17
一夜明け早朝。
三人は予定通りドリアードが住む寂れた教会へと足を運んでいた。
昨日と同じように窓から中の様子を伺うと、そこにドリアードの姿は無かった。
そもそも今は中から何者の気配も感じない。
外出しているのだろうか。
「昨日の者達か。再びこんな所に一体何の用だ」
不意に後ろから声を掛けられ振り向く三人。
アリーシャでさえ近づいた気配すら感じられなかった。
そのことにアリーシャは一人内心驚愕していた。
「ドリアードさん……再びすみません。でも私たち、どうしてもあなたに頼みたい事があってここまで来たんです」
美奈は落ち着いた様子でドリアードに話し掛ける。
ドリアードは一瞥だけくれて興味なさげに入り口の扉の方へと歩いていく。
「ワシは人に頼まれ事をするような力は持ち合わせておらん。誰を探しているのか知らんが人違いだろう。ワシに掛け合っても時間の無駄だ。諦めて帰るんだな」
やはり美奈達に取り付く縞は無いようだ。
そのままドリアードは教会の中へと足を踏み入れようとする。
だがその時、彼の背中に向けて今まで沈黙していたアリーシャが叫んだ。
「私はライラに剣を教わったアリーシャという者だ! そして彼女からこの剣を譲り受けた。この剣を作ったのは貴公ではないのか!? もしそうなら魔石の砕けたこの剣を再び鍛えて欲しいのだ!」
アリーシャが一気に捲し立てた。完全にダメ元だった。
どういうわけかドリアードは人と関わる事を避けているように思えたのだ。
だがせめて用件だけでも聞いてもらえば。
もし彼がライラの事を知っているのならば。今アリーシャが言った懇願に対し無下にしない可能性はある筈だと、アリーシャにしては珍しく必死の呼びかけであった。
アリーシャとしても、やはりライラが関わっている事だけに、簡単に引き下がりたくはなかったのだろう。
この先の戦いで彼女が託してくれた剣を使っていきたい。そんなアリーシャの意志がありありと見て取れた。
やはりアリーシャにとってライラの存在とはそれだけ大きなものなのだ。
そもそもはるばる逆方向であるインソムニアにまで進路を取って来たのだ。どちらにしろ簡単に諦めたくはない。
そんなアリーシャの言葉を受け、ドリアードは教会の入り口でぴたと足を止める。意外にも中へは入っていかず、しばらくその場に留まったのだ。
アリーシャはそんな彼の背中を拳を握りしめしげしげと見つめ続けている。
ふとドリアードは少しだけこちらを見やった。
「ライラは……どうしている?」
「っ!!?」
やはりドリアードはライラを知っている。
彼の返答に、だがアリーシャは一度ここで俊巡する。
その質問の答え如何では争いに発展する畏れがあると思ったのだ。
何故なら相手は魔族なのだから。自分達に好意的とは考え難い。今すぐ敵対し、攻撃されることも視野にいれなければ。
ただでさえこのドリアードという男は腕が立つのだ。少なくともその身のこなしはただ者ではないことがありありと伺い知れたのだから。
かといって嘘をついてもしょうがない気もする。
アリーシャは覚悟を決め、ポツリポツリと話し始めた。
「ライラは……私が戦って倒した。もうこの世にはいない。だが私達は師弟であり、敵であったのかもしれないが、ライバルであり友だった。彼女が生前この剣を古い知人に作ってもらったと聞きその者を訪ねてきたのだ。それがドリアード。あなたであるとそう思ったのだが。違うか?」
「あのライラを倒したのか?」
アリーシャの質問には答えず代わりに質問で返される。
だがそこに敵意のようなものは感じられない。
「……そうだ。私がこの手で倒した」
ドリアードはこちらを振り向きアリーシャを見つめている。
その表情からは思考を読み取ることは出来ない。
同種であるライラを倒された事による怒りなのか、ライラほどの魔族を倒した事による興味や賞賛なのか。
それともやはり魔族として感情は薄く、特に何も感じていないのか。
その顔には一切の感情は込もっていないように思える。というのが一番しっくりくるかもしれない。
しばしの沈黙の後、ドリアードのその瞳に微かに輝きが灯った気がした。
「いいだろう。いかにも私がその剣を作った。そして私もライラと同様魔族だ。その剣、私が鍛え直してやらんでも無いが幾つか条件がある」




