20
三人はドリアードのいた教会を後にし、宿への帰路につく。
帰る前に約束通り、メルが待つ場所へと足を運んだ。
メルは初めて会った通りの脇に一人壁にもたれかかって佇んでいた。
彼女は十数メートル先から私達の存在に気づき、笑顔で手を振り駆け寄ってくる。
「お姉ちゃんたち! どうだった!?」
メルは尻尾をフリフリと回しながら目をキラキラさせている。その瞳には期待の色が滲み出ていた。
その表情を見て美奈の胸はズキリと痛んだ。
「あのね、メルちゃん。話すには話したんだけど……体調の話をしたら突っぱねられちゃった。あんまり聞くと私たちの用件まで断られそうだったから、それ以上は……」
美奈がそう告げた途端、目に見えて元気が無くなっていく。
メルは尻尾だけでなく頭についた耳まで垂らし俯いた。
「そう……」
「メルちゃんはドリアードさんのことが本当に好きなんだね?」
「……うん、大好き。ドリアード、すごく優しい。それに私に色々教えてくれた」
そう言う彼女の表情はとても優しさに満ちた笑顔だ。
美奈も微笑む。
「そっか……。ごめんね、メルちゃんの力になれなくて」
「……ねえ、お薬買ってくれる?」
メルの懇願に三人は気まずそうに顔を見合わせる。
「別にそれは構わないけど……ドリアードさんが何の病気かもわからないし、あの感じだと受け取らない可能性が高いかもしれないよ?」
「いいの! それでもこのままじゃドリアード死んじゃうかもしれないもん! お薬欲しいの!」
「ちょっとメルちゃん、黙って聞いてればわがままが過ぎるのではないですか!?」
「大丈夫だよフィリア。大丈夫」
前に出てきたフィリアを美奈は手で制する。
「ちょっとミナ様! 止めないでください! それにこの子はきっと騙されてっ……」
「フィリアッ!」
熱くなりそうなフィリアの言葉を美奈は遮る。
美奈にしては珍しく大きな声を出したため、フィリアもびっくりして言葉をつぐんだ。
美奈は一度フィリアに微笑みメルの前にしゃがみこんだ。
「いいよ、それでメルちゃんの気が済むのなら。結局約束しておいて何も出来なかったんだし」
「それはそうですが……」
未だ不服そうなフィリアを横目に美奈はポーチから銀貨を三枚取り出し、メルに差し出した。
「とりあえずこれで足りるかわからないけど、あげるね?」
「……! お姉ちゃんありがとう!」
銀貨を受け取った途端、再び満面の笑みを浮かべるメル。それを見たフィリアが再びつまらなそうな顔になる。
「……現金な子供ですね」
そうしてそのまま通りの向こうへとスタスタと走り去っていってしまった。
「もう……ミナ様は優しすぎます! それにあのドリアードが魔族である以上、あの子に危険が及ばないとも限らないのですよ!? 彼女には本当のことを言うべきですっ」
「ごめんなさいフィリア。だけどメルちゃんのあの態度を見てるとどうしても悲しませたくなくて……」
「……それが彼女を危険に晒すことだとしてもですか?」
「フィリア、もういい。確かに彼女を放っておくのは危険かもしれないがそれでもこの数年間共に暮らしてきているのだ。突然今日明日どうにかなるものでもないだろう」
食い下がるフィリアを見かねてかアリーシャが間に入り美奈の肩を持つ。
フィリアはそれに少し目を見開き、何か言いかけたがそれをやめた。
二人に言われてはフィリアも流石に引き下がるしかない。
「まあ私は別に……」
「え?」
俯くフィリアの呟きを反射的に聞き返していたが、フィリアはその次の句を告げることなく顔を上げた。
そして大きくため息を吐いた。
「分かりました。もう何も言いません。取り乱してすみませんでした」
「ううん、私もさっきは大きな声出してごめん」
「いえ、大丈夫です。気にしていません」
そう言うフィリアの表情には微笑みが浮かんでいた。
それを見て美奈はホッと胸を撫で下ろす。
そのまま踵を返し宿へと歩き始めるフィリア。
それに着いていく美奈とアリーシャ。
三人は煌々と魔石が明るく照らす街並を並んで歩いていく。




