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「クドーさん。あの日の続きをしましょう」
「あの日の続き?」
フィリアは工藤を真っ直ぐと見つめている。
工藤はフィリアのその眼差しにほんの少したじろいでいた。
「そうです。クドーさんは一度、私を倒そうとして青い炎の竜を放ちましたよね。だけどそれはミナさんの能力によって私に到達するどころか、技を放つ前に戻されてしまい、結局無かったことになりました」
美奈と椎名の姿が消え、工藤ただ一人取り残されたヒストリア王城内、王の間。
そこで工藤はポセイドンへとドラゴニックブレイズ・ブルーインパルスを放った。
だがあの時は美奈が精霊オリジンとの契約を果たし帰還。工藤が攻撃を放つ前の状態へと時間を戻したのだ。
その続きをしたいとフィリアは今申し出ている。
工藤は苦い顔をした。
フィリアの発言が理解出来ないというのではない。
ただ単純に容認しかねるのだ。
「フィリア、何言ってんだ……そんなことしたら――」
「私が死んでしまうと?」
「――っ」
言葉を先んじられ飲み込む工藤。
彼女のその本気の眼差しに、工藤は言葉を失いたじろいでいる。
それと同時に自身の身に、悪寒のような寒々しい心持ちがして工藤は身震いしてしまう。そんな事を思った。
「――なんだ……寒い?」
だが実際は違っていた。そうではないのだ。
工藤の呟きは、顔の前に白い息をもたらした。
この部屋の温度が入ってきた時よりも低くなっているのだ。
薄着な工藤はぶるりと身震いした。
後ろにいるアリーシャもプレストメイルに身を包んでいるとはいえその寒さに肩を抱く。
フィリアは薄く微笑んだ。
その表情には確かな自信が満ち溢れていたのだ。
「――これは……まさか……」
「ええ、そのまさかです」
ここにきてようやく工藤とアリーシャは今の現状の意味を理解する。
「フィリア、これは、ポセイドンの力なのか!?」
アリーシャの声音には明らかな動揺が見て取れる。
それにフィリアは首をふりやれやれとため息を吐いた。
「大丈夫ですアリーシャ様、私は正気です。別にポセイドンに乗っ取られてはいません。私は私、ファリアです」
その言葉にアリーシャは胸を撫で下ろす。
もしかしたらポセイドンはまだ生きていて、ここで再戦という可能性に寒気を感じたのだ。
「アリーシャ様、私は怒っています。私はいつだって、たとえ命が危険に晒されようと、あなたのお側に仕えたいのです。だけどあなたは私からそんな望みを奪おうとする」
「……フィリア、それは――」
「黙っていてくださいっ」
フィリアの周りに幾筋もの氷の柱が出現していく。まるで彼女を守る強固な守護壁のように。
「目を覚ましたら、私の中にポセイドンの力の片鱗が残っていることに気づきました。私は思ったんです。これは神様が私にくれたチャンスなんだと。だからアリーシャ様。もし私がクドーさんの全力の攻撃を凌ぐことが出来たら――私を……私をあなたの旅に連れていって下さいっ!」
フィリアの決心が固いことは、その瞳の輝きが物語っていた。
今彼女の周りに座す氷の柱のように、彼女の決心は固いのだ。決して揺らぐことはないのだ。
「へっ、アリーシャ! いいじゃねえかっ!」
フィリアの言葉を受けて、工藤は笑った。
その表情はどこか嬉しそうですらある。
「そういう覚悟の入ったやつってのは俺は好きだぜっ! アリーシャを守りたいんだよなっ! ……分かるよフィリア」
「クドーさん……あなたに理解されても別に嬉しくはありません」
「ああ、いいぜっ! そんなのはどーでもいいっ!! とにかくフィリアの覚悟は十分に受け取った! やってやるよ全力でっ! アリーシャ、いいよなっ!?」
「――クドー!? ほ、本当にやるつもりか!?」
「ああやるよ、やってやるさ! アリーシャも騎士ならダメだとかだせえこと言うなよっ!?」
「――わ、分かった」
「よっしゃ!!」
フィリアの心意気に充てられ、工藤の心にも光が灯る。
得てして、工藤とフィリアの全身全霊の勝負が始まりを告げるのだ。




