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大吾とちっぱい天使①

この作品は『ちっぱい好きの、ちっぱい好きによる、ちっぱい好きの為の小説』です。




 ちっぱい、とは。


 ちっちゃいおっぱい、略してちっぱい。

 そしてその小さいお胸様をその身に宿す天使の象徴であるちっぱい女子。

 慎ましさこそが女性の魅力だと謳っていた偉人たちも最早過去の人物になった近代社会において、大和撫子みたいな大人しくお淑やかな女性は年々減り続けている事だろう。

 もちろん男女平等社会において女性が元気になることは大変喜ばしいことである。あるのだが。それにしても近年の女性は自己主張が激しすぎるとは思わないだろうか。

 特にそのはち切れんばかりに膨張した胸の主張が激しすぎる。

 それはもちろん女である最大の特徴でもあるし、そのダイナマイツなメロンヌを曝け出す事によって周りの男たちの視線も釘付けだろう。

 俺はその事を猥褻だの如何わしいだの思う事はない。

 しかし、だ。

 そんな巨乳女子たちが揃ってちっぱい女子たちを卑下するのはいかがなものだろうか?

 もしかすると自分はちっぱい女子よりも上にいる、などとあらぬ自己評価を抱いているのかもしれない。

 仮にそのような幻想を抱いているのだとしたら、俺は声を大にして言いたい。その考えは間違っている、と。

 最初に断っておくと俺は別に巨乳女子や巨乳好きを馬鹿にしようとは思っていない。好みは人それぞれだし、個人の自由だろう。しかし、だからと言ってちっぱいを卑下するような事はあってはならない。

 小があって大が映えるように、大があって小が映えるのだ。

 そう。だから俺は巨乳には感謝の気持ちすら覚えるのだ。彼女たちがいてくれるお陰で『ちっぱい』という広辞苑に載ってもおかしくない単語が生まれたのだから。

 ちっぱいと巨乳。それ即ち表裏一体。光と闇の関係なのである。

 なのに、なのに最近の漫画、アニメ、ドラマ、映画、どれを取っても胸の有り無しでいじられるちっぱい女子が多すぎるし、そもそも巨乳好きの主人公が多すぎる。

 男はいつの時代もバブみを求めている、と近代の賢者は謳っているが、とりあえず乳デカくしてりゃ何とかなるだろ的な風習はやめてもらいたい。いや、別に出てくる分には構わないのだが、頻度を抑えてほしい。

 と、まぁここまでそこそこ語ってきたが何が言いたいかと言うと。



 ちっぱいは正義。ちっぱいはステータス。



 これに尽きる程この俺、青木大吾は生粋のちっぱい好きなのである。

 だから全世界のちっぱい女子たちよ、安心してほしい。例え世間で評価されなくとも、例え全宇宙、全世界線でちっぱいが評価されなくても俺だけはちっぱいを愛し、その慎ましいお胸様にこの身を捧げると誓うのだから。



「あの、そろそろよろしいでしょうか?」



 そう言って俺の熱弁を邪魔しようとする女の子。名前はマール。天使だ。尊い存在とかの天使ではなく、本当の意味での天使。エンジェル。

 天使の輪に金髪ロング、いかにもな白のお召し物はその可愛らしい顔を一層引き立たせる。年はいくつなのかまでは分からないが、本当の幼さからは卒業している顔立ちをしている。

 背中には小さい白い羽が生えていて、そしてなにより――、ちっぱいだった。

「何ですか、今いいところなんですけど」

 取り敢えず年が分からないし、初対面なので敬語で話す。社会人の常識であった。

 俺はマール、マールさん? まぁ地の文はマールでいいか。そのマールにジト目をして答えると、お返しとばかりにマールもジト目で答えてくれた。あぁ、どんな時でもちっぱい女子は可愛い。

