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私のわがままな異世界転移   作者: とみQ
ヒストリア王国最後の激闘編
254/1063

5-24

目を開けると、そこは水の中のような世界だった。

光も射さない。夜のように視界は暗く、黒い。

この空間がどこまで続いているのか、境界が生じているのか、少なくとも見通せる限りではそれは分からない。

とはいっても別に息が出来ないという訳でも無い。

揺蕩う水の中のような空間で浮遊感に包まれ、自分が浮かんでいる場所が真っ直ぐなのか、はたまた横になっているのか。

方向感覚は完全に失われ、この中を動く事もままならないような状態であった。

ポセイドンがウィーバーフィールドと言ったこの空間は奴が自ら作り出した異次元という事なのか。



「ハヤト……大丈夫か?」


声に目を向けるとそこにはバルがいた。

心無しか辛そうに見える。明らかにいつものような元気は鳴りを潜めていた。

その理由は明らかだ。私とバルが融合していたツケなのだろう。

だがここでもう一つ疑問に思う事があった。

何故私とバルの融合状態が解除されてしまったのかという事だ。

理由は二つ考えられる。


「バル? 融合は自ら解除してしまったのか?」


「いや、そういう訳ではないのじゃ。ここに来た途端ウチとハヤトの融合状態が分かたれてしまっただけでなのじゃ」


バルのその返答により私は全てを理解する。


「バル、ここはどうやらポセイドンが作り出した精神世界らしいな」


「ご名答」


声のした方を振り帰ればそこにはポセイドン。ヒレのついた体は正に水を得た魚とばかり周辺を漂う。

じっとこちらを仰ぎ見ながら顔には笑みを張り付け様子を伺っている。

要するにここはポセイドンが作り出した固有の精神世界だ。

本来の精神世界とは異なりポセイドン自身の心の中というような解釈の方が正しいだろうか。精霊との契約の際も実際は精霊が作り出したそういった場所に飛ばされていたのではないかと私は考えている。契約の際に自分達以外何者にも出逢わないのはそういう仕組みだ。

そして私とバルの融合が解除された事もそれならば説明がつく。

精神世界は所謂精神体でのみ存在出来る世界。融合状態とは私の体の内にバルが入り込み、精神を共有する状態を言う。

今精神世界に来てしまった事により肉体と精神の在り方が逆転してしまい、私とバルの精神は再び離ればなれになってしまったという訳だ。


「ここは我の作り出した固有フィールド。この場所でには貴様らに万に一つも勝利の可能性は無いであろう。フフフ……」


自信有り気に話すポセイドン。言葉を発しながらこの空間を自由自在に動き回る。

そしてその動きは徐々に早まっていくのだった。


「フフフ……最早貴様らに我を捉える事は叶わぬ」


水の中を高速移動で縦横無尽に駆け巡る。あっという間に目で追う事さえも厳しい程のスピードとなる。時折飛沫が上がる程度でこれでは消えているのと何ら変わり無いように見える。

その時、私の左手を何かが握り締めた。何の事は無い。バルだ。


「ハヤト、ここならば手を繋ぐだけで融合と同じような効果が得られるのじゃ。それに、今の状態ならばウチの先程までのような苦しさも無くなる」


「……そうなのか?」


聞き返しながらも身体が先程戦っていた時のような感覚に戻っていく。

バルの力が、心が私の中に流れ込んで来るのだ。

それと同時に私は、いや私達はこの戦いの行く末を確信する。

ふと横を見ると笑顔を浮かべ頷くバル。そして彼女は静かに前を向いた。


「「雪月花! 乱舞!」」


二人同時に技の名前を発する。

可視化した半月の刃が自身を中心に360度四方八方へと撒き散っていく。


「ハハハハハッ! どこを狙っている!」


ポセイドンは私達を嘲笑いながら更に加速し、移動スピードを上昇させていく。

最初は見えていた水の中を移動する際の流れのうねりすらもやがて見えなくなり、完全な静寂がこの空間の中を充たした。


『ククク……完全に息の根を止めてやる』


最早何処からポセイドンの声がしたのかを判断する事も叶わなかった。

自分の周りにいる事だけは気配で感じる事は出来るが、それ以上の情報は知り得ない。

だがその実私もバルも全く以て焦りはしていなかった。今の私達にとってはその情報だけで十分なのだ。

私はすっと深呼吸した。

これでやっとこの戦いも終われるのだと。


『ハハハハハッ! 終わりだ!』


ポセイドンの勝ちを確信した声が空間に響き渡る。


「……そうだな。これで終わりなのだ」


そんなポセイドンの声を聞きながら私も同じ事を思った。

私は生きている者の精神、所謂魂を見る事が出来る能力を持っている。

その能力により魔族特有の黒い靄のようなものが見えるのだ。そしてそれにより魔族とそうでない者を見分けたりもしている訳なのだが。

私はそれが見えると言ったが、実は少し違っている。実際には視える(・・・)のだ。

目で捉える事は出来なくとも、視えている以上私達の技で捉える事は出来る。

私は静かに再び斬撃を放った。


「秘剣、……五月雨」


私の内から放たれた精神波のような斬撃は、水面に落ちた雫のように飛んでいき、やがて対象物に触れ、その瞬間弾けた。


「がはあっ!? ……な、なんだと……?」


私達が放った斬撃はポセイドンの核を見事に捉えた。

そして動きを止めたポセイドン目掛け、更に先程私達が放った雪月花が全て弧を描き戻ってくる。


「がはああああああっっっっっ!!!!」


夥しい数の斬撃をその身に受け、ひいては核までも傷つけられたポセイドンに、最早戦う力は残されてはいないであろう。

私の周りの景色がゆっくりと欠き消えていき、それと同時にパズルのピースが繋がっていくかのようにヒストリアの大広間が姿を現した。

私とバルが立っているすぐ目の前に、傷つき倒れ伏したポセイドンの姿。荒い息を吐きながら今最期の時を迎えようとしている。

戦いはようやく終わろうとしているのだ。

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