幕間 ~邂逅~
ここインソムニアでは多岐に渡る種族、そして多くの国の人々が往来する。
それもこの国が自身の国に住まう人よりも、外から入国する者を相手取り生活の糧とする者が多いからだ。
いや、元々ドワーフという種族は多少頑固な所はあったりするが温厚で人情に熱い。
その性質が他を受け入れる文化をもたらした手助けとなったと言えるだろう。
ある者は冒険者や旅の人々を相手に武具の生成を請け負い、また修理や改造を施すことを生業とする。
またある者は旅の疲れを癒やす場所を提供し、一つの観光地としてこの国で羽を伸ばしてもらう事を生き甲斐とする。
そんなだから多くの人が行き来し、しかしそれは同時に一つの危険をも孕んでいると言えた。
時間は美奈達がインソムニアに足を踏み入れる数日前に遡る。
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魔石の光などなくともこの国は夜でも活気に溢れている。
そんなインソムニアに於いても人が出歩くこともそう無く、一番静閑とした時間帯は早朝である。
天井に設置された巨体なドーム状の魔石がその身に夜の間蓄え続けた、この街を今日一日照らし続けるだけの魔力を吸収から放出へと切り替え、僅かな光を発し始めている。
昼間だろうと夜だろうと、変わらず人が寄りつかぬスラムの一角。
そこに住まう彼の元へ、三人の風変わりな者達が現れた。
「一体何の用だ」
彼が居るだろうと思われる寂れた教会の前に集まった三人の真後ろに、意表をつくように現れた。
彼の存在を認めた三人は一斉に振り返る。
三人は三者三様の反応を見せた。一人は彼の隙の無い立ち居振舞いに満足気な、飄々(ひょうひょう)とした表情を浮かべた。
もう一人は表情を変える事無く落ち着き払いその場に佇んでいる。
最後の一人は大声を上げて後退った。
だがその甲高い声は隣にいた男に防がれ、周りに響き渡る事は無く事無きを得た。
「やるねえ……気に入ったよ」
飄々とした者の声音は高くしゃがれたものだった。よく見ると女だ。
彼女が三人の中の中心人物なのか、一歩前に出て話を始める。
その女は彼にある提案を持ち掛けた。
彼は饒舌に嬉々として語る彼女の話を興味無さげに聞いていた。
彼の瞳には生命の灯というものが欠けている。
きっともう、何もかもがどうでもいいのだ。
一頻り話を終えると三人は去っていった。
彼の返事は特に聞くでも無く。
そんなことに端から興味は無いのか。
だとしたら、何故今回彼に話を持ちかけたのか。
その意図は読めぬまま、薄明かりの中へと紛れるように姿を消した三人。
彼はその者達を仰ぎ見るでもなく、普段通りの日常へと戻っていったのだった。




