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私のわがままな異世界転移   作者: とみQ
第6章 それでも私たちは抗い続ける
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「お姉ちゃん……あの人たち……なんかおかしいよ?」


子供ながらに目の前の者達の異常さを感じ取ったのだろう。

メルは震える声でそう呟いた。

フィリアはそんなメルの両の拳をそっと包み込んだ。


「メルちゃん、奥に籠っていてください。そこから出てこないで」


異様な気配を察したメル。

彼女は無言で頷くとそのまま奥の部屋へと身を隠した。

そんなメルの姿を確認しつつ、フィリアはメルが逃げ込んだ部屋の扉の前に、インソムニア城で貰ったルビーワンドを突き立て力ある言葉を唱えた。


「バリア!」


無詠唱から発せられたこの魔法。

これは周りの物理的な攻撃から対象を守る魔法である。

相手が魔族である場合、この障壁は意味を成さない。

それを分かっているフィリアだから、無詠唱からの簡易なものに止めた。

念のため、というやつである。

そして更にもう一重、フィリアの能力による障壁を展開させる。


「ブリーズ・ウォール!」


フィリアのマインドが込められた氷の障壁。

これならばいくら魔族といえど、用意には突破できないとフィリアは考えた。

メルを守る、二つの障壁。

これで少しは自分自身、魔族との戦いに集中できるはずだ。

フィリアの能力。

それはかなり特殊なものであった。

普通の人ならばあり得ない能力だ。

以前ヒストリアでポセイドンという魔族に体を乗っ取られていた彼女。

だが仲間達の奮戦で見事、彼女の中のポセイドンだけを倒すという荒業を成功させた。

その際に彼女の中にポセイドンの能力片が残ったのだ。

これを奇跡と呼ぶのか、それともそれが必然だったのか。そんなことは分からない。

だがそれによってポセイドンが使っていた水と氷の能力のうち、氷の能力が使えるようになったのだ。

だが水の能力は残らなかった。

それは能力の相性なのか、ポセイドンを倒した結果彼の能力のほとんどが消えたためなのか、詳しい所は分からないが、とにかくフィリアが使えるのはポセイドンの使っていた氷の能力のみ。

だが当然それは魔族の能力。魔族の力ならば当然魔族の攻撃を防ぐ事も可能。

なのでこのバリアとブリーズ・ウォールの二重の障壁によって大抵の攻撃は防げてしまうのだ。


「……ほう? さすが勇者様ご一行ってわけだね」


不敵の笑みを浮かべる女魔族。それでも余裕な表情は一切消える事は無い。


「あなたたち……! 魔族ですね……」


「……ククク。中々察しのいいお嬢ちゃんだねえ……それに中々うまそうだ……ククク」


そう言って舌なめずりをする女魔族。

その舌先は二股に割れており、その縦に伸びた瞳孔と相まって蛇を連想させた。


「ヒッ!? ヒイイイイイイイイイイイッ!? バレているううぅぅぅぅぅぅっ!!!」


余りにも大きな金切り声にフィリアの肩はびくんと跳ねた。

蛇女とは対称的にこの魔族はこちらを恐れているような仕草をみせた。

これは演技なのか。それとも本当にこちらわ恐れているのか。

フィリアは異常とも言えるこの魔族の感性により一層警戒を強めた。


「あーうるさい。ククク……あたしゃメデューサ。こっちはサマエルと……ん? ……おい、シャナクの野郎はどこ行ったんだい?」


「ヒッ!? さっきまで一緒だったのにいぃぃぃぃ……」


シャナク。

フィリアはその名前に何故か聞き覚えがある気がした。

つい最近その名前を耳にしたような。

不意にそんな既視感が体を駆け巡ったのだ。

だが結局その理由はよくは分からないままだ。

フィリアはそのことは特に気には留めず、前を見据えた。


「チッ、いけすかない奴のことはもういい。放っておくよ。……しかし変だねえ……そこの嬢ちゃんは奥のチビと二人きりかいじゃないか。確かこの国にいる勇者一行は全部で三人だって聞いてるんだけどねえ。奥のチビは違うとして……あんただけかい? うち一人はドリアードと一緒だとして、もう一人もそっちに行ったのかねえ。それともどこか違う場所にいるのかい?」


「えっ!?」


フィリアはメデューサの言葉に戦慄した。

まず自分達の動向が筒抜けだという事。

そしてドリアードとメデューサが繋がっているという事だ。

だがそれはちょっと考えれば当然か。

二人は共に魔族なのだ。

繋がりが無いという方がしっくり来ないではないか。

そんな事にすら頭が回っていない自分を叱咤する。

要するに今の状況、自分とアリーシャが置かれている状況は罠だという事を意味しているのだから。


「く……あなた達……」


「おうおう、いいねえ。いい表情だ。怒り? それとも憎しみかい? そういった人間の感情があたしは大好物なんだよ」


「……っ」


やはり魔族など信用すべきではなかった。

いや、信用していたわけではない。

だが人間にも善人と悪人がいるように、魔族にもいい者とそうでない者がいるのかと、アリーシャや美奈という良き友、良き主に恵まれて、そんな風に思ってしまっていた。

いや、正確にはそんな事は思っていなかったけれど、あの二人が信じる事を、自分も信じたいと思い始めていたのだろう。

フィリアは自分の甘さに胸が締め付けられる。

自分がアリーシャや美奈のストッパーにならなければとついてきたにも関わらず、何という体たらくか。

余りの悔しさに歯噛みして、口の端から一筋の血が流れ落ちた。

そんな様子をさも愉快そうに眺めているメデューサ。

メデューサが今述べたように、魔族にとって人間の負の感情というものは、甘美で美味な至高の愉悦なのである。


「ククク……ああ……たまんないね。人間の苦しむ様ってのは。……もっと、もっとだよ……もっとあたしを気持ちよくさせておくれよ!」


メデューサの瞳が赤く光り輝き、体からどす黒い障気のようなオーラが立ち昇る。

更に彼女を中心に突風が吹き荒れ、フィリアのいる元にも風が届いた。

そのプレッシャーに以前までの彼女ならば一瞬で押し潰されていただろう。

だが、そうはならなかった。

先程まで思い悩んでいた自分が嘘のように今のフィリアの心は猛っていたのだ。

怒りとも使命感ともつかない、しかし確かな感情が、大きな塊となって彼女の心を支配していた。


「……あなたの要望に答えるつもりは微塵もありません」


「あ?」


ニヤついたメデューサの表情がそのままの形で止まる。

フィリアは静かに、だが確かな意思を以てメデューサを見据え、告げる。


「あなた方魔族が人を苦しませる事が好きなのは分かっています。今もそうやって私の心を挫きたいのですよね。なら私はその逆のことを実行するまでです!」


フィリアは吼えた。

今までの行いは褒められたものではない。

だが絶望するにはまだ早い。

未だ何一つ、諦めるような状況には達していないと思うのだ。

そんなフィリアの心の輝き、希望の光にメデューサは一瞬表情を硬くさせた。

だがそれはほんの一瞬の出来事。

次の瞬間には再び口を赤い三日月のように歪め、嬉そうにフィリアを見据えたのだ。


「ククク……中々言うじゃないか小娘。……けどねえ、あたしゃそんな生意気な人間の表情を絶望に塗り替える方がそそるんだよぉっ!!」


一際大きな金切り声が室内に響いた。

部屋全体が揺れて身体が震えるような錯覚を受け、フィリアもメルも胸が締めつけられる。

それにメルは顔を背け俯いたが、フィリアは地に足を踏みしめ、メデューサを強く睨みつけた。

そうして戦いの幕は切って落とされた。

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