回のあらすじ●
マールは可愛いちっぱい天使だった。
「凄いじゃないですか! ダイゴさん! マールさん! コーコー鳥の殻を3袋も納品なんて!」
俺たちはギルドへ戻ると、すぐに受付のユリさんに卵の殻入り土のう袋を差し出した。
ユリさん曰く、駆け出し冒険者は殻をなかなか割れずに丸のまま持って帰ってくる人も少なくないんだとか。
「皆さん何故か手とか怪我してるし、足なんか引き摺りながら帰って来るのにお二人は何ともなさそうですね」
「いや、何故かっつーか…」
多分だけどその駆け出し冒険者たちの怪我の原因はユリさんではないだろうか?
まだ右も左も分からない初心者は美人でお胸様が巨峰の受付嬢の言うことは真に受けるだろうし、気合入れてオラァ! と行ったものの相手の方が防御力が高くて自分のライフが削れてしまったパターンなのだろう。何だよ☆4なのに守備力2600って。アホかよ。
「1袋に入ってる殻の量も申し分ないですし、これなら全部5パルフェで買い取れると思います」
つまり合計15パルフェ(1万5000円)!
「それに収集クエスト達成報酬の1パルフェ500コーンが追加されます」
ユリさんはそう言って革製のつり銭トレーに銀貨1枚、銅貨6枚、メダル(?)5枚を乗せて出してくれた。
クエスト達成報酬は討伐クエストでは対象モンスターの難易度によって一律1割だが、収集クエストでは買取金額の1割になるようなので集めたら集めた分だけ多く達成報酬が貰えるらしい。それが収集クエスト人気の秘密でもあるようだ。
確かに土のう袋1袋で辞めていたら5パルフェで達成報酬はその1割の500コーンだったけど、俺たちは3袋納品したので15パルフェの1割を貰えたということだ。この差はおいしい。
そんな達成報酬の事はすっかり忘れていたけど、今日の報酬は合計で16パルフェ500コーン(1万6500円)。
約半日の仕事だが、二人で受けてるので一人頭8250円。半日を四時間だとすると時給2060円くらい。
中途採用のようなものでの初任給にしては破格だ。
これでEランクのクエストなのだから、DとかCとかになればもっと上がるのだろう。もちろん危険度も上がるだろうが。
しかし悲しい事に持ち家がないので、宿を一か月取るとなると最安価でも月家賃15万円。
どんな優良物件だよ。
俺が契約してたアパートなんか月5万円だぞ。帰って弄って寝るだけだから何でもよかったけど。
まぁ今は初給料を素直に喜ぶとしよう。手渡しは初めてだけど、異世界に年末調整とかない? 秘密裏に記録されてたりするの? それか既に何%か国の税金で持って行かれてるのだろうか。
「あ、すみませんが銀貨1枚を銅貨10枚で貰う事は出来ないでしょうか?」
「構いませんけど」
ハテ? するユリさん。マールとは違うタイプのハテだが、これはこれでいいですね。巨乳には興味がないが、女の子は普通に好きな俺なのであった。
そんなユリさんはトレーを引っ込めて、今度は銅貨16枚メダル5枚で出してくれた。
俺は自分の財布とは別に用意した(ケイの店で貰った)2つの財布、計3つを取りだしそれぞれに銅貨を5枚づつ入れた。
マールもユリさんも不思議そうに俺を見ているがちゃんと理由があるんです。
「一つは家賃分の財布」
これはどんな理由があろうと最優先で金を入れる財布だ。
家賃は5パルフェなので銅貨5枚。これは最低限入れておかないと宿を追い出される。ナンシーさんがいくらいい人でもいつまでも待ってはくれないだろう。前払いのサービスもなくなっちゃうし。
「次は俺の財布」
今日の稼ぎは16パルフェなので家賃分の5パルフェを抜いた11パルフェの更に半分。5パルフェと500コーン。
「最後はマールのだ」
「えっ」
俺はマールに5パルフェ500コーンが入った財布を差し出すが、マールはポッカーンして受け取ろうとしない。
「…? どしたのマールちゃん。今日の給料だってば」
「え、だってわたし、今まで大吾さんに奢ってもらってばかりで…。自分の300コーンも女の子に、その…、あげちゃいましたし…」
何だ。そんな事を気にしていたのか。
とりあえずどんどん小声になるマールちゃん可愛い。
「装備一式はマールの分は無料だし気にしないでいいよ。お礼ならケイに言ってくれ」
そういえばまだ(生きてる)ケイにはちゃんと礼をしてなかったな。明日にでも挨拶に行こう。
しかしマールは俺がそう言ってもまだ納得しないようであった。
「昨日からのご飯代とか、それに一か月分の宿屋の前払いの分だってあります!」
なのでお金なんて受け取れません! という。
