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私のわがままな異世界転移   作者: とみQ
ヒストリア王国最後の激闘編
275/1063

5-45

「全く、クドー! 君はいつも考えなし過ぎるのではないか!?」


「す、すまんっ! ついテンションが上がっちまって……」


アリーシャに頭を掻きつつ謝る工藤。

あの後暫くして徐々に冷静になった三人は、事の重大さを認識し顔を青くさせた。

一歩間違えれば城を燃やしてしまう所だったのだ。今頃城が火の海、という事も十分考えられた。

それどころかせっかく助けたフィリアを殺してしまっていたかもしれない。

どちらかと言えばこの三人の中だとそれを止める気質を持つ者はフィリアなのであるが、今回の事はそもそも彼女自身が言い出した事。周りも見えていなかった。

それに絶対に工藤の技を防ぎきるという信念めいた感情に頭を支配され、そんな想像をし得なかったのである。


「まあまあ、アリーシャ様。大事には至らなかったのですから、そのくらいで」


「む……、フィリアがそう言うなら」


フィリアにそう言われ、渋々ながら納得するアリーシャ。ここでフィリアに抗議の意を示さないのは彼女のフィリアに対する甘さが十二分に見て取れる動向であった。


「……やれやれ」


ぽそりと口からため息が漏れる。

見つめ合う二人を目の前に、流石の工藤も居心地の悪さを感じずにはいられなかった。まるで彼女達の後ろにお花畑の幻覚が見えるようだ。

そして自分だけが悪者にされている事に理不尽さを覚えるのだった。

だが普段からの皆からの扱いもあり、そんな事は口が裂けても言えない工藤。彼の悲しい(さが)というやつである。

とにかくこれでフィリアの件は一件落着。かなり良い方向での解決を見たと言っていい。

存在な扱いを受けつつも内心では二人の嬉しそうな表情を見て悪い気はしていなかった。

工藤もホッと胸を撫で下ろしたのである。


「あ、ところでクドー。結局君は私達の旅に同行してくれるのだろうか?」


不意にアリーシャが昨日の会食での事の答えを求めた。

あの時三人は共に曖昧な雰囲気を残しその場を後にしていたのである。アリーシャ自身も考える時間は必要だと思ったようで、あの場では敢えて追求はしなかった。

だが一晩開けた今ならば多少の考えは固まったかと思うのは不自然では無い。工藤を見つめるアリーシャとフィリア。


「ん? ああ行くぜ? 行くに決まってるじゃねえか」


「……そうなのか? いいのか?」


それに工藤は即答した。というより昨日の段階で既に彼の中で答えは出ていたのだ。だからアリーシャの意外そうな顔を見て工藤は苦笑してしまう。


「いいも何も、最初からそれ以外に選択肢ねえだろ。じゃ、今日も浜辺でトレーニングしてくるわ! このままじゃフィリアに足元掬(すく)われそうだからな!」


「あ、ああ……」


そう言い二人を残し去っていく工藤。そんな彼の背中をアリーシャは神妙な眼差しで見つめていた。


「アリーシャ様?」


「あ、いや。何でも無い。……まあ……ゆっくり待つさ」


「??」


そう言って不思議そうな顔のフィリアにアリーシャは笑顔を浮かべる。フィリアもそんなアリーシャに不思議そうに首を傾げながら笑顔を返すのであった。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


工藤はヒストリアのこの海岸が好きだった。

この海岸というのはあの夜ポセイドンの放った大津波を防ぐため美奈と共に来た場所の事だ。

少し北側へ行くと港があり、大小様々な船が行き交う。そんな中日々を忙しなく過ごしている人達。カモメが空を気持ち良さそうに飛び、海風も強く心地好い。

あの夜、工藤は大津波を見事退けて見せた。

この景色を守る事に少しでも自身の力が役立ったのだと思うと、工藤は誇らしい気持ちになるのだ。そしてほんの少し強くなれたようにも思える。背伸びして力を出し切って、あれだけの事をやってみせたのだというその達成感が今の彼のもやもやとした気持ちを払拭してくれるのではないかという理由から無意識にこの場所を選んでいたのだろう。

この場所ではいつもの自身のトレーニングに勤しんでいた。

ここに来てからのトレーニングと言えば決まってイメージトレーニングだ。

ノームとサラマンダー、この二つの精霊の同時行使。

あの大津波を掻き消した時のイメージをもう一度思い出しながら砂の(うね)りの外側に、炎をつけ足していくというもの。

だがこれがどうにも上手くいかないのだ。

何度やっても砂と炎が共存するような状態を作れなかった。ともすれば反発し合うようになり、どちらかの力が消失してしまう。

とまあそんな感じで、あの時出来た事が今は全く出来ない。何度試しても上手くいかない。所謂スランプというやつである。

二体の精霊との契約を果たし、その精霊の同時解放という部分で工藤は一つの壁にぶち当たっていた。


「だーっ、もうっ! おまえら仲わりぃのかよっ!?」


工藤は砂浜に仰向けに倒れ天を仰ぐ。


『クゥン……』

『キイィ……』


ノームとサラマンダーは申し訳なさそうな声を上げるばかりだ。

そんな声を出されると工藤も途端に申し訳ない気持ちになってしまう。


「……わりぃ。自分の不甲斐なさをお前らのせいにするとか」


直ぐ様八つ当たりのように言った自分の言葉を取り消す。

彼は反省しつつ起き上がり気持ちを切り替えた。


「よしっ! もっかいやってみるかっ!」


「何一人でぶつぶつ言ってんのよ」


「うわっ!?」


驚き体を跳ねさせた工藤。

振り向くといつの間にか椎名が後ろの砂浜に座り込み工藤を見ていた。

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