「あなたのちっぱ…ぃ、そ、その、胸に対する熱意は十分に伝わりました」

 ちっぱい、と気恥ずかしさからは言い淀んで頬を染めるちっぱい天使。まさに天使。

「マールさんも素晴らしいと思います」

「天使として、ですよね!? わたしの胸があなたの好みだからとかじゃないですよね!?」

「好みです」

「即答!?」

「自分の気持ちに嘘はつけません」

「無駄に格好いいですけど、よくよく考えてみたらそんな事ないですからね!?」

 ちっぱい天使に格好いいと言われてしまった。とっても嬉しい。ちなみに俺は他人の評価など全く気にしない我が道を行く人間なので、何を言われようが10tトラックに120キロで突っ込まれた衝撃しか受けない。致命傷である。むしろ即死。

 そしてマールは『コホン』と、咳をする。いちいち可愛いちっぱい天使なのであった。


「あなたは不慮の事故で若いながらもその短い一生を終えました。わたしの主君、創造神様よりお力を頂き異世界に転移させ、あなた本来の寿命まで命を全うさせよと仰せつかっております」


 そう。そうなのだ。

 さっきからどこだここと思っていたが、俺さっきまで自宅のパソコンで自作のちっぱいヒロインハーレム物の小説書いてたのに気づいたらここにいた。石タイルの床と木製の椅子が二個だけのよくわからん空間だ。

 おいおい冗談じゃないぞ。折角今降ってきてる最中で筆(指)も進んでるのに、早く帰ってパソコンに打ち込まないと忘れてしまうだろうが。小説の更新が遅れたら折角通ってくれている読者に申し訳ない。

 ――って、ん?

「マールさん」

「はい?」

「今、俺事故って」

「言いました」

「一生終えたって」

「終えました」

「寿命まで異世界で暮らせって」

「言いました」

「ちなみになんですけど、その世界にちっぱい女子っています?」

「本当にブレないですね、あなたは」

「大切な事です」

「えっと…、何を持ってその…、ち、ち…ぱぃ女子と指すのかはわたしには分かりませんが、わたしクラスの子ならたくさんいると思いますよ」

「すぐ行きます」

「躊躇いないですね!?」

 即断即決した。行かない手はない。

 異世界のちっぱい女子たちが俺を待っているのだから。

「ま、まぁわたしとしてはスムーズに事が運ぶのは嬉しいですからいいですけど、本当にいいんですか? こう言ってはなんですけど、創造神様は気まぐれで、これから行こうとする世界は生前あなたが住んでいた日本とは比べ物にならない弱肉強食の異世界です。大きいモンスターもいますし、強大な魔王だっています!」

 所謂ファンタジー世界ってやつだな。しかし。

「何だって構わない。そこにちっぱい女子がいるのなら」

「無駄に格好いい! 立派な登山家に見えてきました!」

「早く行きましょう! すぐ行きましょう! 早く早く早く!」 

「駄々っ子ですか! 立派な登山家のあなたはどこに行っちゃったんですか! それにちょっと待って下さい! 今のあなたがそのまま異世界に転移したら寿命を全うする前に即死しますよ!」

「なん…だと…?」

 それは聞き捨てならない。即死なんかしたらちっぱい女子に会えない。それは困る。なので少し落ち着こう。ちっぱい女子を数えるんだ。1マール、2マール、3マール、…よし、落ち着いた。

 するとマールは白いお召し物の胸元をごそごそし始め、そこから一枚のカードを取り出した。もう一度言う。マールのちっぱい胸元からカードを一枚取り出した。俺はカードになりたい。

「創造神様よりお力を頂いております。どんな願いでも一つだけ叶えて差し上げる力です。ただしよーく考えて下さいね? 一度決めてやっぱり辞めて違うのにしたいなんていうのは聞けな――」

「ちっぱいを司る神になりたい」

 即答した。マールが「…え」と表情を固まらせたが、言うか早いかカードは激しく光出し、その光は俺を包み込んでいく。

 おおおお! これはあれか! 今、正に俺がちっぱいの神になる為の力を授かっているのか!

