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「メンデス何を言うか!? 我が国の問題を他の国の者に委ねるなど! お前にドワーフの誇りはないのか!?」
ガンジスを一回り小さくしたような、年の頃は三十歳過ぎくらいだろうか。
口周りにのみ髭を生やした彼は名をメンデスというようだ。
ガンジスを父上と呼んだのでどうやら彼の息子らしい。
彼は暑苦しいガンジスに向けて、これまたそれ以上に暑苦しく拳をぐぐぐと握りしめガンジスに詰め寄った。
「いえそうではありません父上! 私もこのインソムニアの時期王たる誇りは持ち合わせておりますぞっ! 確かにこの者達の力を借りはしますがこのメンデスも、この者達と共に討伐に参加致す所存でございますっ!!」
「えっ!?」
「何!? お前もアリーシャ達と共にアダマンタートル討伐に向かうというのか!?」
「はい! 必ずや私が首を上げて参りますゆえ、父上は安心して待っていてください!」
「むう……確かにお前なら実力も申し分無いが、お前は見ておらんだろうが奴は本当に危険な魔物なのだぞ!? ワシも当時奴にこの右目を奪われたのだ」
ガンジスの右目には眼帯があった。
それを太い親指でクイと指差し当時を懐かしむように遠い目をした。
「はい、お任せをっ! 私が必ずや父上の無念を晴らして参ります故っ! それに道中道案内も必要でしょう!」
「うむ……そこまで言うのならあい分かったっ! では頼むぞメンデスッ! そういう事だアリーシャよっ! 今回の討伐っ、我が息子メンデスも同行する! それでよいなっ!?」
メンデスの勢いと固い決意に当てられ首を縦に振ったガンジス。
そんな一部始終を口を挟む間もないまま見守ってしまった美奈達三人。
「あ……はい」
完全に圧倒されてしまったが、そんなことは露知らず、メンデスは嬉々としてアリーシャ達の元へと駆け寄ってきた。
「俺はメンデスってんだ! よろしくな!」
「あ、ああ……??」
ずいずいと挨拶を交わそうとするアリーシャの横をすり抜けていくメンデス。
握手を求め手を出したアリーシャだったが、思わぬ形で空ぶってしまう。
当のメンデスはというとそんなことには気づきもせず、後ろに控えていた美奈の前で足を止める。
しばらく彼女を見つめその場に留まるメンデス。
美奈は不思議に思いながらも、薄く微笑みお辞儀した。
「あ、あの……よろしくお願いします」
「……いい……」
「え? ……」
「いやっ、何でもないぞっ! ミナ! 私はメンデスだっ! よろしくなっ!」
「っ……!?」
そう言い美奈の手を取りぎゅうぎゅうと両手で握りしめた。
その手つきが握手とは違ったもので、美奈は思わず声を上げそうになるのを既のところで堪えた。
顔を上げるとメンデスは美奈の顔をじーっと見つめていた。
気のせいか心なしか顔が赤い気がする。それにかなり近い。その大きな顔がより一層大きく見える。
美奈は掴まれた手を反射的にパッと離した。そして手を隠すように後ろにやり、ひくついた笑顔でもニッコリと微笑む。
メンデスはそれに若干物足りなそうな表情を顔に滲ませる。
「うむう……で、では行くとするかっ!」
「あの! ガンジス、もう一つお願いがあります!」
「んあっ!?」
部屋を出ていこうとするメンデスを余所に、アリーシャが再びガンジスに進言した。
メンデスは大袈裟にずりこけた。
「何だアリーシャ! まだ何かあるのか!?」
「はい。実は今回インソムニアに訪れた目的として、私が扱うこの剣の修復がありまして。そのためにアダマンタートルを倒す必要があるのです」
「そうか! 確かにあの魔物なら魔石も良いものが取れるだろうからなっ!」
「はい。ですが、そんな状況ですから少々武器が心許ないのです」
そんなアリーシャの進言にすぐさま得心がいったようで、ガンジスはパッと顔を明るくした。
「……なるほどっ! わかったぞアリーシャ! 武器が欲しいのだなっ! だがなっ! 知っての通り今我が国は資源の枯渇から武器の生産が追いついておらんのだっ! 更にそんな中先日ホプティアに大量の武器を輸出したばかりときておる!」
「ホプティアにですか?」
ホプティアは魔法大国と呼ばれるグラン・ダルシ屈指の強国である。
兄のヒストリアが遠征して音信不通となったのもこの国である。
意図せず本来の目的地であるホプティアの名が出たことでアリーシャは目を見開いた。
「父上いいではありませんかっ! 武器庫にある物を今回だけ貸し出す、ということで」
そこで素早く立ち直ったメンデスがガンジスにそんな提案を持ち掛ける。
それに満足そうに頷き蓄えた髭を撫でるガンジス。
「おおっ、息子よっ! 何と太っ腹な奴じゃ! お前がそこまで言うならワシはもう何も言わんっ! 好きにせい!」
「はっ! ありがとうございます!」
こうしてあっさりとアリーシャの提案は受諾された。
何というか、ドワーフの、この親子二人のやり取りに今一噛み合わずついていけず、アリーシャは苦い顔をした。
まあ障害が発生するよりはずっといいのだが。
このメンデス。少しのやり取りで何かと面倒そうだなという予感だけは凄くするのだ。
くるっと振り返ったメンデス。
彼は美奈の方を見るとこれ見よがしにウインクを投げかけた。ばしゅうぅぅぅんっ!!! というような効果音がしそうなそれを美奈は不覚にもばっちりと受けてしまい、苦笑いを浮かべるのがやっとのことで固まっていた。
「これは……ベストな選択と言えるのでしょうか……」
一部始終の成り行きを見守っていたフィリアがぽそりと呟いたのをアリーシャは聞こえないふりをした。




