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私のわがままな異世界転移   作者: とみQ
第3章 北の坑道
331/1064

27

目の前に広がるのは体長一メートルほどの亀の魔物。

それだけなら大したことはない。

問題はその魔物の数だ。

視界の所狭しと敷き詰められた夥しい数のそれに一同は例外なく戦慄した。

それぞれが独楽(こま)のように回転しながら動きまわり、自分達の目と鼻の先に迫っていた。


「これがアダマンタートルなの!?」


「い、いや違うっ! や、やつはもっとデカイはずだっ! もしかしたらその子供なのかもしれん!」


美奈の問いかけにメンデスは額に汗を浮かべながら落ち着きなく叫んだ。

かなりの動揺が見て取れる。


「話は後です! とにかくここを乗り切らないと!」


「そうだな! フィリア、ミナ! 援護してくれ!」


アリーシャの号令に美奈とフィリアも武器を構え頷く。

当のアリーシャはというと先ほど武器庫から持ち出したフレイムタンを鞘から引き抜き、果敢にも甲羅の群れへと突っ込んでいった。

するとその時、魔物の群れを掻い潜り、洞窟の奥地から黒髪の青年が現れた。


「うわっ!?」


余りに突然のことにアリーシャもその青年も見事鉢合わせしてぶつかりそうになる。

だがそこはお互い既のところで堪え衝突には至らない。

それでも体勢を崩し魔物の最中、二人共々巻き込まれそうになる。


「シールド!」


その瞬間フィリアがアリーシャとその青年の周りに補助魔法を掛けた。

それにより魔力による見えない壁が出来、アリーシャ達に当たる前にその全ては弾き返された。


「ミナッ!」


アリーシャの視線が美奈に向く。それに頷き美奈は既に詠唱を終えていたそれを解き放った。


「ライトニング・ギャロップ!」


美奈の魔法がアリーシャの身体を包み込む。

それにより既に疾いアリーシャが更に加速。魔力の光を帯びて音速の域に達する。

そうなれば最早亀の甲羅の直線的な動き程度ではアリーシャの髪にすら触れる事は難しい。


「ヒストリア流剣技! 風火!」


アリーシャの通った道筋に一筋の剣閃が閃き数体の魔物が一瞬にして魔石と化す。斬られた魔物はその体を黄色の魔石へと変える。

どうやらランクはそこまでは高く無いようだ。そのことから変わった攻撃もしてこないだろうことが予測される。

一個体の大きさ自体は象亀程。

さしたる脅威が無いのならば御しやすい。

アリーシャは更に動きを止めることなく次の魔物へと矛先を変える。

見事な剣捌きで彼女の行く先々に次々と魔石が出現していった。


「うわああああああああっ!?」


突然大きな悲鳴が上がり声の方を振り向くとメンデスが数体の魔物に囲まれている。

彼は手にした武器を振り回しながら後退りしていた。

彼の武器は湾曲した刀身のシミターだ。

二刀流のそれをむちゃくちゃに振り回す様はただの駄々っ子のようだ。

そこには剣術の欠片も感じられない。

それでも未だに打撃の一つも受けていない所を見ると逃げ足だけは天性のものがあるのかもしれない。


「メンデスさん! 今助けます!」


「むっ!? ……」


美奈の呼びかけにちらと目が合う。

彼も男。気に入った相手を側にして、このままおめおめと格好悪い姿を晒したまま終わるわけにはいかない。

戦いの最中、不意に視線がばっちり合ってしまったのが良くなかった。

変な意地が彼の脳裏を過ってしまったのだ。

それにより今まで逃げ腰だったメンデスは、体を一歩前に踏み出させてしまう。

すると魔物との距離が一気に縮まり、今まで一度も触れ合う事が無かったメンデスのシミターと魔物の甲羅が交わった。


「ぐはあっ!?」


結果シミターごと吹き飛ぶメンデス。

やはりドワーフ。

なまじ膂力(りょりょく)があるだけに普通なら武器だけが吹き飛ばされてしまうところが、自身の身体ごと飛ばされる羽目になってしまう。

だが壁に激突しそうになる所を既の所で美奈が受け止める。


「大丈夫ですか? メンデスさん!」


「おっ!? ……あ、ああ! 大丈夫だ!」


二人の距離は今までで最も近い。

ほんの数センチの所に互いの顔があり、瞳に映る陰すら見えてしまいそうな程だ。

あまりに唐突なシチュエーションに今まで魔物に襲われていた事など忘れてしまったようにメンデスは美奈の顔をまじまじと見つめていた。

美奈はそんな様子のメンデスからすぐに我に返ったように顔を背け離れた。


「ライトニング・ギャロップ!」


そのままメンデスに高速移動の補助魔法を付与する。そして十分な距離を取って振り返る。


「これで素早く動けますからっ……とにかく戦おうとせず敵からうまく距離を取ってください! わ、私はこれで失礼します!」


美奈が見る限りメンデスは回避に専念すればあの直線的な動きにやられるということはまず無いと判断した。

そこに自身の速度が向上するという利が重なればまず心配は無いだろう。

美奈は前を見据え、まだまだ夥しい数が残る魔物の群れの一群へと目を向けた。

取り出したのは先程武器庫で貰ったマジックボウガン。

その魔石へと魔力を注ぎ込むとボウガンの先端に魔力の矢が発現した。

魔法を放つ時の要領で狙いを魔物の一体に定め射出。

魔法の矢は流れるように真っ直ぐにその魔物に向かって飛んでいき、見事命中した。

魔物の体は電撃が走ったように痺れ、その動きを止めた。そして少しの間痙攣(けいれん)を繰り返したかと思うと魔石へと姿を変えたのだった。

威力はまるでライトニング・スピア。

だが消費魔力はその半分といった所だろうか。

恐らく使う者の魔力の質によってその属性や威力を変化させるのだろう。


「中々面白い武器を持ってるな」


「あなたは、さっきの?」


振り向けばそこには先ほどアリーシャに助けられた青年の姿があった。

青い髪が妙に目を引く。それもその筈。彼の肌は褐色なのだ。


「シャナクってんだ。ありがとな、助かったぜ」


 シャナクと名乗る彼は白い歯を覗かせ快活な笑顔を見せた。

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