 目の前のマールは口をふにゃふにゃな楕円形にして『あわわわ…』しているが、その顔を見ただけでもこの願いをした甲斐があった。後悔は微塵も無かった。慌てるちっぱい天使は可愛かった。

 暫くするとカードの光も俺を纏っている光も収まり始め、そして完全に無くなった。

 そこでようやくマールはハッっとして、

「あ、あなた何て願い事してるんですか! 取り消し出来ないって言う前に願い事言っちゃうなんて! しかもなんですか『ちっぱいを司る神』って! 力の神や智の神なら知ってますけどちっぱいって! ちっぱいの神って!」

 と、ちっぱい天使はあれだけ恥ずかしがって言い淀んでたちっぱいを連呼しながら俺の両肩を持ってガクガク揺らしていた。

「おおおお落ち着いて下さい。仮にも神になったっぽいのでこれで異世界でも一安心なのでは?」

 なんたって神様なんだもの。

 しかしマールは表情暗いまま頭を左右に振る。サラサラの金髪ロングが後に続いた。もしかして神でもワンパンされるレベルの異世界なのだろうか? そいつ禿げててマントしてないか?

「ご存じないかもしれませんが創造神様のような最高位の神様以外は皆、人々から崇拝の力を貰って力を付けているのです。あがめうやまれないといけないんです。信仰されないと力が出ないんです」

 マールは今にも消えそうな声で神の力の源を教えてくれた。

 正直どんな事を聞かされるのかと思ったけど恐れるに足りなかった。

「つまり人から崇拝されないとただの雑魚神って事ですよね?」

「そうです。崇拝者がいなくてもそこそこは戦えるかもしれませんが、せめてゴブリンレベルが精々でしょう」

「十分です」

「え?」

 そう。十分なのだ。

 崇拝者がいなければ雑魚。しかし逆を返せば、崇拝者がいればいるほど本当に神クラスの力が手に入るという事だ。

「新参の、それもちっぱいの神なんて誰が崇拝するんですか! 街中で『俺、今日からちっぱい教になったんだ』なんて人前で言えるメンタル持ってるのってあなたくらいですからね!?」

「大丈夫です。俺には分かります。言葉にしないまでも、世界はちっぱいを求めている。そして行く行くは国教となり、お金の単位になるんです」

「屋台でおばちゃんが『はいよー。1500ちっぱいねー』なんて言う国に誰が住みたがりますか! これだけは言わないでおこうと思いましたけど、頭おかしいんじゃないですか!」

 マールはぷりぷり怒っているが俺は構わず続ける。

「まず異世界へ行ったらご神体を造らないと。それにはモデルが必要か。男の俺がモデルになると男受けが良くないし、やはりここは王道の女神や天使――」

 チラリ、とマールを見る。

「……え? いやいや、え? わたしは行きませんよ? ちっぱい教が国教となる国になんてわたし行きたくありません。そもそもわたし創造神様の使いなだけで、神ではありませんから」

「ではちっぱい教ではなくマール教にしましょう。それならいいですね」

「名前の問題じゃないです! 天使と神じゃ全然違うんです!」

「もしマール教になれば、マールさんは女神様という事になりますね」

「女神!」

 パァァと笑顔満点で目を輝かせる。天使と女神で何が違うのか神話に疎い俺にはサッパリだが、マールは女神に強い憧れを持っているようだ。これを使わない手はないな(ゲス顔)。

「人々から崇め奉られるマールさん、見てみたいなー」

「人々から!?」

「皆こんなに可愛くて慎ましいご神体なら一日三回食前と夜食のついでに祈りを捧げることでしょう」

「四回も!?」

「突然舞い降りた新星マールは瞬く間に世界各国へ知れ渡り」

「先輩女神をごぼう抜き!?」

「俺はそんなマール教の最高司祭になりたい」

「既に熱狂的な崇拝者が!?」

 そして俺はトドメとばかりにニヤリと笑い―――


「女神マール様、どうか、どうかこの迷える子羊を、あなたさまの慎ましいお胸様でお導き下さい」


「しょうがないですね! そこまで言うなら行きましょう! わたしは女神ですから! 人々を導く女神ですから!」

 ―――天使を堕としたのだった。アホの子で助かった。



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