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私のわがままな異世界転移   作者: とみQ
第7章 『想い』は誰にだってあるから
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体の至る所から盛大な血飛沫を上げるドリアード。

それを悲壮な面持ちで必死に支えるメル。


「がああああっっ!!」


彼の名を幾度となく叫ぶが、その声は彼の身体から発せられる飛沫の音とドリアード自身の痛みによる呻きに欠き消された。それが今の状況の悲壮さを一層際立たせるのだ。

ドリアードの体は一度回復したものの、すぐに再びの消失を始めていた。


「ドリアード……そんな……」


美奈も凄惨なこの状況を見て、しかもそれを自分自身が作り出したことに絶望的な心持ちになる。

無情にも再び足先から足首、足首から(すね)へとドリアードの体は再び崩壊を始め、徐々に(ちり)と化していく。


「ぬ……ぐううう……」


「ドリアードッ! ドリアードッ!」


悲痛な叫びが教会に木霊するが、ただ虚しさと悲壮感を増していくだけ。

あっという間に血は枯れ、ドリアードの身体は、いや、ドリアードの片鱗はメルに抱かれて最後の時を迎えようとしていた。


「メ……ル」


微かな呟きがやけに大きく部屋に響き、ドリアードを形成する全ては教会の空気の中へ吸い込まれるように消えていった。


「……ドリアード……ごめんなさい……」


唇を震わせながら美奈はただ謝ることしかできなかった。

自身の体調を顧みず、残ったマインドを振り絞り、完全にドリアードの身体を元に戻すまでに至った。

なのにその直後、彼は身体中から血液を噴き出させ、ほんの数秒後には欠片も残らず消え失せた。

あまりにも呆気ない、あっという間の出来事。

美奈の行動は全くの徒労のものと成り果てた。

流石の美奈も失望と大きすぎる疲労を隠しきれず、その場に膝をついた。


「ヒッ、ヒヒヒッ……」


「あなたはっ!?」


だが、そんな悲しみに暮れる間も無く再びの災厄が忍び寄る。

声に振り向けば、今まで姿を眩ませていたもう一人の魔族、サマエルの姿。

相変わらず蒼白で怯えた表情をしているが、先程までと違い、その瞳に淡い輝きと重々しい空気を讃え、息苦しさを感じずにはいられなかった。

このサマエルという男、先程までとはまるで別人のようである。


「な……何なのですか? この男の圧は?」


フィリアもそれを敏感に肌で感じ取り、ねっとり身体が汗ばんでいくのを止められなかった。


「ヒヒヒッ。ボ、ボクは勝ち目の薄い勝負はしない主義なんだ! ゆ、勇者もそろそろ限界みたいだからさっ!」


「く……」


サマエルの言う通り、美奈もとうに限界を通り越していた。

膝立ちの状態から疲労で立ち上がることが出来ない。

身体がどうやってもいうことをきかないのだ。

それでも気絶しなかっただけでもその忍耐力に称賛を贈りたい。

メルに負わされた傷が塞がらないままの精霊魔法の行使によるマインドの枯渇。

血の気も失せて戦う力など欠片も残されてはいないのだ。


「フ……フフッ! か、帰ろうと思ったけど、な、なんかみんな死にそうだから! ボクが止めを刺してあげようと思ってさっ! ひひっ!」


今までの弱気な印象は残るものの、この有利な状況に瞳をギラつかせながら下卑た笑みを浮かべている。

開いた口から覗く獣染みた幾本もの犬歯が、彼の笑い顔を一層気持ち悪く見せた。


「ひひひっ……」


次の瞬間彼の体は目の前から消え失せる。


「うあっ!? ……ううっ……」


途端に後ろから少女の呻きが耳に届く。


「メルちゃんっ……くう……」


見やればサマエルは茫然自失だったメルの首を絞め、頭上高くに持ち上げていた。

美奈は自身を貫く刺すような痛みに悶えながら、それを黙って見ていることしかできないでいたのだ。

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