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「え!? ……アリーシャ、まさかシャナクが分からないの?」
「シャナク? ……む……うう……」
美奈が驚きの声を上げる。
そんな彼女にアリーシャははてと首を傾げ、記憶を辿るような素振りを見せるもその表情は煮えきらない。
どう見てもこれはやはりシャナクの事を忘れてしまっている。
「そうか……私は……アダマンタートルの体内に乗り込んで……」
少しずつ記憶の断片を探っていくアリーシャ。
どうやらアダマンタートルの体内での記憶の全てを忘れてしまっているわけではないようだ。
というよりかは少しずつ思い出していっていると言った方が正しいだろうか。
アリーシャは最初アダマンタートルに突入後の事が分からないと言った。
だが今は体内での事を思い出し始めているのだ。
アリーシャは頭に手をやりながら必死で記憶の糸を手繰り寄せている。
「……あ」
やがてアリーシャはふと思い出したように懐から一つの球体を取り出した。
白い輝きを放つそれには大きな力が秘められているように見えた。
「これは……確かアダマンタートルの体内で見つけて」
「それ、魔石?」
「ああ、……そうだ……と、思う」
これがアダマンタートルの動力源となっていたものなのだろう。
いわゆるアダマンタートルの心臓だ。
「魔石の場所が分かるからと、シャナクが名乗りを上げて、君と一緒に突入したんだけどね」
「アリーシャ様、一体どうしてしまったのでしょう? あの……お体に異変はありませんか?」
「いや、特に何もない。私は元気だ」
フィリアが心配そうにアリーシャの手を握る。
だが別段自覚する異常はないようである。
美奈もこれには正直戸惑っていた。
もしかしたら自分のせいなのかとも思う。
美奈の能力で体の異常は元に戻っているはずなので、怪我の心配はしていなかったが、まさか記憶の方がこのように混濁するとは思わなかったのだ。
もしかして自身の能力で記憶を消してしまうおそれがあったりするのだろうか。
『いや、それは考えられん。これはワシらが行った所業ではない』
「……そっか」
オリジンが美奈の思考に答える。
ということは別の要因なのだろうか。
そうなるとこれはもう答えは決まっているのかもしれない。
「……? ミナ、どうかしたかい?」
「あ、いや……何でもないよ?」
「おいアルテ! あの魔物、相当量のオリハルコンを体内に取り込んでたようだぞ! これは凄い!」
その時ガッシュが半ば興奮した様子でこちらへと歩いてきた。
どうやらアダマンタートルの体内には北の洞窟で見つけられなかった金属、オリハルコンが大量に見つかったようなのである。
「アリーシャ、フィリア。とにかく今はオリハルコンをドリアードさんに届けない?」
美奈はこれ以上アリーシャの記憶の事で悩んでいてもどうしようもないと思った。
幸い今のところ、アリーシャの身に記憶障害以外で異変は感じられないのだ。
ならば他にやるべき事を進める方が合理的と判断したのである。
だが、それにフィリアは怪訝な顔を向けた。
「は? ……ミナ様、アリーシャ様がこんな状態なのによくそのような事が言えますね? アリーシャ様が心配ではないのですか?」
「あ、いや……」
フィリアの言葉に美奈は一瞬言葉を詰まらせる。
そして彼女の瞳に見据えられ、何も言えなくなってしまいそうになる。
喉の奥に言葉がつっかえて出せないような感覚に襲われる。
「そうだな。私はこの通り、なんともない。元々私の剣を修繕することが目的だったのだ。私もそうすべきであると判断する」
「アリーシャ様……アリーシャ様がそうおっしゃるのなら……」
アリーシャの言葉に渋々頷くフィリア。
それに美奈は内心ホッと胸を撫で下ろした。
「……じゃあ私たちもオリハルコン、集めに行こうか?」
「……そうですね」
そう言いフィリアは美奈の横を通りすぎていく。
その際に美奈の肩にこつんとフィリアの肩がぶつかった。
別に痛いというわけではなかったが、思いの外それにふらつく美奈であった。




