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私のわがままな異世界転移   作者: とみQ
ヒストリア王国最後の激闘編
256/1063

5-26

「━━何なのだ……あいつは……」


ヒストリア城大広間。

ここでの悪夢のような戦いは終わりなく続いていく。

残された私達と、苦しみながらもその姿を巨大な肉片へと変化させていくポセイドン。

最早原形は留めておらず、ただの肉塊と成り果ててしまっている。

最初に上げた断末魔のような声は、口が無くなった事により妙に静かになった。

攻撃はして来ないし意識も失くしてしまったようだ。

これは最早ポセイドンと呼べる代物ではない。

だが問題はそこではない。

その質量をどんどんと増していっていることなのだ。

部屋にあるもの全てを手当たり次第に呑み込んでいく肉塊。

まさかとは思うがこのままヒストリア王国の全てを呑み込んでいくというのではなかろうか。


「ハヤト! 何をしておるのじゃっ! とにかく攻撃じゃ!」


「……わ……分かっている! エルメキアソード!」


いつの間にか背中に回ったバルに声を掛けられ我に帰る。

若干の動揺を残しつつも、即座に気持ちを切り替えポセイドンだったものへと迫るのだ。

だが私の攻撃は肉塊にほんの少しの切り込みを入れただけにとどまった。

切れたところは即座に再生してしまうのだ。

今の私ではここまで大きくなってしまった肉塊をどうする事も出来ない。


「━━━━っ」


私は浚巡する。

今この場所には私とバル、それに倒れている椎名とアリーシャ、フィリアがいる。

実質戦えるのは私とバルだけであるが、我々もポセイドンとの戦いでその力の殆どを使い果たしていた。

解除してしまっている融合も、今の状況で再びという事は難しいだろう。

一旦皆を担いでここを離れるか。

だが時間を置いて取り返しのつかない事になってしまったらそれこそもうおしまいではないか。

私は歯噛みし拳を強く握り締める。

次から次に終わりかと思えば障害が湧いてきて私達を苦しめてくるのだ。

一体いつになれば終わりが来るのかと、いい加減うんざりした気持ちにもなる。

しかもこれを乗り切ってもホプキンスの問題はまだ解決していないのだ。

奴を探しだし、捕らえる時まではとてもではないが安心など出来はしない。


「━━っくそっ!」


悩んだ末、肉塊を睨みつけながら毒づくと、一旦その身を翻した。

皆を連れてここを離れるのだ。

何とか美奈と工藤と合流出来れば話は変わってくるのだし。

先程ポセイドンが引き起こした津波はもう止んでいるようであった。

あの二人が何とかしてくれたという事なのだ。

となれば今こちらに戻って来ようとしているはず。

そういう事ならばあながち合流は難しい事では無いと思えたのだ。

戻って来た美奈と工藤と合流し、改めて三人でポセイドンの肉塊を何とかするのが一番現実的だ。

私は先ずポセイドンだったものの一番近くに倒れているアリーシャとフィリアを担ぎ上げ、一旦大広間の外の廊下へと連れていった。

椎名も心配だが流石に三人は一度に運べない。

私は走って広間の外へと急ぐ。

そこから廊下へと続く扉は目と鼻の先。

扉を開いた矢先のことだ。見知った者に声を掛けられた。


「━━隼人くん!」


「美奈っ! 無事か!?」


「うんっ」


美奈の顔を見て、私は心の底から安堵した。

思わず全てを忘れ抱き締めてしまいそうな衝動に駆られたが、流石にそんな事をしている場合ではないということは分かっている。


「美奈、工藤は大丈夫なのか?」


美奈が無事なのには安心したが、彼は気を失い美奈に背負われた状態であったのだ。


「うん、無事だよ。津波は工藤くんが何とかしてくれた。ただ力を使い果たして今は休んでる」


「そうか。ならまあいい。美奈、とにかく力を貸してくれ」


「うん、もちろんだよ!」


そう言いつつ私は内心舌打ちする。

工藤が力尽きたということはポセイドンの対処は私と美奈でやるしかないということなのだ。

正直工藤の精霊の能力で一気に消し飛ばしてもらうのが一番かと思っていただけに、これは痛い。

そんな私の胸の内は知らずに、美奈は工藤を廊下に寝かせると私の後ろに目を向けた。

そのまま私の横を通りすぎると一人大広間へと入っていく。


「━━おいっ、美奈! 気をつけるのだっ!」


慌てて私もアリーシャとフィリアを廊下に寝かせ、美奈の後を追う。

すると入り口の所で椎名を抱えた美奈にぶつかりそうになる。

ライトニング・ギャロップの光が美奈の体を覆っているのがすぐに分かる。

この一瞬で連れて戻ったのだ。

改めて目の前に椎名の姿が映る。

容態思ったより酷い。

体は至るところに傷だらけで、出血も多い。

顔は青白く、痛々しかった。

正直今すぐにでも手当てをしてやりたいところだ。


「めぐみちゃん……」


椎名の様子を心配そうに眺めながらそっと廊下の隅に寝かしつける。

そのまま美奈は彼女の胸の前に手を乗せふと目を閉じた。


「タイムトラベラー・スキップ」


美奈が力ある言葉を発した途端、椎名の出血は止まった。

顔色は悪いままなので彼女の時間を進め、回復力に任せて一旦出血だけは止めたのだろう。


「めぐみちゃん、もう少し我慢してね?」


青い顔をした椎名の額を愛おしそうに二度ほどさすり、微笑む美奈。

彼女をその場に寝かせ、美奈はというと再び立ち上がり、ポセイドンの塊に目を向ける。


「隼人くん、本当に終わりにしよう」


「━━あ……、ああ。だが一体どうやって?」


いつになく、真剣な美奈の眼差し。

それに若干気圧されてしまう。

かつてこれ程までに自信に満ち溢れた彼女を見た事があっただろうか。


「隼人くん、1つ聞きたい。ポセイドンはああなってからどれくらい経つの?」


見るとポセイドンはその大きさを既に部屋の半分程にまで拡大していた。このままでは城が壊れてしまうのではないかと思えた。


「恐らくまだ……二、三分といった所だ」


「━━そっか。分かった」


美奈は少し思案し、前を向き両手をポセイドンへと突き出したかと思うと、再び力ある言葉を放ったのだ。


「タイムトラベラー・リバース!」


白い光が放たれ、ポセイドンの塊へと降り注いでいく。

すると肉塊はその大きさをどんどんと減少させていった。

ほんの数秒の後、その肉塊はホプキンスが取り出した魔石とポセイドンの一部へと分かたれたのだった。


「あ……あ……」


ポセイドンはそのままあっけなく力尽きた。

程無くして全てを灰へと変え、遂にその命を終えたのだった。


「━━っ!! す、すごいな」


思わず口から感嘆の声が漏れた。

思っていたよりもあっさりと問題の解決は成ったのだ。

しかし改めて思う。

美奈の精霊の能力はとてつもなく凄いと。

その後ようやく訪れた夜の静寂。

私は長いため息を吐く。

ホプキンスの問題は残るものの、これで一旦決着と見て大丈夫だろう。

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