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私のわがままな異世界転移   作者: とみQ
ヒストリア王国最後の激闘編
260/1063

5-30

グリアモールはどうやら先程放ったライトニング・スピアでは如何程もダメージを負わなかったらしかった。

魔法をその身に受けた時と全く同じ様相でその場に佇んでいるのだ。

そんなグリアモールを真っ直ぐと見つめ、美奈はその眼差しと同じような真っ直ぐな言葉を放った。


「グリアモール、あなたに隼人くんは渡しません。どうしても連れていくというのなら、私があなたを止めます」


そんな美奈の言葉にグリアモールは始めて口を歪め笑う。覗く夥しい量の犬歯がその不気味さ(おぞ)ましさを一層引き立てる。


「ククク……いいだろう。前回君とは遊んでやれなかったからねえ。それに正直ハヤトはあまり傷つけたくはないんだ。丁度いい……少し恐怖を刻んでおいてあげよるよ」


美奈は改めて心を強く持ち直す。そして自身の心と共に在るオリジンに力を求めた。


『ミナよ。止めてもムダじゃと分かっておるからワシも黙って力を貸そう。じゃが奴は一級魔族。くれぐれも用心せい』


「一級魔族?」


美奈はオリジンの言葉に疑問を抱く。そしてそんな事はあり得ないのではないかと思う。

一級魔族と魔王は、現在封印されているとネストの村にいた頃聞かされていた。

グリアモールが一級魔族というのならば、もうそれらの魔族は封印から抜け出てきてしまっているという事なのだろうか。


「ククク……精霊と会話しているのかな? そうとも。私は君たちの言い方で言うと一級魔族、ということになるらしいね」


グリアモールに美奈の呟きが届いたらしい。彼女の疑問にはグリアモール自身が答える。だがグリアモールの言葉には疑いしか起こらない。


「そんなの嘘だよ。一級魔族は封印されているはずでしょう?」


「ククク……。まあそうだねえ。魔王を含む他の一級魔族は未だ絶賛拘束中さ。私は一級魔族の中でも少し特別でねえ。とにかく私は一級魔族。それに嘘偽りは無いと断言しよう……ククク……」


平然と言い放つグリアモールの言葉に美奈の心は動揺するかに思われた。一級魔族を相手に萎縮してしまうのではないかと。少なくともグリアモールはそう思っていた。


「……そう。じゃあ今ここであなたを倒せばしばらく魔族の脅威は去るってことだよね」


思いの外強気な言葉にグリアモールは内心驚いていた。

一見弱々しく見える彼女ならば戦わずして心を折り、優位に戦いに臨めるのではないかとすら思っていたのだ。

グリアモールはここで美奈への認識を少し改めた。


「フム……では始めようか、ミナ」


グリアモールはその言葉を最後に不意に姿を消した。精神世界にその身を移したのだ。

美奈は直ぐ様予めライトニング・ギャロップの超スピードでその場から離れる。

正確な位置までは掴めないまでも、上位精霊オリジンのお陰で気配くらいは察知出来るのだ。

今グリアモールは精神世界の中をかなりのスピードで移動しているようだ。といっても本人は実際大したスピードで動いてはいないが、あちらは時間の流れがゆっくりなのでこちらの世界から見るととても速いスピードに感じられるのだ。

グリアモールが逐一精神世界を移動するという事は動きの面に於いて相当のアドバンテージを得たと言える。

グリアモールはほんの0コンマ1秒程の時間で今しがた美奈がいた場所に出現し、彼女に襲いかかる体制を取った。

だが勿論もうそこに美奈はいない。


「!?」

「ライトニング・スピア!」


「っ……!」


一筋の雷光がグリアモールを貫き一瞬動きが止まる。殆ど効いている感じは無いが、少しも効いていないという訳でもなさそうだ。


「あっちの世界に逃げてもムダです。それともいちいち逃げ隠れしないと私とは戦えないの?」


敢えて挑発的な言葉を浴びせる美奈。


「ククク……そうかい、わかったよ」


グリアモールは一度精神世界に逃れるのは止めて、今度は揺らめきながら姿を幾重にも増やしていくという手段を取った。

それはまるで分身の術のようであった。幾人ものグリアモールが同時に美奈に迫り来る。

だがそれでも美奈は眉根一つ動かさず、特に慌てた様子は無い。

これは特殊な動きで沢山いるように見せているだけの技。実際本体は一つなのだ。

美奈はすかさずグリアモールの気配を察知し、その行き着く先へと再び雷光を放った。


「ライトニング・スピア!」


「ぐうっ!」


これも見事グリアモールに命中。今度は動きを止めると共に少し呻き声を洩らした。確実に効いている。美奈はそう感じた。

そしてグリアモールの方はこの結果に少し納得がいっていない。予想外の事が起こっているのだ。


「なぜだ? ただの魔法で魔族の私がダメージを受けるなど」


その疑問を言葉にするグリアモール。

美奈は二度放ったライトニング・スピアで勝ちを確信する。

本来ならば魔法はグリアモールが言う通り魔族に通用する事は無い。

だが美奈は精霊オリジンとの契約を結んだ事により時間を操る以外にも幾つかの能力を得ていた。

これは上位精霊としてより長く生きたオリジンだから出来る芸当と言ってもいい。

その一つが先程のように魔族の気配を感じる事。そして今のように魔法にオリジンの魔力、マインドを付与し、本来の魔法を魔族にも通用するようにする事だ。

美奈は今回の契約により精霊オリジン本来の、時を操る能力だけで無くオリジンの上位精霊としての知識や経験も同時に手に入れたという事になるのだ。


「グリアモール、私があなたを倒します」


「ククク……、中々に強い。そして威勢も思ったよりずっといいじゃないか」


美奈のいつになく強気な発言。それを静かに見つめるグリアモール。


「……美奈」


大広間の隅で二人の戦いを見つめる隼人。ここまで美奈はグリアモールとの戦いを有利に運んでいる。それは疑いようの無い事実だとは思えた。

だがしかし隼人はそれでも一抹の不安を拭い切れない。いや寧ろ不安は大きくなるばかり。

確かに自身が相対した時も思いの外あっさりとグリアモールは倒れた。だが今にして思えば結局あれは全く以て本気では無かったのだ。それどころか実力の片鱗すら見せていなかった。ただ隼人の攻撃にやられた振りをしただけ。

そして今回もそれは何ら変わらないのではないか。

確かに以前戦った時より今の方が強いとは思う。力も見せている。そして美奈の力はそれを圧倒している。

だが本当にこの魔族は力を出しているのか。正直まだ半分の力すら出していないのではないか。

この魔族は底が知れない。一体どれ程の余力を隠し持っているのかという疑念が隼人の頭の中で渦巻いた。

そんな隼人の心の内は露知らず。美奈はこれで決めるとばかり静かに目を閉じ一度精神を集中させる。

そしてそのまま自身の最高位の魔法の詠唱に入ったのであった。

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