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私のわがままな異世界転移   作者: とみQ
ヒストリア王国最後の激闘編
255/1062

5-25

「く……おのれ……人間風情が……我を……滅ぼす……か……」


天井を見つめながらゆっくりとその姿を灰へと変えていくポセイドン。

その末路は私から見れば憐れとしか言いようが無かった。

滅びる事が魔族の生きる目的だと言う。

だが今のポセイドンがこの滅びを受け入れているとは到底思えない。

恐らく自分の望む滅びでは無かったのだろう。それでは一体、ポセイドンの求める滅びとは何だったのか。

確かに人も自分自身が求める最期を迎えられる者など殆どいないように思える。さすればポセイドンのこの最期も当然と言えば当然の結果なのかもしれない。人も魔族もその生を悔い無く全うする事などそう簡単には出来はしないのだ。

そんな事を考えながら消え行くポセイドンを見つつ、ある種の虚しさが込み上げてくるのであった。


「ハヤト……?」


不意に手を握られる感触に振り向くと隣にはバルが立っていた。どうやら融合状態を解いたようである。

流石に限界だったのかもしれない。

バルには勿論目立った外傷などは全く無いが、若干息を切らし満身創痍、といった状態に見える。

そんな中にあっても主である私の顔を心配そうに覗き込んでくるバル。その心遣いに感謝の念が込み上げる。私は彼女に微笑み掛けた。


「大丈夫だ。戦いは今、終わったのだ」


「……うむ。我ながらよくやったのじゃっ」


バルも私に応えるように笑顔を見せた。そうだ。戦いは終わったのだ。心の中でそう呟いたら体の力が一気に抜け落ちた。その場に膝を突き倒れてしまいそうな衝動に駆られる。目の前にベッドがあったら思い切り倒れ込みたい気分だ。

その時だった。私の目の端の何かが動いた。

弾かれたようにポセイドンを見るとどういった原理なのかは分からないが、その体が宙に浮き始めていたのだ。

ポセイドン自身もその現象は予期していなかったようで、目を見開き動揺している。


「な……何なのだ!?」


「フフフ……お見事」


突如としてポセイドンの側に一人の男が現れた。

静かにその場に佇んでいる。その立ち居振舞いからこの国の者だという事は分かる。それも王宮の使いの者だろうか。その衣裳はかなり豪奢な造りに見えた。


「貴様……何者だ?」


そう問い掛けながらも私の中でほぼ答えは出ていた。教会でアリーシャに聞いていま話が脳裏に過る。

確かこの国の関係者でまだ魔族と覚しき者の存在があった事に思い至りながら。


「お初にお目にかかる。ホプキンスと言う者だ」


やはりであった。この男がヒストリア王国の大臣、ホプキンス。だが私の目には信じ難い光景が広がっていた。

私は疑いなくホプキンスという男は魔族なのだと思っていたのだ。


「貴様……まさか人間か!?」


ホプキンスはその問い掛けにふと小首を傾げた。


「はて? 如何にも。私は(れっき)とした人間ですが。それが何か?」


さも当たり前のように答えるホプキンス。私は体の中の血液が沸騰していくのを感じながら気づけば叫んでいた。


「貴様! どれだけの人々が傷ついたと思っているのだ! 魔族に加担して、恥ずかしくないのか!?」


「恥ずかしい……? 可笑しな事を言いますね。人が魔族に加担して何がいけないと? そもそも人間こそ、滅ぶべき傲慢で醜悪な生き物だというのに。貴方達こそ何故魔族と争うのです? 人は元より魔族に滅ぼされる運命なのですよ?」


「く……、ホプキンス。今さら我を助けるとでも言うのか?」


最早身体の半分以上が灰と化し、今にもその命を潰えようとしているポセイドンがそう告げる。もう完全に死ぬ間際である。身動きを取る事さえ叶わず、助ける事など美奈の精霊魔法でもない限り不可能だと思われた。

すると今迄冷静だったホプキンスは鼻の下から伸びたくるりとした曲線を描く髭を触りながらニヤリとその表情を歪ませた。


「そうですなあ……。貴方様には随分と策を弄して頂きましたので、私としましても救済をせねばと駆けつけた次第で御座います」


「そ……そうか……ホプキンス……」


そう言いながら右手に持った拳程の大きさの魔石をゆっくりとポセイドンへと近づけた。魔石は光を放ちながらすっとポセイドンの中に吸い込まれていった。


「そうです、救済です。今よりももっと醜い悪魔へとその姿を変え、当初の目的通りこの国を滅ぼして頂きましょう」


「な、何だと? ……がっ!? ……があああああああああああああああああああああっ!!!」


「それでは私はこれにて失礼致しますよ。もし運が良ければまたどこかでお会い出来る事もあるかもしれませんね。では、ご機嫌よう」


「待てっ!!?」


待てと言って待つ筈は無い。

その言葉を残し再び虚空へと欠き消えるホプキンス。

私は暫し呆然とし、その場に佇んでしまっていた。

魔族に人間が滅ぼされる。それを本当に受け入れているというのか。

だが今のポセイドンに対する表情は明らかに侮蔑が入り混じっていた。魔族を崇高な存在と考えているとはまた違う気がするが、ともあれ奴が異常な事に変わりは無いのだ。こんな人間もいるのかと私は俄に心を抉られる。気持ち悪くて吐き気がしそうだった。

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