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私のわがままな異世界転移   作者: とみQ
ヒストリア王国最後の激闘編
277/1063

5-47

それから時間はあっという間に過ぎ去り、いよいよアリーシャが旅立つ日がとなった。

アンガス王やメイサ王妃、アーノルドなどとは城で別れを済ませ、皆は朝早く、まだ薄暗い町中を歩いていく。

真っ昼間に発つとなるとこの国で多少有名人となった事で騒ぎになるのではないかと懸念した結果だ。アリーシャは人目の少ない早朝を出発の時に選んだ。

一週間という時間は休息を取るには充分過ぎる時間であった。早朝とはいえ体調は万全だ。

だが工藤がふと後ろを見ると、椎名だけは眠そうに歩いていた。先程から何度も欠伸をしているのを視界に捉えていた。


「何だよ椎名、あんまり寝てねーのかよ? これから旅立つってのに」


「……べっつに~。朝早いのは苦手なのよ」


「……まあ、そっか」


短い会話だけして歩いていく。工藤はそれにほんの少しの違和感を覚える。

何だかいつもと反応が違う気がしたのだ。少し元気が無いようにも思えるし。とにかくそれ以上会話をする事が(はばか)られたのだ。

そうは思いつつもスタスタと皆歩を進めていく。

程無くして町の東門へと辿り着いた。

そこには見知った顔が待機していた。


「ベルクート、それにマルス!」


アリーシャが嬉しそうに駆け寄っていく。ベルクートはアリーシャを含め、皆の顔をぐるりと見回した。


「そんじゃあな。アストリアのこと、頼んだぜ」


ベルクートはアリーシャに手を握られニヤリと豪快な笑顔を見せた。横にいるマルスも力強く頷いた。


「私には心強い味方がいる。心配には及ばない」


アリーシャの声とその表情は自信に満ちていた。

ベルクートとマルス神父に見送られ、いよいよ旅立ちの時だ。

この門を抜け、河川に隔てられた平原へと通じる目の前の大きな橋を渡ると、いよいよここからは国外へと出る事になる。

そこで後ろに控えるように歩いていた椎名が口を開いた。


「じゃあ私はここまで。皆、気をつけてね」


彼女は突然立ち止まりそう告げる。それに振り返る美奈。


「うん、めぐみちゃんも気をつけて」


彼女の側に行き、固い握手を交わす。それに続いてアリーシャやフィリアも。

だがその中で工藤だけが今一事の顛末が理解出来ず頭に疑問符を浮かべながら佇んでいた。

そんな彼の元へと椎名自らが歩を寄せる。

訳が分からず、いや、本当は分かっているのだが、余りにも突然の事に立ち尽くす工藤に、椎名は笑顔を浮かべていた。


「ごめんね、工藤くん。私皆とは行かないの。色々考えたんだけど……少し行きたいところがあって。そこでの用が終わったら、きっとすぐに駆けつけるから! ……だから……それまでのお別れってことで!」


「……あ」


声が出せずに立ち尽くしたまま。そんな工藤を見もせずに、椎名は数十センチの距離から離れていく。


「じゃあ皆、またっ」


そのまま町の中へと駆け出していく椎名。彼女は二度と皆の事を振り返る事はしなかった。

高野が工藤の隣に歩み寄る。


「工藤くん……もしかしてめぐみちゃんから聞いてなかったの?」


美奈の言葉にびくんと肩を震わせる工藤。その態度は明らかな肯定を示唆していた。


「シーナはこれから私達と別行動を取りたいらしいのだ。何でも新しい力を得るために船で海に出るのだとか」


「は……?」


「クドーさん……」


アリーシャがざっくりと事情を説明し、続いてフィリアの心配そうな声が背中越しに聞こえ、工藤は理解した。

椎名が話をしていなかったのは恐らく自分だけなのだと。

彼は不意に周りを見て、突然ハッとしたように笑顔を作った。


「そ、そっかそっか! そうなんだな! まああいつも色々考えてのことなんだろ! とにかく俺たちも負けてらんねーよな! どーせまたすぐ会えるんだろ!? 早くいこーぜ!」


捲し立てるようにそう言い、工藤は他の皆と笑顔で別れを済ませ橋を渡っていく。

そんな工藤の後ろ姿を、美奈はじっと見つめ続けていた。

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