正直宿の金なんか俺だって泊まらないといけないんだし、結局借りて2人で住んでるんだから気にしないでいいのに。
むしろこの給料からはちゃっかりマールにも宿代半分出してもらってるし。
「それでもです! 今月分の半分の75パルフェ払い終わるまでは受け取れません!」
強情なちっぱい天使であった。
「だからそんな気にしないでいいってば。マールはお金なかったわけだし、この先収入どうなるか分からないから取っといた方がいいぞ」
俺はもちろんマールから離れるつもりはないが、マールはマールで金を貯めておけば何かと融通が利くだろう。
自分の好きな事も出来るし、物だって買える。給料とはそういうものだ。独り身なら尚更。…いや、待てよ? 肝心な事を聞いてなかった気がする。
「マールマール」
ちょいちょいカモン、と手招きする。
マールはハテ? してトテテと近寄ってくる。うぅむ。素直ないい子だが、飴ちゃんに釣られて変な人について行ったりしないでね? と、マールに言ったら『大吾さん以上に変な人いるんですか?』と言われそうだけど。
「ちなみになんだけどマールさ」
「はい」
「天界? 天国? 神界? に彼氏とか旦那とかっているの?」
ここを聞いておかねば。
よくよく考えたらこんなに可愛いちっぱい天使を他の男どもが手を出さないはずがない。
マールが俺に素っ気ないのも、もしかしたら既に男がいるパティーンがあるからなのかもしれないしな。
「いませんよ、そんな人」
全然そんな事なかった。
普通にマールの好感度が低いだけだった。
安心したけど心に傷を負った。なにこれ。
「天使で男の人と話した事ある子って少ないんじゃないですかね?」
「え? そうなの?」
神界もまさか不純異性交遊とかあるの?
「あ、もちろん仕事以外でですよ? わたしと大吾さんみたいに異世界転生、転移する時に話すことはありますけど、普通はそれだけです」
もちろん仕えている神様が男神様なら話は別ですが、とマールちゃん。
しかしそれでも結局は仕事の中でなのでプライベートで話をする機会がそもそも少ないようだ。
「という事はマールちゃんは数少ない男性経験者!? 初体験の相手は俺!?」
「何かいやらしく聞こえますけど、そうですね。仕事以外では大吾さんが初めてです」
わたしの初めてが大吾さんで良かったですって言われた(脳内改変)。俺がマールを女にしたんだ(妄想)。
まぁこれでマールが独り身だと分かった。
「なら尚更自分の金を貯めておいた方がよくないか? 折角信者の子も出来たのにその女神様が文無しで借金の神様だったらどうなるよ」
髪が青くなって大酒飲みになった挙句虹色のキラキラをリバースする事になるぞ、と。
「あの先輩女神様ですね! わたしも一度会って話がしてみたいです!」
「ごめんマールちゃん。振っておいてなんだけど、乗ってこられるとどうしたらいいか分からないの」
マールはまたハテ? するが、神界に著作権ってのはないのだろうか。そもそも金の概念があまりなさそうだ。旅をするマールに300円渡して送り出す最高位の神様がいるくらいだし。
「とにかくお金の話は終わりだ。本当にマールがどうしてもこの金を受け取らないと言うのなら俺にも考えがあるぞ」
「ど、どうなるんですか?」
「宿代代わりに1か月は俺の言う事する事に素直に従ってもらう」
「ひっ」
「言っとくけど、どんなに泣き叫ぼうと聞かないからな。正直言うと一緒の部屋に寝てる以上、マールが寝静まった後じゃないと自分のパーソナルタイムが設けないし、隣にマールが無防備に寝てるから手を出さないとそれはそれで失礼かなって葛藤もあるし、日本にいた頃は3日に1回のペースだったから1か月も我慢してたらもしかしたら寝てる間に爆発するかもだし」
「あわわわわ…」
ガタガタ震えだすマールちゃんは俺の説得(脅し)が効いてお金を受け取ってくれた。
俺はお金と一緒に大切な何かを失った気がしたけど気のせいだろう。マールがいつもより1メートルは距離を取るようになった気がするけど気のせいだろう。
「お話は済みましたか?」
そんなこんなで俺たちはユリさんと再びクエスト達成の手続きに戻る。
今日納品のコーコー鳥の卵の殻は明日にでもギルドからジョージアおじいさんの家に届けられるそうだ。
あんな依頼書を書く人がどんな人なのかちょっと興味が沸いたけど、多分『K』のあだ名が似合うような人なんだと勝手に想像した。
「ではクエストはこれにて終了となります。お疲れ様でした。初クエスト達成記念にささやかですがギルドからの贈り物です」
どうぞ、とユリさんはつり銭トレーに乗せて赤いチケットのようなものを差し出してくれた。
俺とマールでそれを確認。こ、これは――!
