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私のわがままな異世界転移   作者: とみQ
ヒストリア王国最後の激闘編
261/1062

5-31

「この身に宿りし光のマナよ 空に集められし雷となれ」


「ククク……高位魔法を使えるのか。しかも精霊の力により魔族にすら効果を発揮するほどの……ククク……」


美奈の詠唱の際に溢れでる魔力を察知し、グリアモールは一瞬で彼女の魔法の強力さに気づく。


「今ここに 万物を消し去る神の力と成りて 彼の者に降り注げ」


「そんなものをまともに食らったらさすがの私でもひとたまりもないねえ……」


グリアモールは更に速い動きで美奈の目の前に姿を移す。

やはり今までの動きは本気では無かったのだ。

だがそれは美奈にとっても想定内の事であった。

高位魔法の弱点は詠唱が長くその間が無防備に近い状態になってしまう事。

本来ならば他の仲間に時間を稼いでもらい、その隙に詠唱するというのが常である。

だが今グリアモールと一対一の戦いを繰り広げている美奈にはそれは厳しい。

美奈はライトニング・ギャロップの力で思いっきり横に跳び、その初撃を避わそうと試みた。


「ククク……甘いよ!」


だがそんな美奈のスピードを嘲笑うかのように先回りし、彼女に向けその丸太のような腕を振り被った。

普通なら確実に当たる距離とスピード。


「っ!?」


捉えたと思った瞬間。

突然目の前から欠き消えた美奈。

それに一瞬動きを止めるグリアモール。


「こっちよ!」


振り向いた先。

更に広間の隅に移動していた美奈。まるで瞬間移動である。

グリアモールの攻撃が当たろうかというその瞬間。オリジンの能力で自身の時間を飛ばしそこから更に大きく距離を取ったのだ。

そして更に進めた時間を利用し、既に魔法の詠唱すらも終えている。

その結果突如頭上に大広間の天井を埋め尽くす程の雨雲が出現。グリアモールは完全に不意を突かれた形となった。

美奈はそのまま力ある言葉と共にその大魔法を解き放った。


「ライトニング・ジャッジメント!!」


オリジンの力と完全な詠唱を済ませた事により威力も効力も大幅に上乗せされた雷の光状が轟音を響かせグリアモールに見事的中した。

ライトニングスピアの比ではない。

これだけのスケールの魔法を受け、流石のグリアモールも無事で済む筈が無い。


「……勝った!」


勝ちを確信し、美奈はグリアモールが焼け焦げていく様を見据える。

だが次の瞬間にはその確信が違和感へと変わる。


「……??」


美奈が放った魔法の光はグリアモールに直撃したまま弾ける事無くその場に留まり続けているように見えるのだ。

光の中を注視すると、そこにグリアモールの陰が浮かび上がっている。

そしてはっきり美奈と目が合う。

その瞬間の事だ。


「マジックリフレクト」


突如としてグリアモールの体に取りついていた光の全てが美奈の方へと押し寄せた。

まるで意思を持った大蛇のように一瞬にして彼女の目の前に迫る。

避けられない。

悪寒は、あった。

何かしてくるだろうことはなんとなく知り得ることはできていたのだ。

だがそれを行動に移すには、今の美奈にとってはあまりにも経験値が足りなすぎたのだ。

突然の事で完全に意表を突かれ、美奈は魔法の矛先を黙して見守ってしまっていた。

まるでその光の美しさに見惚れてしまっているかのように。

実際は目で追う事すら難しいその光がスローモーションで美奈の目の前に迫っている様を目撃しているような、そんな錯覚すら起こしてしまう。


「美奈!! 何をしている!」

「っ!?」


間一髪だった。

あと一秒でも隼人が美奈に向かって飛び込んでくるのが遅れていたら、二人共に黒焦げだっただろう。

不意を突かれ動けないでいた美奈を突き飛ばし、既の所で直撃を免れた。


「あっ……ぐっ!」


「隼人くん!?」


目を向けると左足の膝から下が被弾したようで焼け焦げていた。

見るも無惨な状態だが焦る必要は無い。


「タイムトラベラー・リバース!」


時間を巻き戻し、隼人の足を元に戻す。

元に戻す事は出来たとはいえ美奈の精神的ダメージは否めない。

自身の力不足で一度ならず二度までも隼人に同じ魔法を被弾させてしまった。

何とも言えないやるせなさに打ちのめされ美奈は一瞬言葉を失う。

だが今は戦いの最中。

ともすれば簡単に命を失ってしまいかねない状況。

いちいち心を揺さぶられていては相手の思う壺だ。

それを重々承知している美奈は直ぐ様気持ちを立て直し前を向いた。

再びグリアモールへ目を向けると、そんな美奈の動向を何をするでも無く見守っていた。


「ククク……誤って殺してしまうところだったよ。ハヤト、助かったよ」


続け様に攻撃しようと思えば出来た筈、それにより戦いを優位に運ぶ事も。

あくまでも人間を遊戯の対象とだけ捉えているような態度に思える。

ふと頬に汗が伝う。

そんなグリアモールの様子に美奈の心に初めて一つの感情が生まれたのだ。

ほんのささいな規模かもしれないが、美奈の胸に生まれた確かなその感情は恐怖だ。

ここまで事を有利に運んでいたかに思えたが、結局相手の掌の上で転がされただけのように思えて。

そんな事は無いと思いたいが、実際美奈は今のやり取りで完全に追い込まれていた。

今のライトニング・ジャッジメントを防がれた時点で美奈にはもうグリアモールを傷つける手段が無いに等しい。

オリジンの能力は時間操作。

椎名や工藤の精霊とは違い、基本的には攻撃というより周りを補助する力がメイン。

とすれば美奈の攻撃手段はこの光魔法と他は弓を多少嗜(たしな)む程度。

元々物理攻撃の効かない魔族に弓は(はな)から当てにならない。

そして唯一の有効な攻撃手段である魔法も防がれたのだ。

それどころか反射し、そっくりそのままそれを反撃に切り替えるという芸当までやってのけたのだ。

美奈はここまでのやり取りで正直手詰まりとなってしまったのだ。

そして同時に悟る。

自分一人の力ではどうする事も出来ないという事を。


「ククク……。どうしたんだい? かかってこないのかい?」


そんな美奈の心を見透かしたかのように挑戦的な言葉を投げ掛けてくるグリアモール。

頬を伝う冷たい汗。握りしめた掌も汗ばみ、その場に佇む美奈。

だがそのグリアモールの言葉に返答したのは美奈ではなかった。


「グリアモール、もういい。やめてくれ」


無情に響き渡るその声。

美奈は今隼人が何を言ったのか理解出来ずにいた。

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