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その日の夕刻。
三人は魔石屋で換金を済ませ、その後宿屋に戻り正式にチェックインを済ませた。
現在は宿屋の食堂で夕飯にありついていた。
パンに新鮮な野菜のサラダ、それに海の幸がふんだんに盛り込まれたシチューを味わう。
久しぶりのまともな食事に三人の胃が歓喜の悲鳴を上げる。
ドゥクライガの実は確かに美味しかったが、フルーツみたいなものでしっかりとした食事とは言い難い。
やはり塩気のあるものを食してこそ食べている実感が湧いてくるものだ。
三人はお腹一杯になり幸福な余韻に浸りながら少しの歓談を楽しんだ後、ふとアリーシャが美奈に真面目な顔で告げる。
「ミナ、先程のドリアードへの質問は一体どういうことだ?」
唐突に言われ、一度美奈はほんの少し目を見開いた。
フィリアの視線も自然と美奈に集まる。
「うん、もう大体わかってると思うんだけど……」
「ドリアードは魔族だというのか?」
美奈の言葉を引き継ぐようにアリーシャが言葉を繋ぐ。
それに対し美奈はこくりと頷いた。
美奈は精霊オリジンとの契約を結んでいる。オリジンの能力は時を操る能力。
だがオリジンは精霊の中でもかなり上位に位置する精霊であった。
そんな彼だからこそ豊富な知識や経験を活かし、ある程度、魔族の感知を可能としていた。
感知とはいってもその者が纏う雰囲気、オーラから何となくそうであると分かる、といった程度の物であるが。
それは人がどこの国出身であるか、性別は何か、何歳くらいであるか。
そういった事をぱっと判断するのにある程度の知識や経験があれば見抜けるという事と同じような事だ、と美奈は理解していた。
「じゃあ彼がアリーシャ様の剣を作った人なのでしょうか?」
フィリアのその質問には美奈は自信無さげに首を振る。
「わからない。ライラの名前を出してみたけど、彼にこれといった変化はなかったし……」
「うむ……ミナ、私もドリアードについては少し不審に思う点はあったぞ?」
「え? 何?」
「私の剣を見た瞬間、ドリアードの目の色が一瞬変わったな」
「そうなのですか?」
アリーシャはそれには自信をもって頷いた。
ドリアードは質問に対しては別段気にしていないように振る舞った。
だが属性変換の剣を見る目に当のアリーシャは違和感を覚えたのである。
「ああ。それにドリアードという男、あの時はただの老人かと思ったが、今思えば所作一つ一つに無駄が無くかなりの手練れだと思われる。もしかしたらこの国でポセイドンのように良からぬ事を画策している可能性も無いとは言えないな」
ドリアードがライラに剣を作った者だとしても違うとしても、彼が魔族だという事は美奈の精霊が感じた事だ。それは間違いないと思っていいだろう。
そうなるとさっきは軽くあしらわれて帰されてしまったが、もう少し話してみる必要がある。
人に無害な魔族がいるとは思い難い。
何かあってからでは遅いのだ。
「それではこれからまたさっきの場所へ行ってみますか?」
フィリアの打診にアリーシャは首を横に振った。
「流石に夜の闇に紛れてというのは万が一戦いになった時にこちらが不利だ。明日の早朝にしよう」
「そうだね。ドリアードは私達の正体までは気づいていなかったみたいだし、その方がいいんじゃないかな?」
別に先程の邂逅ではこちらがドリアードを魔族だと断定するような事は言っていない。
それに自分達が勇者の一行だとは気づいてはいない様子だった。
あの獣人の子の様子から察するに、この地に長い間滞在しているようであったし、再びの来訪が明日になったところで状況が一変するという事も無いだろう。
「なるほど……話はわかりました。ではこの件は明日また改めるということで」
「うん、それがいいと思う」
「うむ」
フィリアの言葉に頷き肯定を示す二人。
「お、オホンッ! ではあのー……アリーシャ様、ミナ様。今日のこの後の予定はもう無いということでよろしいでしょうか?」
「? ……そうだな……あとは部屋でゆっくり疲れを癒し眠るばかりか」
「そっ、そうですよねっ!? ふむふむ、疲れを癒す! 大事なことだと思いますっ!」
「??」
アリーシャの何の気なしの言葉にひどく反応を示すフィリア。
何故か一つ一つの動作が落ち着かなくわざとらしい。
美奈もアリーシャもそんなフィリアを不思議に思いながら見ていた。
「あ、あの~……アリーシャ様、ミナ様……。これから眠りにつく前に少しお出掛けいたしませんでしょうかっ!?」
「??」
何故か凄く嬉しそうな様子のフィリアに、アリーシャと美奈の二人は顔を見合わせた。




