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私のわがままな異世界転移   作者: とみQ
第2章 ドワーフの王国、インソムニア
322/1065

19

「わかった、引き受けよう。それにアダマンタートルを倒せばインソムニアの炭鉱は再び使用可能となる。それはこの国にとっても相当有益なことなのだからな」


アリーシャはそうドリアードに告げる。

インソムニアはヒストリアにとっても国交が盛んな大国。

アダマンタートルを討伐し炭鉱を解放することは、これからの戦いを考えても後々大きな戦力増強に繋がるかもしれない。

危険だが十分やる価値はありそうだとアリーシャは判断した。


「……フン、偽善的だな」


「偽善? ……そんなことはない! 私はこれでもヒストリッ……」

「アリーシャ様!?」


ドリアードのアリーシャを一笑に付すような態度に、思わず自分が王女だと名乗ってしまいそうになる。それをフィリアが既の所で止めに入った。

勢いで余計なことを口走ろうとしてしまったとアリーシャは慌てて口をつぐむ。


「あの、他の条件っていうのは一体何なのでしょうか?」


代わりに今度はフィリアから質問を投げかける。

ドリアードが訝しげな表情を浮かべたのはほんの一瞬。

ドリアードは今度はフィリアの方にちらと目をやる。


「それはお前達が魔石とオリハルコンを持って再び私の前に現れた時に言おう」


「……そうですか、分かりました。ではお金はどれくらい出せばやっていただけるのでしょうか?」


武器の生成は結局オーダーメイドという事だ。

どう考えても普通に販売している物を買うより値は張るだろうことは容易に想像できた。

そういったことからのフィリアの疑問だったのだが返って来た答えは想像とは違うものだった。


「……そんな物はいらん。それだけの物を集められるのであればワシもやりがいがあるというもの。その素材を使って剣を打てるというだけで十分だ」


「!? ……そうなのですか?」


驚き目を見開くフィリアをドリアードは見つめている。

その迫力に気圧されたようにフィリアは口を手で押さえた。


「そうだ。……ただワシの好きに打たせてもらう。剣は打つが結局剣を鍛えるに当たってその素材を最高に輝く状態に持っていくことをするのだ。その形がどんなものになるのかはワシにも出来上がるまでわからん」


要するにドリアードは美奈達が思っている以上に生粋の鍛治師という事なのだろう。

純粋に凄い剣を打てるのならばそれだけでお金以上の価値がある、と彼は判断しているということなのだから。


「……ということは属性変換の剣にならない可能性もあるのか?」


好きに剣を打つということでアリーシャが最もな疑問を投げかける。

もしそうならアリーシャの闇属性の魔法が魔族に対して意味を成さなくなってしまうのだ。

だがそれは杞憂だったようで、ドリアードは静かに首を横に振った。


「そこは大丈夫だ。ワシが言っているのは剣の特性の事ではない。形状や大きさの話だ」


「なるほど……そういう事なら……まあ大丈夫だ」


アリーシャはそれでも少し曖昧な返事。

確かに形状が普通の剣と大きく異なってしまってはまともに戦えなくなるのは必死。

だがそこもうだうだと難色を示していては話はいつまでも終わりが見えない。

アリーシャはそこでこれ以上話すのをやめた。


「では決まりだな。洞窟はそれなりの距離がある。往復で一週間はかかるだろう。すぐに行ってきてもらおう」


ドリアードはそう告げて身を(ひるがえ)し、今度こそ教会の中へ入っていこうとする。


「あのっ、ドリアードさん。もう一つ質問していいですか?」


そんなドリアードの背中に再び声をかけたのは今まで黙して話を聞いていた美奈だ。


「……なんだ? まだ何かあるというのか?」


「昨日の獣人の女の子、メルちゃんとどうして一緒に暮らしてるんですか?」


メルとの約束。

ドリアードの身を心配する彼女の頼みを無下にする訳にはいかないのだ。

だが美奈はそれよりもドリアードの本心の部分が気に掛かっていた。

魔族である彼が、獣人であるメルを育てたという行動のその意味するものを。


「……別に……ほんの出来心、暇潰しだ。我々魔族にはお前達人間と違って飽きるほど時間があるのでな。捨て子だったあの子を拾って少し面倒を見ていただけだ」


興味は無いというように切り捨てるドリアード。

だが美奈はそれだけでは自分の心に(くすぶ)っている気持ちに納得が出来ない。


「それにしては随分とメルちゃんはあなたのことを慕っているんですね」


「……何が言いたい」


「いえ、ただメルちゃんがあなたの体の事を心配しているようなので」


「……余計な事をするな。これ以上の詮索をするようならこの話は無かった事にしてもいいのだぞ?」


「ミナ様っ……」


フィリアが思わず声を上げる。

ドリアードの眼光が鋭い輝きを放ち、赤く光っていたのだ。

今まで無関心を貫いていたドリアードが初めて自分達に敵意のような感情をむき出しにした瞬間だった。

ぞくりと美奈の背中に悪寒が走る。そして足が自然と後ろに下がろうとした。冷や汗が頬を伝う。

美奈は一瞬にして何も言えなくなった。

蛇に睨まれた蛙とはこのことだ。

こうなってしまっては流石にこれ以上話をするわけにはいかない。

このままでは本当に武器の件を反故(ほご)にされかねない。

それどころかこのまま戦いに発展する可能性すらある。

美奈の独断でせっかくのアリーシャの新しい剣を得る機会を失うわけにはいかない。

メルには悪いが今回の話し合いでどうにか出来る問題ではなさそうだった。


「……分かりました。それでは洞窟に行ってきますのでここで待っていてください」


美奈がそうとだけ告げると、ドリアードは今度こそ教会の中へと入っていった。

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