「公共風呂の回数券になります。本当は1人10回分のチケットを出したいのですが、1人でクエスト達成される方もいらっしゃいますし、不公平のないように2人で10回分とさせてください」
それでも有難いです。
これはつまりボーナスで1パルフェって事だもんな。風呂は1人100コーンだし。…あっ。
「そういえば俺たち薬草もそこそこ摘んできたんですけど、ユリさんが買い取ってくれるんですか?」
ボーナスで思い出したけど、随時収集クエストの薬草の存在を忘れるところだった。
多分ポーションになるのだろうが、どういう製法で作るのか分からないし、鮮度が落ちてカラッカラの薬草じゃ意味を成さない可能性もあるからさっさと納品するのに越したことはないだろうからな。
そんなわけでマールに見つけてもらった薬草をドンっと受付に出した。
量にしてマールのショルダーバッグの半分くらいを摘んできたんだが、これでいくらになるか。
「まぁ! 初クエストで薬草まで摘んできたんですね! この量ですと…、100コーンで買い取らせていただきます」
安っ。
マールのおやつ代以下じゃねーか。だんだん焼きも買えねぇ。
確かにケイの店で見たポーションは1個100コーンだったし、そのポーションの原料であるであろう薬草で、しかも買取価格だから期待はしてなかったけど!
本当に小銭稼ぎでしたね。
まぁ持ってても仕方ないから売るけどさ。
「お願いします」
「ありがとうございます。ダイゴさん、マールさん」
そして大量の薬草はメダル1枚になった。
収集クエストに比べると文字通り達成感のないクエストであった。
―――
「ごっはん! ごっはん! 大吾さん! 晩ご飯楽しみですね!」
ルンルンと隣を歩くマールちゃん。
俺たちはギルドで報酬を受け取って飯屋を目指している。
さすがにクエスト帰りのつなぎやオーバーオールでは汚れてるし、どうなのかなと思って風呂には先に入っておいたが。回数券は残り8枚。
しかも着替えを持ってこなかったので、一度宿に戻ってから風呂に行くしかないのだが、正直面倒臭い。
でも荷物かさ張るし、仕方のない事だけど。
ちなみにパジャマもクエスト用の服も出しておけば昼間のうちにナンシーさんが洗っておいてくれるらしい。何から何まですみません。このパジャマ(俺は部屋着)もお日様の匂いがしていい感じです。ナンシーさんマジおかん。
それにしてもご機嫌のマールちゃん可愛い。さっきまで距離を取られていたのはやっぱり気のせいだったのだ!
「今夜は初クエスト達成記念も兼ねてるからな。ちょっと贅沢してもいいだろ」
頭に無かった達成報酬の1パルフェ500コーンも入ったし、薬草代と合わせて1人800コーンは浮くぞ。
そして俺たちがエメラルドマウンテンからミスニーハまでの帰り道で決めた夕飯こそ――
「あっ! 大吾さん! あの店じゃないですか!? あの店でしょ!? あの店ですね!」
ちょっ、マ、マールちゃん落ち着いて。
目が千葉の妹の友達のヤンデレ読者モデルみたいになってて怖いから。
ご飯処『ぽんぽんパンパン』
牛肉専門の焼き肉食べ放題店。
お値段は店設定の砂時計が落ちきるまでで1人1パルフェ500コーン。ソフトドリンクなら無料。アルコール追加なら更に500コーン。
ミスニーハに牛肉を定期的に納品してくれる冒険者がいるらしく、店側も安価で提供できるのだとか。
そのせいもあってか、店は大人気で順番待ちのお客が日夜列を成している。
牛肉専門と言っても女性やファミリー向けに野菜や果物も揃えている。
「よし、じゃあ並ぼうか。最後尾だから時間かかるかもだけど、待つのも楽しみの一つだからな」
「ぐるるるる…」
マールちゃん既にビーストモードになっとる。
店の前に来て美味そうな匂いが一層強くなったからな。俺も腹の虫が一斉に騒ぎ始めた。でもこのモードのマールを迎え入れる店は大丈夫だろうか? 潰れたりしない?
