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私のわがままな異世界転移   作者: とみQ
ピスタの街編
88/1062

2-17

「――はっ? ……バカな……」


口から吐き捨てるような言葉が漏れた。

剣術の師匠。

それはつまり魔族が人間の世界に深く入り込んでいる事を意味する。

その三級魔族はヒストリアに侵攻するために向かったのではない。

単純に自身の本拠地へ帰還したということだ。

しかしそれでも良く分からない事がある。


「椎名……お前は何故無事でいられたのだ?」


椎名はその魔族を敵わないからと黙って見過ごしてここまで戻って来たのだろうか?

彼女の性格からそれは考えにくい。

仮にそうだとしてもそこまでの実力者に遭遇して無傷でいられるのか。

アリーシャも致命傷を受けはしたが命までは取られなかった。


「――あ……そういうことか……」


「なんとなく分かった?」


「うむ……大体察しはついた。要するに今我々と戦うつもりはなかったということか」


椎名は神妙ながら頷き肯定を示す。


「ご名答。要するにさ、魔族は私たちの今の力じゃ満足できないんですって。せめてこの街の魔族を全てやっつけて、力を上げて、ヒストリアに一回りも二回りも強くなった状態で戦いに来いってのよ」


「……」


やはりそうだ。あいつら魔族は私達で楽しんでいる。

そう思いながらいつかのグリアモールの顔が脳裏に浮かぶ。

やはり奴らは時間潰しの遊戯にでも興じているつもりなのか。

私達を自分達の退屈凌ぎの道具だとでも思っているのではないか。


「――あ」


「???」


ふと私はまたある事に気づく。椎名は今度は不思議そうに私の顔を見ていたが、私は今、正直生きた心地がしなかった。自分の侵した失敗に、どんどんと顔が青ざめていくのだ。


「隼人くん? 一体どうしたってのよ?」


私はこくりと唾を飲み込み、喉を鳴らす。

この後の彼女の気持ちを考えると、口の中がどうしようもなく乾いて仕方なかった。


「椎名、……工藤はどうしたのだ? 私達より先にここに向かったはずだが?」


「え――」


工藤という言葉を聞いて、予想通り椎名の顔色が変わる。


「……うそ……うそよ……」


椎名は戦慄き震えながらそのか細い両腕で自身の体を抱き、その場にしゃがみ込んだ。

と思うといきなり私の胸ぐらを掴み、いつになくすごい剣幕で私を睨みつけた。


「隼人くんっ! どうして工藤くんを一人にしたのっ!!」


「――っ」


「工藤くんがいなくなっちゃったのよ!? 多分魔族に連れ去られちゃったの! それに、フィリアさんは!? こんな敵地に彼らを一人にするなんて迂闊すぎるわよ!」


「……すまない」


椎名の言葉に私は黙ってうなだれる事しか出来なかった。

完全に迂闊だった。

皆をバラバラにしてしまった事は私の判断が招いた結果だ。

どうして敵がもっと強大であると考えなかったのか。

皆一緒に行動した方が危険が少ないのは火を見るより明らかではないか。

私の心に自分達の力に対する過信が無かったかと言えば嘘になる。

ここに来るまでの道中で魔物との戦いに於いて一度たりとも危うい場面などなかった。それで力を過信した。


「めぐみちゃんっ!」


食って掛かる椎名を見かねた美奈が間に入ってきた。

椎名は美奈の顔を見てハッと気づいたようになった。すると掴んだ腕の力は弱まり、そのまま私から離れた。

罰が悪そうに地面を見据え右手で左手の二の腕を強く握る椎名。


「……ごめん、隼人くん。こんなの皆の責任なはずなのに……責めるようなこと言って。私、バカだ。もっと冷静にならなきゃ」


「いや、いい。椎名は悪くない。謝って済む問題ではないかもしれないが、それでも謝らせてくれ」


椎名は首を振り暗く沈んだ表情を見せる。彼女のこんな姿を見るのは初めてだった。


「めぐみちゃん……」


そんな椎名を優しく抱き止める美奈。

椎名は泣いてこそいなかったが、とても辛そうで、見ている私も胸が苦しくなった。

一方で私は今回の事に微かな違和感を感じていた。

街が襲われている事が問題であるはずなのに、その問題を明らかに利用されている。

それに、この結果を得るためには幾つかの要因が必要なはず――。

何にせよ、色々とタイミングが良すぎるのだ。

改めて思う。

魔族は私達が思っている以上に周到に罠を仕掛けてきているのかもしれない。

その上で、私達を弄ぶように痛めつける事を楽しんでいるように思えた。


「椎名、すまないとは思うが、落ち込んでいる暇はない。先ずはこの街の状況を打破したい。力を貸してくれ」


抱き合い、慰め合う二人には悪いとは思いながらも、そう声を掛けた。

また椎名に睨まれるかもしれないと思ったが、彼女はすぐに美奈から離れ、パンッと自身の頬を張った。


「ええもちろん! やってやろうじゃない!」


その瞬間、いつもの明るく元気な椎名がもう目の前にはいたのだ。

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