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私のわがままな異世界転移   作者: とみQ
第6章 それでも私たちは抗い続ける
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「ぐっ……、むうう……」


苦しそうに顔を歪めながら後退るドリアード。

胸の辺りから真横に走った線から鮮血が滴る。

そして次の瞬間ぶしゅっ、と血が吹き出す音と共に体がふらついた。地に膝を着きそうになるのをドリアードは既のところで堪えた。

アリーシャは荒い息を吐きながら、そんなドリアードから目だけは逸らさないようにしていた。

アリーシャも限界以上の力を出しきり満身創痍なのだ。

分不相応な力を使い続け、体が無事で済むはずもない。

心臓が激しく脈打ち、体のあちこちが痛みと共に軋んだ。

剣を持つ手が震え、目の前はチカチカと明滅してしまっている。


「ドリアード。これ以上続けるつもりか」


アリーシャは何とか意識を保ちながら、限界を悟られないよう平然と言葉を発した。


「ふっ……続けるつもりか、だと?」


ドリアードはここへきて尚も挑戦的な笑みを浮かべて見せた。

それにアリーシャは戦慄するも、問いかけた瞬間からそんな気はしていた。

ドリアードの周りに突如として凄まじいオーラが(ほとばし)った。

オーラの奔流で思わず目を覆いたくなるような光量と突風が巻き起こる。

そしてそのオーラは花火のように徐々に小さくなっていき、やがて元の状態に戻ったのだ。

アリーシャは直感する。

これは只では済まないと。


「これで最後だ、アリーシャよ。お前の最強の技で来い」


ドリアードに言われるまでもなく。アリーシャは既に自身の全身全霊をぶつけるつもりだ。

いつしか体の重さや倦怠感は薄れていた。

極限まで集中し、アドレナリンの分泌がアリーシャの身体を再び戦える状態へと押しやったのだ。

アリーシャは静かに魔法の詠唱に入った。


「我が身から創造されし闇のマナよ」


アリーシャの心に魔力の渦が生まれる。

それは黒くて(くら)い、彼女の闇の部分から生み出された産物だ。


「我が心の箍を解き放ち 深淵の闇を落とせ」


その闇が身体を覆いつくし、まるで闇の衣を纏ったようにアリーシャの周りを漂う。


「黒く 黒く 染められた闇は全てを無に還す」


真っ黒な闇がはっきりと球体を形作り、アリーシャの身体をブラックホールのように呑み込んでしまう。

更に魔法がまるで意思を持つ生き物かのように、アリーシャの心までも覆い尽くさんと蝕み始めた。

以前も三節目の詠唱を終えてアリーシャの心はその黒い魔力に持っていかれそうになった。

今も凄まじい重圧がアリーシャの心にのし掛かってきて、その黒い塊に押し潰されそうになる。

しかしアリーシャは今回ライラの剣を所持してこの魔法を詠唱している。

ライラの剣はアリーシャの身体から放たれる闇魔法に反応してその魔石に闇の魔力を吸収し始めた。

アリーシャが闇の魔力に囚われる前にライラの剣が魔力を吸い上げていく。

詠唱している側からアリーシャの心が軽くなっていく。


「悠久の理を越えて 神々さえも呑み込んで!」


アリーシャは猛々しく叫んだ。そしてそのまま情動の赴くままに、一気に闇魔法の詠唱を完成させた。

力ある言葉と共に、内に溜めた魔力の囲いを外に向けて解き放つ。


「ダークシャドウ・プロビデンス!!」


深い深い深淵の闇の発現となる筈だった闇の高位魔法は瞬く間にライラの剣の魔石へとその全てを吸い込まれた。

そして一瞬の静寂の後、今度はその空間の全てを白く塗り替える程の光が出現した。


「なっ!?」


術者であるアリーシャすらも予想以上の光量に一瞬目が眩んでしまいそうになる。

以前この魔法を発動した時の数倍の光量が目の前に発現したのだ。

感応増幅。

今回ドリアードが生成したライラの剣の魔石は、以前の魔石の更に上位に位置する魔石である。

そうなった事により、もちろん以前よりもより大きな魔力にも耐えられるようになっている。

更に秀逸なことにドリアードは魔石にある仕掛けを施したのだ。

それは吸収した魔力を反転させ、更にその魔力を増幅させるというものだ。

結果的にこのことがドリアードの首を絞めることになった。

だがそんなことはどうでもいいのだ。

ドリアードはより一層至極の笑みを浮かべていた。

そして満足げに頷くと剣を正中に構えた。


「行くぞ!ドリアードォッ!」


アリーシャの叫びと共に二人が互いに前に出る。

恐らく決着は一瞬。


「風林火山!」


「終の秘剣、徒花」


瞬間、二人の世界から音が消えた。

一切のノイズが取り払われ、目の前にはただただ黒と白のコントラストが広がるばかり。

二つの色の中に少しの捻れを残してやがて離れた。

捻れはやがて大きな津波のような光の奔流となり、その全てが片方へと降り注いだのだ。

かくして勝敗は決した。

だが、互いに全ての力を出し切った二人は同時にその場に崩折れたのだった。

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