「俺はアルコール注文するけど、マールはどうする?」
20歳なんだし大丈夫だとは思うが一応確認する。
てか天使ってアルコール大丈夫なのか? 見た目人間だし、先入観から人に害(過重摂取除く)がないのはいけると思ってたけど。
「ぐるるるる…」
ダメだこの子全然聞こえてない。
しょうがないから俺はマールの頬を両サイドから指でプニっと挟んだ。ほっぺたが『)3(』って感じになった。可愛すぎかよ。
「むふぁっ。ふぉ、ふぉーふぃまふぃふぁ。だいぼふぁん?」
はっ。ど、どーしました。大吾さん? と言った、はず。
「いや、だからアルコールはどうするのかなって。前金制だから後から追加ってのは出来ないらしいし」
「アルコールって美味しいんですか!?」
「まぁ人によるかな。俺は美味いと思うけど、飲んだことないのか」
「はい!」
神界でも飲んだ事ないです、とマールは興味津々だ。
これはあれだわー。
多分アルコール飲みまくってダウンしちゃうタイプだわー。
先輩女神みたいに虹色キラキラしそうだわー。
それでそんなマールを優しく介抱しながら宿まで帰るタイプだわー。
部屋に戻っても酔っちゃってるから聖域張れないタイプだわー。
無防備だわー。
嫌だなー。
面倒だなー。
面倒なんだけど、マールがそんなに飲んでみたいっつーなら? 先輩として? 酒の美味しさと怖さを教えてやらないと今後の人生に差し支えるからな、うん。
俺は完全に大学サークルのノリになっていた(ゲス顔)。
「色々な方と飲む機会もあるかもですし、ちょっとでも慣れておこうかと! 酔ってフラフラになる、と聞きますけど大吾さんと一緒なら安心できます!」
「…」
なんという純粋無垢な子。
心の傷が一瞬で全快したのと同時に、心に深刻なダメージを負った。
こんなにも純粋無垢のマールちゃんに対して俺はなんということをしようとしていたのだろうか。
猛省すると同時にもしマールが酒に潰れても、おんぶして背中でちっぱいを堪能するだけにしようと心に決めるのだった。
「お次にお待ちのお客様~。どうぞ~」
そんなやり取りをしているといつの間にか俺たちの順番になっていた。
可愛い子と過ごす時間はいつでも早いものだ。
俺たちはアルコール追加と合わせて2パルフェをお互い支払ってテーブルに着いた。
既に2人分の肉と野菜などが用意されており、これを綺麗に平らげたら初めて追加で注文できるシステムらしい。
「焼き肉っつったらビールだけど、マールもそれでいいか?」
「大吾さんにお任せします!」
と、返ってくると思ったけど一応ね?
中世時代はワインがメインって話を聞いたことがあるし、つか普通にビールがあるのに驚いたけど焼き肉に合うのはやっぱりキンキンに冷えたビールだしな。
「牛肉っつってもこの時代じゃ何あるかわからないし、俺がいいって言うまで食べないこと」
「うぅ…」
俺は肉を焼きながらマールに言っておく。昨日のカップラーメンみたいにフライングで飛びつかれたら大変だからな。
そしてお預けされるマールちゃん可愛い。
でもごめんね。お腹下しちゃうかもしれないからさ。だからそのテーブルに付きそうな涎を啜ってください。
「お待たせしました。こちらビールになります」
店員さんは鉄製のジョッキに入ったビールを持ってきた。
キ、キンキンに冷えてやがるっ…!
ここはいつからざわざわする世界になったっ…!
「お時間は今からカウントされまして、この砂時計の砂が落ちきりますとご注文できませんのでご了承下さい」
そう言って魔力を注いだ砂時計はゆっくりと砂を落とし始めた。
昨日見たギルさんの店の砂時計とは大きさは同じで『まさかの3分で焼き肉!?』と思ったが、魔力で制御されているのか落ちるスピードが非常にゆっくりだ。
砂時計とは、と疑問も抱くが気にしないでおこう。こうしてる間にも砂は減っていく。
店員さんが『ごゆっくり~』とテーブルを離れた所で俺とマールはジョッキを取って乾杯した。
「じゃお疲れ、マール」
「お疲れ様です! 大吾さん!」
グビグビと先にビールを喉の奥へと流し込む。
~~~~~~かぁ! う、うますぎる! まだ2日ぶりだがクエストでの肉体労働後や風呂上りとも合わさって体に染み込んでくるぜ!
