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私のわがままな異世界転移   作者: とみQ
第6章 それでも私たちは抗い続ける
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「……あんたはさっきの」


美奈の隣にいるアルテに目を向け、メデューサがそうこぼす。

アルテは彼女に目を向けられ一瞬言葉に詰まった。


「僕の仲間や他の石にされた人々を治してもらうよ!」


それでもアルテは気丈に振る舞う。

一時のような憔悴しきった雰囲気は何とか消せてはいた。

だがそんなアルテを見てメデューサはニヤリと不敵に笑うのだ。


「へえ……。強がっちゃって、まあ……ククク」


「……」


メデューサは魔族である。

魔族は自身の周りの者達が発する怒りや憎しみ、哀しみといったいわゆる負の感情に敏感なのだ。

よってこのアルテの一見強気な発言が、ただ単に自身を鼓舞するために放っているのだと気づいてしまう。

そしてそれが分かると自然と顔も綻んでしまうのだ。

メデューサにとって、魔族にとって、人の不幸や負の感情ほど愉悦に心踊らせるものはないのだから。


「あれは、やっぱりメデューサ……」


「ミナ様はメデューサを知っているのですか?」


ぽそりとこぼした美奈の呟きに、フィリアは怪訝な顔を向けたら。

アルテは自ら美奈に前もって話していたので特に驚きはしないが、まるで端から知っていたかのような口振りがフィリアからすれば違和感として映ったのだ。

美奈はフィリアの視線を受けつつ、眉根を寄せて首を傾げた。


「えっと……知っているっていうか、私たちの世界では有名な悪魔っていうか……」


「そうなのですか?」


「あ、うん」


メデューサといえば美奈達の世界では有名な悪魔。

最初アルテの話を聞いた時に美奈の脳裏には真っ先にこのメデューサの姿が浮かんでいた。

そして今実際目の当たりにして、想像していたものと姿形が合いすぎていたのだ。

それは以前戦ったケルベロスも同様であった。

だが、だからといってどうなるものでも無い。

それが戦いの役に立つかと言われれば、そうでもないのだ。

結局美奈の知識もその姿形と石化の能力を持つということくらいなのだから。


「おいっ! ごちゃごちゃ喋ってんじゃないよ!」


メデューサが不機嫌そうに声を荒げた。

自分のことを喋りつつ、相手にされないことに少し気が立ったようだ。

改めて三人はメデューサの方を向き、身構えた。

そんな三人の様子を舌を出し入れしながら眺めている。


「ククク……勇者って言ってもその氷の嬢ちゃんと変わらず弱そうだねえ。先にあんたの仲間を葬って気を逆撫でしてやろうと思ってたけれど、まとめて相手をしてもどうってことはなさそうだ」


