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私のわがままな異世界転移   作者: とみQ
第2章 ドワーフの王国、インソムニア
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B・V・T・B(ビッグバレータワーブリッジ)から一行は街道をひたすら西へと進んだ。

そこから数日掛けて、いよいよインソムニアの王国に辿り着く。

大峡谷を左に見ながら進む道程は、谷から吹き荒ぶ風に晒され中々に自然の強大さを教えてくれる。

B・V・T・Bからヒストリアとインソムニアへは直線距離ではそれぞれそこまで距離的な違いは無い。

だが森や山道を多く通るヒストリア間の道程に比べ、インソムニアまでは平坦な道ばかり。

馬車を走らせること自体は困りはしない。寧ろ走りやすいくらいである。

だが平原ばかりというのは、取り分けいい事ばかりでも無いのだ。

見通しが良すぎてすぐに魔物に見つかってしまう。

元々馬車での移動なので物音を立てず進むということは出来ない。

だがそれでも一キロ先の魔物に見つかる、などということこれまではまず無かった。

なので椎名や工藤のような感知能力を持つ仲間がいなくとも森林や山道の多いヒストリア領ではそこまで魔物と遭遇することは無かったのだ。

だがインソムニア領に入り、見通しの良い平原を走り出した途端、おおよそ三十分おき程度の間隔で魔物と遭遇し戦闘する羽目になった。

中でもサーペントライガーという魔物は厄介であった。

見た目は虎より二回りほど大きな体。二本の象のような牙を持つ四足歩行の魔物。

お尻からは大蛇の胴体のような尻尾が生えている。

それだけだと他の中型の魔物と何ら変わりはないのだが、厄介なのは目と鼻が利き機動力があることだ。

北側、少し距離をおいて大きな森林が広がっているのだが、その中からでもこちらを見つけ、その獰猛な性格から一直線に平原を駆けて襲ってくる。

初見ではその迫力に誰もが身震いしてしまう。

獰猛なその牙もさることながら、尻尾の方の蛇の牙に咬まれれば大変だ。

尻尾の毒により麻痺させられてしまうのだ。

そうなれば一巻の終わり。回復魔法の使い手が旅の供にいなければ助かる見込みはほぼ無い。

そういった強力な魔物が徘徊していることから、ある条件を充たしていなければ、馬車で一路インソムニアを目指す、などということは誰もしようとはしないのである。

そしてそのある条件とは。

サーペントライガー避けに独特の匂いを発するドゥクライガという果実を所持するということである。

だがこれの販売は原産地であるインソムニアでしか行っていない。

なぜならこのドゥクライガの実は三日も経てば匂い自体が失われてしまう特性を持つ。

そうなればサーペントライガーを引き離す効果も失われてしまうので意味を為さなくなる。

なので結局この陸路を行くインソムニア、B・V・B間の移動は基本インソムニアからB・V・T・Bへ行く一方通行と行っていいのである。

だがそんな中、美奈達は今のような道程を選んだ。

理由は先に述べた通り、兄のために海路を選べなかったことが大きな要因となる。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


