六日目2
午後になりアーバンは訓練場にて赴いていた。
訓練生への実技の授業の時間なのである。
その内容は対戦形式で木刀を持ち試合をするというようなものだ。
生徒約半数が試合を終え、十分間の休憩となった所でタイミングよくソニアが現れた。
アーバンは大仰にため息を漏らす。
今朝ロメオが自分の所に現れた原因となった張本人。
幼なじみが有りもしない余計なことを吹聴したという事実に、自然とそういった態度になってしまうのだ。
「せっかくの非番だというのにわざわざこんな所に来てどうした? 余程暇なのか?」
「いや、あんたには言われたくないんだけど?」
確かにアーバンも昨日非番で訓練場に足を運んだばかり。
だが全く同じことをしているソニアに皮肉めかざるを得ないのはお互いが察するところではある。
「年頃の娘が休みの日に一人で訓練場に赴くなど寂しすぎるだろう」
「何それ? 差別なんですけど!? アーバンがそんな事を言う人だとは思わなかった! 変態!」
「いや、変態って……。まあいい、それよりソニア。今朝ロメオが私の所に来たぞ? 全く、有りもしない余計なことを言ってくれたな」
朝のロメオの来訪の旨を告げるがソニアは特に気にも留めた様子もなく平然としている。
「は? そうなの? あなたたち、昔はしょっちゅう言い争いばかりしてたのに、今ではホント仲いいわね。ていうか私、別にアーバンの所に行けなんて一言も行ってないし。アリーシャ様の事が好きなのかもとは言ったけど」
「そ、それだ! なぜそうなる! 私はアリーシャ様にはそんな想い、一切抱いておらん!」
変な誤解を招かぬようはっきりと自身の想いを告げるがソニアは尚更疑いの眼差しを向けてきた。
「え? ……ふ~ん」
「……な、何だその目はっ……」
「アーバンさん!」
「何だ! 後にしてくれ!」
「ごっ、ごめんなさい……」
そんな矢先、誰かがアーバンに声を掛けた。
アーバンはソニアとのやり取りに気を割かれ、ついよく確認もせずに横柄な態度を取った。
訓練生の誰かだろうとは思ったが、その声に少し違和感を覚えて振り向いた。
そしてその声の主を見てアーバンは固まってしまう。
「シーナ……」
目の前にいる人物は間違いなく椎名その人であった。
椎名はアーバンの後ろにいる女性を一瞥し、自分が間の悪い登場をしてしまったことを自覚していた。
勢い勇んでこの場に来たが、とぼとぼと帰ろうとするところだ。
「な、何だか取り込み中みたいだから後にするね! じゃっ!」
「まっ、待て! 待つのだっ!」
空へと飛んでいってしまおうとする椎名の手を握り、アーバンは彼女を既のところで引き留めた。
そんな折、想像以上に柔らかい椎名の手に掴んだ手を放しそうになるが、それも堪えると今度はその状況に参ってしまい顔が急に熱を帯びてくる。
アーバンは自分の異変を自覚しながらもどうすることも出来ず、俯き顔を見られまいとした。
ソニアは突然現れた目の前の女性を見る。
どこかで見覚えがあると思いつつ、すぐにその答えに思い至った。
「あっ……この子勇者の女の子じゃない。アーバン知り合いだったの?」
ソニアが二人が顔見知りだということを知って意外そうな顔をアーバンに向けた。
それにアーバンは少し、罰が悪そうな顔をしたのだった。