「ミナ様、気をつけてください。あの魔族は石化の能力だけでなく、その身のこなしもかなりのものです」


「うん、分かった。用心するよ」


「……ククク。用心するだけで何とかなるもんかいっ! キシャアアアッ!!」


メデューサは吠えた。

蛇のように軋むような金切り声を上げて、自身のそのロープのような太さの髪を蛇に変え、一斉に襲い掛からせてきた。

その数ざっと百以上。


「っ!!?」


三人は戦慄した。

美奈、アルテ、フィリアは皆、体術に長けているメンバーでは無い。

寧ろ常人とほぼ変わらないと言えるだろう。

そんな彼らにこの無数の鞭のようにしなる攻撃を掻い潜れるわけがないのだ。

一瞬にして目前に迫る蛇の群れ。

それを避けるのはもう不可能かに思われた。


「タイムトラベラー・リバース!」


美奈は自身の精霊の能力を開放。

すると目の前まで迫っていた無数の蛇の時間が戻される。

全ての蛇はメデューサの元へと戻り、元の髪へと変化したのだ。


「……!? な、何だいっ!? あたしの髪が!?」


「サーペントブリーズ!」


その隙を逃さず今度はフィリアが攻勢に出た。

美奈のこの挙動を予測していたから自身は氷を練ることに集中できたのだ。

氷の蛇は息つく間もなく、もうメデューサの目前まで迫っていた。

これではサーペントブリーズを石化させる暇もないはずだ。

ここまで一緒に旅をしてきたからこそ成せる鮮やかな連携であった。


「ちいぃっっ!!」


舌打ちしつつ身を翻すメデューサ。

だが避けきることは叶わず、その肩口を氷の蛇が掠め取った。

メデューサの肩はみるみる内に凍傷のように白んで左手の動きを鈍らせた。

ダメージはそう重くはないが彼女のプライドを傷つけるには十分である。

メデューサは顔をしかめ、眉間に皺を寄せた。

彼女が初めて愉悦以外の表情を浮かべた瞬間であった。


「……弱そうに見えてもやっぱり勇者ってことかいっ! ちいっ! 面倒な技だっ」


一瞬怯み、イラついたかに見えた。

だがそれでも次の瞬間にはメデューサは再びその表情を弛ませた。

それだけ彼女にはまだ余力があるということだ。


「ヒヒ……まあいい。続きといこうじゃないか」


そう言ってメデューサは静かに目を閉じた。

そして瞬間的に意識を集中させたかと思うとゆっくりと目を開く。


「ゴルゴンゾールアイ」


力ある言葉と共に彼女の瞳が赤く怪しい光を放つ。

そして彼女自身からゴワリと一陣の風が吹いた。

といってもそこまで強い風ではない。緩やかなそよ風とも呼べる程度のものである。

そのまま風は三人の横を通り過ぎた。


「うっ……あ、あ」


「フィリア!?」


するとその途端、フィリアの体が急に石化を始める。

美奈とアルテの体は何とも無かった。

だがどういうわけかフィリアだけが石になっていくのだ。


「待って! 今……」


「サマエル!!」


「ヒイィィィィィィィッ!!」


フィリアに気を向けた瞬間メデューサの声がして再びメデューサに注意を向ける。

だがそこにはもうメデューサの姿は無く、代わりに美奈の左足に衝撃が生まれた。


「……っ!」


足にはメデューサの髪から生まれた蛇が食いついており、そこから石化が始まっていく。


「ミナッ!」


アルテが美奈に食いついた蛇に短刀で斬りつける。分かたれた蛇の頭を引き剥がすがもう石化は止められないようであった。


「くっ……! タイムトラベラー・リバース!」


「させないよっ!」


自身とフィリアの時間を巻き戻し、石化を解除しようとするが、すぐに次の攻撃が放たれ、今度はそれが美奈の腹部へと噛みついた。

元に戻った体は側から石化を開始していく。

フィリアもそれは同様で、戻った側から噛みつかれ体を石へと変えていく。

そんな中、アルテだけは何とかその攻撃を掻い潜った。

彼は一度後方へ下がり、魔族からは距離を置いて弓をつがえた。


「食らえっ!」


放たれた矢はメデューサの脳天を見事に撃ち抜いた。


「何だって!?」


だがアルテは目の前で起こったことに驚愕の声を上げた。


「フン……そんな攻撃、魔族に効くわけがないだろう?」


メデューサの頭に突き刺さった矢はするりと地面に落ちたのだ。

矢は二度三度跳ねて、教会に渇いた音を響かせた。


「くっ……タイムトラベラー・リバース!」


アルテの攻撃など無かったかのように波状攻撃は続いている。

美奈は石化を止めるべく時間を戻すしか術が無かった。


「ククク……どこまで持つんだろうねえ」


メデューサは三人の様子を見て不敵に(わら)う。

石化した箇所の時間を美奈が戻し、メデューサがまな二人の体に食らいつく。そして再び石化していく。

そんなルーティーンが続いてしまっていたのだ。

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