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私のわがままな異世界転移   作者: とみQ
ヒストリア王国最後の激闘編
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5-46

昨晩会ったばかりだというのに凄く久しぶりに会ったような気がする。そしてそれを自覚した途端工藤は動悸が早くなっていた。

 思えばこうして二人きりで話すのは久しぶりではないか。そう思うと少し構えるような心持ちになるのだ。それは誰しもが抱く、好意的な者に対する親愛から来る気持ちだ。

だがそんな風に思うのもほんの一瞬の事。「腫れ物を見るような白い目」(?)を向ける椎名を見て工藤は即座に言葉が口を突いて出た。


「な、何だ……椎名かよっ」


彼女のそういう態度に反射的に出る言葉は邪険なものだ。椎名は工藤の言葉を受け、ほんの少し眉根が上がる。


「何だとは何よっ、私で悪かったわね! バカ工藤!」


「いやっ! 別にそういう意味じゃねーしっ!」


「ふん!」


そう言い椎名は胸の前で腕を組み、そっぽを向いてしまう。

一見すると仲の悪そうなこのやり取りであるが、これがいつもの二人の感じなのである。

工藤は久しぶりのこんなやり取りに自然と顔が綻んでしまう。それを見た椎名は自身の体を両腕で抱き、眉根を寄せた。


「な、何よ? 人の顔見てニヤニヤするとかっ。相変わらずキモいわね」


「いやっ! 見てたけど!? 言い方なっ!」


「てかそこは別に見てねーよ! ただちょっとぼーっとしてただけだよ、とかでしょ!? 相変わらずキモいわね」


「……いや、まあ見てたしニヤけてたし、否定はできね~だろ……けど二回はやめろ」


椎名はその言葉に俯き顔を伏せる。たまに出る真っ直ぐな彼の言葉に、椎名は度々羞恥とむず痒さに苛まれる時がある。そしてその姿を工藤には見せないように努めるのだ。


「……バカ」


「え!? そこは気持ち悪いじゃねーのかよっ!」


「う、うっさい! だからそういうとこが気持ち悪いのよっ!」


「「…………」」


「「……ぷっ」」


二人はそこまで言い合い気づけば笑っていた。お腹を抱えて暫く笑い合う。互いに笑顔になる。


「で? 何やってるわけ? 精霊の使役方法?」


一頻り笑い合った後、突然そんな事を言われ工藤はハッと我に帰ったように目を見開く。

自身の悩みを相談してみようかと思ったのだ。

椎名も風の精霊使い。こういった事は同じ精霊使い同士、通じるものがあるかもしれない。


「ああ、どうもノームとサラマンダーの力を同時に使うってのがうまくいかなくてさ。何かやり方のコツとかねーのかと思ってよ」


「ふーん。ていうかそんなことそもそも可能なの?」


工藤の言葉にそこまで興味は無さげに答える椎名。


「え? ああ、高野が教えてくれてさ。ポセイドンとの戦いの時、津波を止めに行っただろ? あん時はできたんだよ」


「あっそ。じゃあその時と同じようにすればいいじゃない」


「それがうまくいかねえから困ってんじゃねーか」


簡潔な椎名の返答。それはそうだ。尤もだ。だがそれが出来ないから困っている。

何だか堂々巡りのような気がして工藤は辟易した。

やはり精霊二体と契約しているのは自分だけ。その感覚を共有するという事はそもそも難しいのかもしれない。


「……ていうかさ。そもそも工藤くんその時何考えてたの?」


「え? そりゃあ砂の周りに炎を貼り付かせてだな……」

「てかそれ嘘でしょ」


説明する工藤に椎名は半ば呆れた顔で突っ込む。しかもそれが食い気味なものだから工藤は意味が分からずあたふたする。


「え!? 何だよそれ!? 嘘ってどーいう意味だよ!?」


そんな工藤を手で制し、後ろ頭を掻きながら立ち上がる椎名。

服についた砂をパンパンと手で払う。サラサラとした砂が地面に零れ落ちていく。椎名は小さくため息を吐いた。


「あのねえ……あんたが頭ん中であーだこーだ考えて戦う訳ないじゃない。どーせ夢中で必死こいて勢い任せにやったに決まってるわよ」


「む……確かに……」


椎名にそう言われ、黙ってしまう工藤。

確かに工藤はいちいち自身の行動についてあれこれ考えるタイプでは無い。

もっと直情的で、真っ直ぐで。頭の中は常に真っ白、という方が正しい。


「まあそうね……強いて言うなら」