「大吾さん凄く美味しそうですね! じゃあわたしも!」
とマールも俺にならってグビグビとビールを飲んだ。
あっ。そんな一気で大丈夫? と思ったが、マールはジョッキ半分くらいまで余裕で流し込んだ。
「ぱぁ! 変わった味がします!」
しかもビールの苦みをものともしていない。
何でも美味しそうに食べるマールは、舌のつくりも天使レベルなのだ(多分)。
「全然行ける口だな! でも飲み放題だからって飲み過ぎるとキラキラするからな! ちょっとおかしいって思ったらすぐに止めろよ?」
「おかしいってどんな感じですか?」
「マールがさっき言ってたみたいにフラフラするとか、俺が2人3人に見えるとか」
「確かに大吾さんはおかしいですもんね」
うんうんと納得するマールちゃん。
違うんだよ。俺がおかしいんじゃなくて、俺が2、3人に見えるくらい視界がぼやけるのがおかしいの。ねぇ聞いてる? まだ肉は焼けてないよ? こっち向いて。ねぇ可愛いお顔見せて。
俺とマールはとりあえず肉が焼けるまで残りのビールを飲み干して新しく2杯注文した。
「そう言えばマールさ」
「ぐるるるる…」
ぷにっ。)3(。
「ふぁっ」
「そう言えばマールさ」
「はい」
「この世界に来たのは俺だけじゃないって話してただろ?」
「そうですね。大吾さんの前に数人は転移しているはずです」
わたしが担当ではない人なので詳しくは分かりませんが、とマールは言う。
そうなのか。てっきり全部マールが担当してると思ったのに。
「マールみたいに転移者と一緒にこの世界に来た天使はいるのか?」
「どうなんでしょう? わたしが担当になったって事は、前回まで担当していた方が何らかの理由で外れたって事ですから無いとは言えないですけど」
「珍しいのか?」
「天使の中でも男嫌いな子もいれば、女嫌いな子もいますし。転移を共にする人がそれはもう生理的に受け付けなかったら一緒に行こうとは思わないはずですし」
「それはつまり遠回しにマールは俺に『一目惚れでした。こんなにアピールしてるのに何で気づいてくれないの?』って言ってる?」
「いいえ」
「そうか」
「でも異性と交流のない天使ですから、男の天使でも女の天使でも恋をしたいと思ってる子はいるかもしれませんね」
「それはつまり遠回しにマールは俺に『恋人ごっこはやめて本物の恋人になりましょう』って言ってる?」
「…」
「えっ。マールちゃん、まさか」
「いいえ」
「違うのかよ」
何なんすか今の溜めは。ビックリしたよ。溜めロンはマナー違反だよ。雀荘追い出されちゃうぞ。
「うぅ…、マールがデレてくれない…」
「今までの自分の行いを胸に手を当てて考えてみれば心当たりがあるのでは?」
「今、マールのちっぱいに手を当てていいって言った?」
「だ、誰がそんな事を言いますか! 自分の胸ですよ自分の!」
ガウガウ怒り出すマール。
ふっ。しかしもう俺は慌てない。対処法は心得てるからな。
そんなわけで焼けた肉をマールへ献上。
「ほい。熱いから気をつけてな」
「ありがとうございます! 大吾さん!」
ガウガウ怒り顔から一転、ピカーと笑顔になるマール。扱いやすいちっぱい天使なのであった。
マールはちょんちょん、とソースをつけて肉をぱっくり頬張った。
「ふまぁ~~~♡」
あぁぁ…、なんて可愛い子。
もうこの顔だけでご飯が進むんじゃないだろうか。白米はないけど。
俺も一口食ってみると確かに美味かった。ただやはり何の肉かはわからなかった。
まぁそんなもんだろう。
一般人は『はい、牛肉』と言われて出されても『おぅ牛肉』と思うだけで何の牛の肉かなんてわからないだろうし。
その後も追加注文してはモフモフ食べるマールを目の肥やしにして本日の夕飯は終了した。
マールはキラキラするまで飲まなかったが、代わりに店長もビックリするくらいモフモフしてた。
ただやはりちょっとはアルコールが回ったらしく、帰り道ではフラフラになっていたので俺が(率先して)おんぶしてあげた。
全神経を背中へと集中し、マールのちっぱいの感触を味わおうと思ったけど、想像以上にマールはぴったりくっついて来て、顔なんかほっぺとほっぺが触れるじゃないかレベルで預けて来たので心臓が爆発して気付いたら宿だった(白目)。
ならば部屋でと思ったが、先程順番待ちしてる時にマールに言われた事とクエストの疲れも相まって、マールを寝袋に寝かせたら俺も力尽きて眠りについた。
夜中に誰かが『ありがとうございます』と言ってるような気がしたけど、疲れ切っていたので起きる気にはならなかった。
今回から前書きに前回のあらすじを分かりやすく書くようにしました。