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「条件?」
三人は顔を見合わせる。
思いの他あっさりと自分の事を認めたドリアード。
ライラから情報は筒抜けだと判断したのだろうか。
それだけではない。魔族だというのに人の頼みを聞き入れてくれるという。
元々無理だと思い始めていた矢先の出来事だったので、これには美奈とフィリアはもちろん、言ったアリーシャでさえも面食らっていた。
最悪直ぐ様戦いになることも覚悟していただけに拍子抜けしてしまう。
だがそれだけではドリアードを信用する材料とは成り得ない。
引き続き警戒は必要ではあるが、話を先へと進める事は出来そうである。
「そうだ。その剣は属性変換の剣。その能力を有するに当たって魔石が必要になる。恐らく今回は魔石がお前の技の威力に耐えきれず砕けたのだろう。なので今回は使用した魔石よりもより上質な物を取ってきてもらう必要がある。更にその剣を打つための素材も必要だ」
「なるほど。だが魔石に関しては私達も幾つか持っている。それでは無理なのか?」
アリーシャの問いにだがドリアードは即答で首を横に振る。
「この周辺の魔物から得た物なら言うまでもない。ランクが低すぎる」
ドリアードはアリーシャ達が持っている魔石を見ることもなくそれを否定。
この周辺で取れる魔石というとサーペントライガーから取れた黄色の魔石になるのだが、それでは足りないということなのだ。
「ではどうすれば。当てはあるのか?」
「インソムニア北部の炭坑に行ってきてもらう」
「? ……そこは随分昔に閉鎖されたと聞いているが?」
インソムニアの北部には確かに炭坑がある。
だがそこを使用していたという話はアリーシャも噂でしか聞いたことがなかった。
初めてインソムニアを訪れたのは幼少の頃だが、その時から既に炭坑は閉鎖されていたのだ。
「そうだな。だがインソムニアの北の森を抜けてしばらく行くと洞窟がある。そこからインソムニアの炭坑へと通じているはずだ」
「……なるほど。それで目的のものは何なのだ?」
「洞窟の奥にアダマンタートルという魔物が棲みついている。それを倒し、魔石を取ってくること。そしてそこにあるオリハルコンという鉱石を取ってくること。この二つだ」
「アダマンタートル?」
初めて聞く名前にアリーシャは眉根を寄せる。
いわゆる大型の亀の魔物でグランドタートルというのは割と有名であるが、名前から察するにそれよりも更に大型の魔物ということだろうか。
「そうだ。そしてこの魔物が北部の炭坑が閉鎖した理由だ。昔炭坑を掘り進んでいくうちにドワーフ達はその魔物が棲みついているのを偶然見つけてしまったのだ。それが中々凶暴でな。何人かの討伐隊を送ったようだが返り討ちにあったようだ。まあこちらから何もしなければ特に害は無いようなので結局閉鎖の流れになってしまったというわけだ」
「アダマンタートルか……」
現在インソムニアは武具を作るための資源をヒストリアやホプティアから輸入することと、北東にある鉱山から得ている。
北東の鉱山は往復に時間が掛かることと、道中の魔物に遭遇する危険から、行き来する事が非常に困難なのだ。
多くの場合は冒険者を護衛に雇っての旅となるので資金も馬鹿にならなくなる。
そのような理由から、現在のインソムニアの武具屋事情は武具の生成、販売というより武具の修復に重きを置くようになっていた。
「どうだ、やるのか? 別にワシはどちららでも構わんが」
急かすように、投げやりな口調で問いかけるドリアード。
彼にしてみれば本当にどうでもいいのだろう。
それにライラの知人とはいえ彼は魔族。
武器を作る事を了承してもらったとはいえ信用してもいいものなのだろうかという疑念は常に頭に過る。
だがそもそも魔族だということは初めから予想していたこと。
それでもここまで足を運んだのだ。
このまま全てを諦めてホプティアを目指すというのも選択肢にはあるがそうはしたくない。
アリーシャの武器が不完全のままになってしまうし更に時間だけをロスする結果となってしまう。
話を完全に鵜呑みにするわけではないがアダマンタートル討伐はこっちにも利がある話。
やらない手は無い気がする。
アリーシャは少し考えた後、美奈とフィリアを見る。
三人は互いに頷き合う。
そしてやがて意を決したようにアリーシャは口を開いた。