「強いて言うなら?」


椎名はそう言い空を見上げた。彼女の言葉を反芻しながら見つめる工藤。風が彼女の以前より少し伸びた髪をぱたぱたと撫で上げていく。

そして不意に椎名は工藤の方を見た。


「ぜってーに守るんだーっ! みたいな感じ?」


「……」


拳を突き出し微笑む椎名。

その瞬間工藤の中で何かが弾けた。そして暫く時が止まったように固まる工藤。どちらかというとぼーっとしているようにも見える。そんな工藤を不審な目で見つめる椎名。


「あの~? もしも~し? 工藤さ~ん?」


「……椎名。ちょっと見ててくれよ」


「え? ちょっと……」


工藤は突然椎名に一声掛けたかと思うと彼女と距離を取った。そして直ぐ様精神を集中し始める。

途端に彼を中心に溢れだすように砂が取り巻いていく。そしてその砂から噴き上がる赤い炎。それはとぐろを巻き、彼の周りを畝りながら大きく育っていく。

次の瞬間。ノームとサラマンダーの力を同時に行使した技を空へと解き放った。


「グランドドラゴニックブレイズ!」


力ある言葉とともに炎竜は海を大量に蒸発させ、揺らめく波を押し返し、そこに流れ込んできた海水が大渦を作った。

今まであれだけ苦心しても出来なかったそれが、今この瞬間に出来てしまったのだ。


「どうだっ!」


振り返って椎名の顔を見る工藤。

すると椎名は当然のような顔をし、嬉しそうに笑みを作っていた。


「やったわね!」


「ああ!」


工藤は思わず椎名の元へ走っていく。そのまま二人でハイタッチを交わした。

二人共満面の笑みを作っていたが、やがて素に返り、繋いだ手をパッと離してしまう。お互い後ろを向き合い俯く二人。

一連の動作が全く同じなものだから、端から見ればさぞ滑稽に映っただろう。幸いここには二人以外誰もいないが。


「あ……ありがとな」


「ど……どういたしまして」


暫くの間その場に流れる沈黙。お互い何か言いたげにもじもじと指遊びをしたり、手を後ろや前や頭へと持っていく。


「「あのっ……」」


そして意を決したように二人声を出したタイミングまで同じとは。

場の気まずさを払拭しようとしたにも関わらず再びそんな事になり、それでまた二人頬を赤らめる。


「……何?」


そう聞き返したのは椎名だ。とはいえ工藤は特に何かがあった訳では無い。

だがこのまま素直に実は何も無かったと言う訳にも行かず、彼は取り繕うように口からついて出た言葉をそのまま話した。


「あ、いや! 高野っ……心配だなと思ってよ!」


「……美奈?」


「そうそう! 何か昨日も元気ない気がしたし! やっぱりこれからしっかりフォローしていってやんねーとって思ってさ!」


「……うん。そうだね……」


工藤の言葉に俯く椎名。


「椎名?」


不審に思い彼女の顔を覗き込もうとするが、椎名は直ぐに顔を上げ笑顔を見せた。


「うんうんそうだよ! これからもちゃんと美奈の側で守ってあげないとね! なんたって美奈はか弱い女の子なんだから! 私はまあ、ちょっと男勝りなとこあるし!? 大丈夫だからっ!」


「そ、そうなんだよ! 高野って昔から守ってあげたくなるんだよな!」


「……はいはい、わかったわよ! それじゃあトレーニングの邪魔しちゃ悪いし? 私もう行くわねっ!」


「え? あ、ああ。わかった。じゃーな!」


それだけ告げて椎名はそそくさと城の方へと駆けていく。

彼女の後ろ姿を見つめながら工藤は微笑んでいた。


「ありがとな、椎名……」


立ち去り今はもうその背中すら見えなくなった彼女に向けて工藤はそう呟いた。

一瞬椎名は先程何か言い掛けていたかと思ったが、まあそれはまた次の機会にでも聞こうと思う。

それよりも今は先程の感覚を忘れないようトレーニングを再開させる事を優先しようと思ったのだ。コツを掴んだとはいえ上手くいったのは先程の一度きり。今の内に確実に自分のものにしておきたい。

もうそこに先程までの迷いは無い。

晴れ晴れとした表情の彼にはもう怖いものなど何も無いと思えたのだ。

カモメの鳴き声が自身を祝福する音色のように軽やかに響き、青空が彼に一層の活力を与えるようだ。

そして心に浮かべる彼女の笑顔。

彼から溢れ出る精霊の力は今、(みなぎ)るパワーに揺らめき揺蕩(たゆた)っていた。

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