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私のわがままな異世界転移   作者: とみQ
第6章 それでも私たちは抗い続ける
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幾つもの剣閃が空間を舞い踊る三日月のように(きら)めいていた。

不思議だ。剣を振るう度に自身の体が軽くなっていく。

先程まで重苦しく見えたコバルトブルーの鎧が嘘のように体に馴染み、真綿を纏っているかのようだ。

自身の剣閃は、太刀を重ねる度にどんどんと疾く洗練されていく。

アリーシャはこの変化に戸惑いながらも、戦いに身を投じる中で確かな高揚を感じていた。

この強さは決して気のせいではない。

現にドリアードはその疾さに、先程から後退を強いられているのだ。

ライラの剣。

咄嗟に口をついて出た剣の名前。

鈍色(にびいろ)の輝きを放ち続けるその剣からは、消耗したアリーシャに活力を流し込んでくるようだ。

まるでそれはライラがアリーシャの身体を使って手解きをしているような、そんな現象にすら思えた。

だがドリアードも剣の達人。

しかもライラの師である立場。

如何にアリーシャの剣が鋭く疾くとも、次第に慣れ始める。

アリーシャの昇華された動きに対応し、彼女の力量を叩き込み、更新していく。

アリーシャ自身がそうであるように。

ドリアードが焦りを見せたのは結局ほんの束の間。数度の斬り結びのみ。

彼は徐々に余裕を取り戻し、流麗な動きでアリーシャの剣を往なし始めた。


「戦いは……これからだ」


「……っ」


アリーシャが横薙ぎの一閃を放った瞬間。遂にドリアードが受け一辺倒だった所から攻撃に転じ始める。


「秘剣、(ほむら)


身を翻し、静かに技の名前を告げる。

直後ドリアードの姿がまるで蜃気楼のように、うっすらと半透明になった。

それによりアリーシャは彼の居場所を見失う。

戸惑いほんの一秒にも満たない間、体が硬直したのだ。

その刹那的な時間の中で、それは大きな隙となり、ドリアードに反撃の糸口を与えてしまう。

気づけばドリアードの剣閃が、アリーシャの喉元へと伸びている。この程度の隙がこれほどまでに大きな反動を生んだのだ。

だがそれでもアリーシャは全く動じなかった。

頭はいつになく鮮明に機能している。

いや、体が、剣が勝手に反応しているのかもしれない。

とにかくアリーシャは集中していた。

ドリアードの不可避とも思えるその技に瞬時に対応してみせたのだ。

ライラの剣がアリーシャの意思に呼応するように燦然たる輝きを放つ。


「ヒストリア流剣技、山!」


アリーシャの周りに半径二メートルほどの絶対領域が形成される。

この時アリーシャは自然と目を閉じていた。


「っ!! そこだっ!!」


列泊の気合いと共にアリーシャが反応したのは自身の斜め後ろ。

考えるよりも先に自身に迫りくる僅かな殺気に体が反応したのだ。


「ちいっ!!」


アリーシャの剣を弾いたドリアードの顔が歪む。

剣の達人のドリアードと言えど、遂にアリーシャの反応速度と剣の重さに舌を巻いた。

これほどまでに短時間で人は成長するものなのか。

確かに手ほどきをしたのはドリアード自身だ。

だが実際これ程の実力を目の当たりにして正直戸惑わずにはいられない。

ドリアードは笑った。


「ククク……アリーシャあっ!! いいぞ! もっと! もっとだ!! 私に力の全てを見せてみろ!!」


高らかにそう叫びながらドリアードは渾身の太刀をアリーシャへと浴びせるのだ。

アリーシャはそんな最中、更なる成長を遂げていく。

ここにきてヒストリア流剣技の真骨頂を発揮し始めた。


「ヒストリア流剣技、風!」


「っ!!?」


ヒストリア流剣術最速の剣がドリアードの太刀を悠然と(くぐ)り抜けた。

そのまま今度はアリーシャの剣がドリアードの喉元へと迫る。

如何に一流の剣士と言えどもこのスピードの剣閃を往なすのは不可能だ。


「ふんっ!」


しかし相手は超一流の剣士。

ドリアードは再び笑う。


「秘剣、陽炎(かげろう)


ドリアードの姿が目の前で幾重にもぶれた。

そのままアリーシャの剣は空を斬り、追いすがるようにドリアードの太刀が放たれる。

剣閃が幾重にも見えて、どれが本物なのか見極める事が出来ない。

その全てが恐ろしく重く疾い太刀に見えてアリーシャは眉根を寄せ、歯を食い縛る。


「ああああっ!! ヒストリア流剣技、火!」


どれが本物か分からなければその全てを迎撃してしまえばいい。

アリーシャは退がりながら放った剛の剣の一振りで、その全ての太刀を塞いで見せた。

結果全ての剣閃は本物で、だがアリーシャの見事なまでのたったの一太刀で瞬く間に消え失せたのだ。


「ぬうっ!」


流石のドリアードもこれには驚愕の表情を見せた。

かつて自分の剣に、しかも初見でこれ程まで見事に対応して見せた剣士がいただろうか。

先程までの圧倒的な力の差が嘘のようだ。


「中々に……強い」


ドリアードは心の何処かに自分の不利を自覚し始めながら、それでも満足気で、それでいて嬉しそうな笑みを浮かべた。

やはり生粋の剣士、自身の身に危険が振り掛かれば掛かる程に闘志が湧き立つのである。


「ならばこれはどうだ……」


何度目になるのか。

再びの技の応酬。ドリアードの体がふとその場に留まり、その体が左右に扇を描いて広がっていった。

アリーシャの目には幾重にも残像が移り、ドリアードの姿が十数人に見える。

やがてアリーシャの周りに一定の距離を保ち円の軌道を描きながら徐々に近づいてきた。


「秘剣、陽炎の舞」


ドリアードの技の多彩さには舌を巻く。

次から次に様々な技を放ってくるのだ。

幾重にも張り巡らされた防衛線を全て突破しなければ勝機はないと思わせてくる。

かなり戦い慣れしている。

それでもアリーシャの心は冷静であった。

まるでいつも冷静沈着なライラのように、何があっても全く動じず、涼しい顔をして障害を乗り越えていく。

アリーシャは次なる技を選択した。


「ヒストリア流剣技、風」


アリーシャの剣速が再び爆発的な加速度を得てドリアードの陽炎を迎撃していく。

そのどれもが微かな手応えと共に消失していく。

目の前にいるドリアードが全て半実体であるようだ。

本体程の存在感は無いが、実体でもある。

つまり、その全てを迎撃しない限り技の終わりは来ないという事だ。


「終わりだ」


ドリアードの分身の一つが死角からアリーシャを捉えた。

当然アリーシャの技の隙を突いた一撃。

今までのアリーシャならば到底かわしえない一撃。

だがそれでもドリアードの剣がアリーシャに触れる事はなかった。


「ヒストリア流剣技、林」


互いの技の応酬、化かし合い。

アリーシャはその動きすらも読んでいたかのように、忽然とドリアードの目の前から消えてみせた。

ドリアードは一瞬彼女を完全に見失う。

剣も虚しく空を斬った。

当のアリーシャは。ふと顔を上げると自身の斜め前方に移動していた。

フォンフォンと風切り音を響かせながら、アリーシャは手にした剣を鞘にしまう。

チンという小気味良い音が響き渡った。その直後のことだ。

ドリアードの身体に衝撃が駆け抜け、胸に一筋の剣線が走ったのである。


「がっ……は……」


口から血反吐を吐き、ドリアードはガクガクと両の足を震わせた。

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