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私のわがままな異世界転移   作者: とみQ
第6章 それでも私たちは抗い続ける
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メルの雪のように白い肌がどんどんと灰色へと染まっていく。更には滑らかで柔らかそうな質感だったものが、ざらつきを帯びて、硬質化していく。

じわじわと感覚が失われ固まっていく現象は、子供には受け入れ難く、その心を恐怖の色に染めていった。


「い……いやあっ……」


恐怖の感情を一度抱いてしまうと最早歯止めが効かない。

胴体までもがあっという間に固まり、メルの体は自身の力で動かせなくなった。


「か……は……」


遂には肺が機能を停止し、呼吸もままならなくなる。

死というものはどういうものなのかは全く分からないが、おそらくこういう事なんだろうと子供ながらに悟ったような気分になる。

ぼんやりと視界が滲み、それが石化により視力が衰えたからなのか、それとも溢れる涙のせいなのかおそらくその両方なのだと思う。

最期の時に思い出すのはやはりドリアードの事。

死を覚悟した人間は、過去の大切な部分を思い出すという。

それは過去にあった出来事から、今を乗り切る方法はないかと身体が発する生存本能というやつらしい。

こんな絶体絶命の瞬間にメルの脳裏に浮かぶ数々の出来事。その全てにドリアードは登場しているのだった。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


メルは生まれて間もなくこの街に捨てられた、らしい。

物心つく前にドリアードに聞かされていたのだ。

だが幼いメルにとってはそんな事はどうでも良かった。

ただ毎日生きれるだけの食事をくれて、無口ではあるがいつも側にいてくれる彼がいるだけで十分だったから。

周りに比べる対象があれば違っていたのかもしれない。

だが自分の周りにいる子供たちと言えばスラムの子供たちくらいのものだ。

彼らは親もなく、子供だけで互いに支え合いその日暮らしで生きている者たちだ。

彼らを近くで見ていたメルは、自身が恵まれている環境下で育っていると思えていたのだった。

そんな自分が親がいないと聞かされようが、そんなことは些末なこと。

自身の側に物心ついた頃からいてくれたこのドリアードの存在が彼女の中では何よりも大きかったのだ。


「あたしはドリアードがいるもん! 一人じゃないもん! これからもずっと一緒にいてくれるよねっ!?」


そう問うと、ドリアードは目を丸くして数秒の間自分の顔を見て、結局何も言わなかった。

それからいつも無口だったドリアードは一層無口になってしまったのだ。


「今日から戦い方を教える」


メルが五歳になった頃。

ドリアードは突然そんな事を言い出した。

理由を聞いたら自分を守るためだとドリアードは答えた。

メルはスラムの子供たちの間では煙たがられていた。

子供たちからすれば恵まれた環境にいる者に対する嫉妬から来る行動だったのだろう。

実際メルはいじめられていたのだ。

教会に帰ると痣を作ってくることもあった。

そんなだったのにメルはドリアードを心配させまいといつも彼の前ではとびきりの笑顔を作るのだ。

最初からバレていたのかと思った。

だからそんな事を言うのだと。

だがメルは素直に嬉しかった。

ドリアードが自分に何かを教えてくれるということは彼女にとって喜ばしいことだったのだ。

それに戦いを覚える事によって、ドリアードが喜んでくれるのではないかとも思ったのだ。


「うんっ! 教えてドリアード!」


メルは屈託の無い笑顔でそう答えた。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


ドリアードの教えは厳しかった。

擦り傷を作るなど日常茶飯事だ。

寧ろいじめを受けるよりも肉体的苦痛は圧倒的に増えていた。

だがメルはそれでも良かった。楽しかったのだ。

普段から無口で、自分にはあまり興味を示さないドリアードが自分の方を常に向いてくれている気がしたのだ。

それに教えも適切で、メルはどんどんドリアードの言うことを吸収していった。

元々格闘センスも悪くはなかったのだ。

そんなメルはスラムの子供たちよりもすぐに強くなった。

メルに敵わないと悟ると彼らはメルには手出しすることはなくなった。

その事を話せばドリアードは喜んでくれるかもしれない。

メルは子供心にそう思った。

スラムの子供たちを殴り飛ばした日、嬉々としてメルはドリアードに話してみた。

だが結果はドリアードからの「そうか」というたった一言の呟きしか帰ってこなかったのだ。

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