「このドゥクライガの実、すっごくおいしいね?」


「ええ。この実は色んな意味で有名なこの地の名産品ですからね?」


街道を馬車を進ませながら、美奈はB・V・T・Bの露店で買ったドゥクライガの実のその甘美な味に舌鼓を打っていた。

このドゥクライガの実、食用としてはかなり流通している。

匂いを発しなくなったら食べ頃でこれが中々いけるのだ。

インソムニアから内陸へ移動する人達は必ずドゥクライガの実を購入するのだが、B・V・T・Bにつく頃食するというのが常識となっていた。

かくいう美奈達も、露店で売っていたその実を購入していた。

食べてみると中はジューシーで口の中に爽やかな甘さが広がりかなりの美味であった。


「っ! ……来たぞっ!」


そんな中、不意にアリーシャが動いた。

突然剣を抜き放ち、馬車の外へと躍り出たのだ。

その直後、遥か北の地から土煙を巻き起こしながら一直線にこちらへ突き進んでくる魔物の陰があった。


「ガァウッ!!」


数秒の後。あっという間に距離を詰めるサーペントライガー。

そのスピードの何と速いことか。

だがアリーシャとてその身のこなしは最早超人の域に達する。

いつの間にか彼女の姿はサーペントライガーの後方に位置していた。

居合いの格好で抜き放たれたその剣には魔物の血らしきもの付着している。

その血を振り払い、鞘に剣をしまった直後。

サーペントライガーの身体は上下真っ二つに分かたれ、地に崩れ落ちる寸前で黄色い魔石へと姿を変えてしまった。

コトリと地に落ちる魔石。

それを馬車に戻ってくる途中で拾い上げ、にこやかな笑顔をこちらに向けるアリーシャであった。


「さすがアリーシャ様ですね」


フィリアが感嘆の声を漏らす。

属性変換の剣がいくらその効力を失っているとはいえ切れ味が落ちたわけではない。

アリーシャの放った居合いの剣はたったの一撃でサーペントライガーを仕留めていた。

そんな彼女を頼もしく思いながら、美奈はいつの間にか手にしていたアリーシャの分のドゥクライガの実を彼女に渡すのだった。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


そんな様子でサーペントライガー相手取りながらインソムニアを目指す美奈達。

今の彼女達の力ではそんな恐ろしい魔物もどうということはない相手であった。

だが巨大な獣がいつ何時襲ってくるかもしれないというストレスを受けながら旅をするというのは精神的にはキツイものがある。

日増しに疲労を蓄積させていく美奈達であったが、やはり走りやすい平地ということもあり、その進度は順調であった。

数日後の昼間。

ついに一行は進行方向に海が一望出来る場所までやってきていた。


「ねえ、どこにあるの? インソムニアの国って……?」


美奈が眼前に海を見ながらそんなことをふと呟く。

周りを見渡せど海と北の方に森と山脈が見えるだけ。

肝心のインソムニアらしき国影がどこにも見当たらないのだ。

美奈の呟きにアリーシャは一瞬呆けた顔を向けた。

だがすぐに得心がいったように話し始めた。


「ああ、そうか。ミナは初めてだから無理もないな。インソムニアはドワーフが多く住む炭鉱の街だからな。地下王国なのだ。地上には地底へと続く入り口があるのみ。ミナ、あちらを見てみろ」


アリーシャが指で指し示す先。北側へと再び視線を移し美奈は目を凝らした。

良く見ると視界の中に少し膨らんだドーム状の山にぽっかりと穴が空いているのが視認出来た。

ここからではまだ距離があり、詳しい大きさまでは分からない。


「もしかしてあれが……?」


美奈の問いにアリーシャは嬉しそうに頷いた。


「そうだ。あれがインソムニアだ。正確には地底への入り口だがな。地下空洞の中に街が広がっているのであそこさえ守っていれば魔物に襲われる心配もない。あとこの崖の下には港に続く横穴もあったりする。普段ヒストリアからは来る時は海路を行くのだが……今回は大変な思いをさせてしまったな。ミナ、済まない」


「え!? 別に大丈夫だよっ。それにアリーシャが殆ど魔物を倒してくれたし」


律儀なアリーシャに逆に自分の方が申し訳なく思ってしまう。

今回サーペントライガーとの戦闘は毎回ものの数秒でアリーシャが片付けてしまい、美奈とフィリアはどちらかというと馬車の運転をしてばかりだったのだ。

役割分担と言えば聞こえはいいが、やはり戦闘に参加する意味が無いというのは多少肩身が狭く感じるものである。


「いよいよインソムニアだな」


そんな心中を察してか、アリーシャはにこやかに微笑みインソムニアへと続く洞穴を見た。

その横顔が日の光に照らされて大層美しく輝いている。

美奈は思わずドキリとした。

美奈も馬車の窓に手を掛け、インソムニアの空を見上げた。

大きな雲が広がる青空。ふと笑顔が溢れた。

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