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私のわがままな異世界転移   作者: とみQ
第3章 北の坑道
330/1067

26

「おい、フィリア。ミナとメンデスは大丈夫だろうか?」


二人の背を黙って見つめているアリーシャとフィリア。

アリーシャも(はた)で見ていて心配そうに呟いた。


「……どうでしょうね。何とも言えません」


フィリアとて昔メンデスと同じような経験があった。

あれはアリーシャに連れられて国の外に出て魔物に襲われた時のことだ。

恐怖と緊張に見舞われると人は身体が硬直し、すくんでしまう。

そうなると普段通りのパフォーマンスなどできる弾もないのだ。

それは確かに良いことではないが、やめようと思ってどうにかなるものでもない。

メンデスが極度の緊張状態であるのなら、周りが上手くフォローするしかないとフィリアは思っていた。

ただでさえ彼の力の程は分からないのだ。どうしたってフォローは必要になるだろうと。

もし戦力になるのならラッキーくらいに思っているのだ。

それにこの三人がいて簡単に敵に後れを取るとは思えない。

フィリアはそこまで今の状況を深刻には捉えていなかった。


「お、おい!? そんな呑気なことでいいのか!?」


だがアリーシャは違ったようだ。

フィリアの返答に少し怒ったような真剣な表情を作った。

アリーシャは場数だけで言えば三人の中でも群を抜いている。

彼女からしたらこの状況は命取りと言いたいのだろう。


「も、申し訳ありませんアリーシャ様……」


そう思ったフィリアは素直にアリーシャに謝罪する。

もう少し気を引き締めるべきかと反省の色を見せた。

だが美奈があれだけのことをしても緊張が解れた様子がなかったのだ。

他にいい手立てがあるとは思えなかった。


「……ですがこればっかりは今のところどうしようもないかと……」


申し訳なさそうに進言するフィリア。

だがそれもアリーシャの次の言葉に俄に覆されることになったのだ。


「くっ……ミナにはハヤトがいるというのにっ……」


拳を握り締めそう言い放つアリーシャ。

そんなアリーシャを目の当たりにしてフィリアはふと目が点になる。

そしてすぐさま彼女の勘違いを察したフィリアは複雑な心境で大げさにため息を吐いた。


「はあ~……何ですかアリーシャ様……そっちですか……」


「は? そっちというのは?」


逆に今度はアリーシャが呆けたような顔を見せた。

フィリアはもう馬鹿らしくなり、アリーシャの横をすり抜けて前へと進み出た。

そして振り返りアリーシャを見つめる。

そしてにこやかな笑顔でサムズアップまでして爽やかにアリーシャに言い放ったのだ。


「いえ、何でもありません! ご心配なさらずともアリーシャ様が思っているようなことは万に一つもありませんから安心してくださいねっ?」


「!? ……そ、そうなのか!?」


驚愕の表情を見せるアリーシャ。

暫く笑顔のまま無言で佇むフィリア。

彼女はもう(たま)らずにアリーシャを置き去りにし、美奈達を追いかけ駆けていく。


「フィリアッ!?」


「……はあ……」


自身を呼ぶ主の声を背に受けながら、その表情には苦悶(くもん)の色が浮かんでいた。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


洞窟の中は以前鉱山として利用していたこともあり、しばらく進むと壁面にカンテラが取り付けられてあった。

そこへの魔力供給はまだ生きていたようで、視界を確保出来るほどは辺りを照らしていた。

これにより美奈もフィリアも灯した魔力光を消し、無駄な魔力消費は避けられたのである。

灯りがついたとはいえ、薄暗く不気味な場所には違いない。

この空間の雰囲気とメンデスの緊張も手伝い、次第に美奈達も緊張感を募らせていったのだった。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


どれ程奥へと続く岩壁の洞窟を突き進んだだろうか。

体感では一時間、いや実際は三十分程度のものなのかもしれない。

それ程薄暗い洞窟をひたすらに進むというのはストレスがかかり、実際の時間よりも長く感じるものだ。


「……お、おかしい」


「どうしたんですか?」


ずっと沈黙を保ち続けていたメンデス。

若干吃(ども)り気味ながらもようやく自分から口を開いた。

それに反射的に聞き返した美奈。

メンデスは美奈を振り返ることなく表情は固いままだ。


「この洞窟の中。年数が経っているとはいえ、話に聞いていた印象と随分違うのだ」


「違うって……どう違うんですか?」


美奈はメンデスの口振りに何となく嫌な予感がする。自然と握り締めた手に力が籠った。


「何もない……何も無さすぎるのだ」


「何も……無い?」


確かにここに辿り着くまで随分歩いたが、魔物の一匹にも遭遇しなければ鉱石の一つも見つけてはいない。

途中拓けた場所に何度か出たりもしたが、それでも採掘道具が散乱している程度のもの。

確かに鉱石は何も無かったと言える。

この鉱山はまだ資源を取り尽くしたというわけでは無かったはずだ。

そもそももしそうなら魔物の討伐などは負傷者が出るのは明らか。

それを承知でリスクを冒してまでする必要は無い。

直ちに閉鎖してしまえばそれで済むことなのだから。


「……? ……何か聞こえないか?」


不意にアリーシャが呟いた。

その声に耳を澄ますと確かに洞窟の奥地で何か物音がする。

初めはさざ波のように静かに。

だが次第にその音はざわめきに変わり、やがて地鳴りのように確かな響きを以てこちらに伝わってきた。

そんな最中(さなか)、周りのカンテラの灯りが揺らめき、次々と消えていった。

それにより一気に視界が塞がれる。


「なっ!? 何だこれはっ!? 一体何が起こっているっ!?」


「大丈夫っ! 落ち着いて!?」


慌てふためくメンデスに少し強く(たしな)める美奈。

明らかに動揺しているのが姿は見えなくとも声と衣擦れの音で分かる。

それから数秒後、今まで奥地で鳴動していた音がついにもうすぐ側まで来ているのが分かった。

もう目と鼻の先。何か生き物の気配だ。


「皆っ! 何かいるっ! 気をつけろっ!」


一行に一気に緊張感が駆け抜ける。

皆武器を手に持ち臨戦態勢を取った。

そして数メートル先でその何かの蠢きを感じとり、美奈とフィリアはほぼ同時に力ある言葉を発した。


「「マジックライトッ!!」」


魔法の灯りに照らされて一同はその蠢きの正体を知る。

そして美奈達一行はそのまま一時言葉を失ったのだった。

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