28
青年はシャナクと名乗った。
暗がりの中でわかりづらいが、肌は褐色で瞳と髪が青い。腰に短刀を提げているだけで特に荷物は無い。
服も軽装で随分と動き易そうな格好をしていた。
「私は美奈。ここへはいつから?」
美奈が訊ねるとシャナクはまるで子供のように無邪気な笑みを浮かべた。
「いつだったかな。俺は北の洞窟から潜って来たんだ。そういうあんたたちこそこんな奥地にいるってことは相当前からか?」
「ううん。私たちはインソムニアから入ったから今日足を踏み入れたばかりだよ?」
「え? そうなのか?」
青年はどうやらドリアードが言っていたルートでここまで辿り着いたらしい。
美奈は青年を見つめながら考えてしまう。
そもそもインソムニアを出てからここまで、こんな軽装で辿り着けるものなのだろうか。
荷物をどこかに置いてきたか置き去りにしてしまったのか。
それとも他に仲間がいるとか?
「で? こんな所に入り込んでどうしたんだ?」
「……アダマンタートルの討伐をしに来たの」
「ふ~ん……」
曖昧に返事をしつつシャナクは他のメンバーにも視線を向ける。
そしてアリーシャに視線を向けたまま暫く彼女を見つめていた。
「ヤツならいないと思うぜ?」
「え? どうして?」
不意に呟かれた言葉に美奈は反射的に疑問を返す。
シャナクは振り返り美奈の瞳を見つめた。
コバルトブルーの瞳についつい見入ってしまう。ともすればこのまま吸い込まれてしまいそうだ。
「俺もアダマンタートルを、というかアダマンタートルが棲みついてる場所のオリハルコンをゲットしに来たんだよ。だけど結局コイツらしかいなかったんだよ」
「え? じゃあもうアダマンタートルは死んでるってこと?」
「……わかんねえ。確かにアダマンタートルが棲息出来そーなすげー広いスペースはあったけどよ。そこにはいなかった。それにオリハルコンも無かったし、全く踏んだり蹴ったりだぜ……」
美奈はシャナクの話を聞きながら色々思考を巡らせていた。
流石のお人好しの美奈もこんな場所で出会った彼を手放しで信用する気にはなれなかったのだ。
彼の目的はオリハルコンという事だが、本当にそうなのだろうかと疑って掛かってしまう。
そもそもそれを手に入れてどうするというのか。
「俺が何者なのかって顔をしてるな?」
「え?」
突然嬉しそうに笑むシャナク。
その表情は随分と年に不釣り合いな少年のような顔に見えた。
いたずらっ子のようなその表情は崩さず、シャナクは顔の前でピシッとサムズアップを決めた。
「俺はトレジャーハンターッ!! お宝探して生計立ててんだっ! とにかくこれも何かの縁だ。協力してこの状況を何とかしようぜ!」
晴れやかなその屈託の無い笑みに美奈は一瞬呆けてしまう。
だがシャナクの言う通り、確かに今は突然現れたこの青年が誰でどういう人物なのかということよりもこの場を乗り切る方が先決だとは思う。
他はその後だ。
美奈は一旦思慮するのを止め、マジックボウガンを構え魔物の群れを見据えた。
「わかったよシャナク。じゃあさ、あなたの戦い方を教えてくれるかな?」
美奈がそう声を掛けるとシャナクも美奈に倣い笑んで魔物を見つめた。
「ああ、俺は攻撃はそんな得意じゃねえ。けど俊敏な動きで魔物を撹乱することは朝飯前だ」
視線の先ではアリーシャがフレイムタンでまた三体の魔物を斬り伏せていた。
何とも頼もしい勇猛っぷりだが如何せん数が多い。
彼女は次第に劣勢を強いられていた。
「じゃあそれでお願い! アリーシャの助けに行ってくれるかなっ!? あ、スピードが上がる補助魔法を掛けられるけどどうする?」
「いや、そんなもんはいらねえよっ」
そう言いシャナクは魔物の群れへと突っ込んでいった。




