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私のわがままな異世界転移   作者: とみQ
第6章 それでも私たちは抗い続ける
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「な……に?」


あんなに怯えていたメルであったが、メデューサの言葉を受けてあろうことか思いきり反発を示したのだ。

これにはメデューサも目を見開いた。

今の今まで恐怖と絶望に打ちひしがれていた子供が、瞳に輝きを宿して奮い起ってきたのだから。


「ククク……あいつは魔族なんだよ。魔族が人を守るなんてことがあるわけないだろう」


「例え魔族でも、ドリアードはドリアードだもん! ドリアードのこと、悪く言うの……許さない!」


「ぐっ!?」


突然メルの目の色が瑠璃色に輝いた。

それと同時に教会の中の空気が一変したようにすら感じられた。

そのままメルはなんと自力でメデューサの束縛から逃れ大きく跳躍。そのまま斜め後ろに跳んでくるくると回転しながら着地したのだ。

まだ幼いとはいえ流石獣人というところか。大した身体能力だ。

小さな体からうっすらと煙のようなものを立ち昇らせきらりと輝いた瞳でメデューサを見据えていた。

体にも少し変化が見える。

爪が数センチ伸び、先が鋭利に尖っていて、口の端からは犬歯が異常発達し、二本の牙を覗かせた。

この変化は獣人であれば不思議なことではない。

彼らの種族特有の戦いにおける変化、バトルスタイルというやつだ。

大人になればまさしく獣そのもののように変体する事も可能なのだが、メルの年だとこれが限界か。

メルは身を低くしながらメデューサを睨みつける。

興奮気味に薄く開いた口からフーフーと荒い息を(こぼ)した。

大人顔負けの殺気を周囲に撒き散らし、かと思えば不意に忽然とその場から姿を消したのだ。


「何!?」


上級魔族であるメデューサの目を以てしてもメルの姿を見失う。

単純に油断していたのもあるが、それ程に獣人のスピードは常軌を逸しているのだ。

呆けたメデューサの横っ面目掛けてメルの渾身の横凪ぎの蹴りが炸裂した。


「がはっ!」


そのままメデューサの体は宙を舞い、数メートル吹き飛んで壁に激突。そのまま壁を突き抜けて外まで飛ぶ。更に向こう側の建物にまで転がっていった。

突然できた大穴から射し込む光はもう殆どない。

段々と日は暮れ、夜の帳が下り始めているのだ。

暗がりの中で立ち上がるメデューサのその揺らめきが、受けたダメージによるものなのか。それとも怒りに打ち震えているからなのか。

メルのいる場所からはよく確認できなかった。

それでも暗闇の中で青く光り輝くその瞳は酷く不気味な様相を呈していた。


「このガキが……よくもやってくれたねえ……あたしにこんな屈辱を与えたガキはあんたが始めてだよ……」


静かな語り口調でありながら、その形相は怒りに打ち震えている。

額に浮き出た血管が今にも破裂しそうな程に頭に血が昇っている。


「こなクソガキがあっ!! 舐めるなあっ!!」


激しく叫び声を上げ、メデューサはメルへと駆け出した。


「うるさいっ!」


これ程までに怒りを(あらわ)にするメデューサに対し、メルは果敢にも真っ向から立ち向かっていった。

今の彼女は一種のトランス状態、上位魔族と言えど臆することなどない。

またそれが最高のパフォーマンスを出す結果となるのだ。

駆けながら握りしめられたメルの小さな拳に光が宿る。瞳の輝きは燦然たる力を宿していた。


「猛虎! 破砕!」


メデューサの撃ち出した拳に合わせてメルの必殺の一撃が炸裂。

その拳はインパクトの瞬間弾け、なんとメデューサの右手の肘から下を吹き飛ばした。

物理攻撃が効かない魔族。メデューサも完全に油断していた。

思いもよらぬ衝撃にメデューサは大きく顔を歪め、仰け反った。


「ぎゃあああああああっっっっっっ!!! なっ……なんだとおぉぉぉぉっっっ!!!」


子供だと完全に侮っていたメデューサ。

まさか魔族である自分の体が打ち砕かれようとは夢にも思っていなかったのだ。

更に追い打ちを掛けるメル。

二発目を今度はその胴体に撃ち込むべく一気に距離を詰めた。


「このガキがあっ!」


だがそう簡単にやらせるわけもない。

メデューサの髪が変化し、無数の蛇となってメルに迫る。

その幾つかを避けはしたが、全てをかわしきる事は叶わなかった。

内の一本の(あぎと)がメルの(すね)にかぶりつく。

途端にその場所から体が石へと変化していく。


「あっ!? ……だめえ……」


石になっていく体を目の当たりにしてメルのトランス状態も切れた。

酷く動揺し、メルの目からはぽろぽろと涙が零れ落ちた。


「い、いやあ……」


こうなればもうなす術はない。

怯えるメルの下半身はあっという間に石となる。

それにより獣人としての機動力は失われ、メルはその場から動けなくなった。


「てこずらせやがって! ガキがっ! ハハッ、いい様だよ」


それを見て取り勝ちを確信。

それでも自身の腕を破壊されたのだ。

いつものような愉悦の瞬間、という気分にはなれなかった。


「あ……ドリ……アー……」


やがてメルの涙までもが石となり、カランコロンと硬い音を響かせて地に転がった。


「ちいっ! 手こずらせやがって!」


悪態を吐くメデューサ。

再び教会内には静けさが戻り、冷ややかな空気に包まれたのだ。


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