5-21
一方その頃工藤と美奈はヒストリアに迫り来る大津波を止めるべく港へと来ていた。
夜の静寂を切り裂いてここまでの道を駆け抜けた。
本来ならば優に数分は掛かる距離をたったの数十秒で辿り着く。
美奈の能力を駆使し、移動に掛かる時間を短縮する事により出来た芸当である。
「まじでスゲーな! 高野の能力!」
工藤が若干興奮気味に美奈の方を振り向く。その際に美奈を背負った状態であったので、当然ながら顔が近く、ほんの数センチの距離で見つめあう事になってしまう。
しばし固まって、慌てて美奈を下ろす工藤であった。
「あの……わ、わりい」
「ううん……大丈夫だよ?」
二人顔を火照らしつつも、そんな時間も束の間、近くまで迫る津波を見て瞬時に真剣な表情になる。
この場所まで到達するのも時間の問題。持って後数分という所か。
「工藤くん。この津波を防ぐのは、あなたの力に懸かってる」
「あ、ああ……俺……まあ、そうだよな」
工藤もこの場所に美奈と共に来る事になった時点で流石にある程度の予想はしていた。
だがいざこの巨大な壁のように目の前に迫る大津波を見て若干ひよってしまった感は否めない。
そんな工藤に美奈は言葉を紡いでいく。
「工藤くん、大丈夫。あなたは私たち四人の中でも特に大きな力を持ってるんだよ? まず一つ、工藤くんはデュアルエレメンタラーだってこと」
「デュアルエレメンタラー?」
「そう。火と土、両方の精霊の加護を受けている」
「ああ。ノームとサラマンダーが俺の中にいる」
「うん、そうだね。そして、その力を全て開放してほしいの」
「全て開放?」
「そう。簡単に言うと、火と土の力を同時に出してほしいってこと」
「同時に……」
確かに工藤は今まで戦いの場に於いて、火と土のどちらか片方ずつを使用していた。火の能力に覚醒するまでも土の能力だけで戦ってきたので正直同時に使役するという発想が無かったのである。
だが一つの精霊の力を解放するだけでも相当の精神力を必要とするのだ。実際それを同時にやるという事が可能なのかと疑念が浮かぶ。
そんな工藤の心中を察してか美奈は言葉を続ける。
「大丈夫。工藤くんなら出来ると思うよ? だって工藤くんは私たち四人の中でマインドの量が圧倒的にすごいんだよ?」
「マインド……そうなのか?」
美奈はオリジンと契約した事によりそういった相手の状態などもある程度見えるようになっていた。
正確には精霊オリジンから見聞きして知ったという形であるが、その情報を工藤をやる気にさせるため開示していく。
実際美奈に褒められるような今の状況に工藤も満更ではなかった。何だかんだいって内心徐々にやる気になっていっている。
そんな工藤の性質を知っているからこその美奈の発言なのであるが。やはり男という生き物は女の励ましには弱いのである。
そんな工藤に美奈は更にオリジンから得た情報を開示する。その折無意識ではあるが少しだけ美奈は工藤に近づいた。
「そして何より」
「何より?」
「精霊に好かれてる」
「あ?」
『キイィッ!』『クゥンッ!』
間抜けな声と同時に工藤の心にノームとサラマンダーの鳴き声が響いた。
美奈は穏やかな笑顔で工藤を見つめた。自分を含むこの国の無事を信じ、仲間である工藤を信じるという意思表示であった。
実際はそんな風な美奈の意思表示なのだが工藤は少し斜めにその様子を見ていた。
それは可愛い女の子に上目遣いで頬を蒸気させお願いされているような。そんな顔で見つめられては弱気になるなど男が廃るとそう工藤は考えてしまう。
所謂正義のヒーローとヒロインさながらに脳内補正が入り彼の中でやる気スイッチが入った。
実際工藤にとって美奈の見た目はかなりタイプだったりするのだ。実は昔一度告白した経験すらある程に。勿論今は隼人との仲を認め心から祝福している。だがそれで美奈を可愛いと思う気持ちが変わる訳では無い。今も尚可愛いものは可愛いのだ。可愛いは正義!
そんなこんなで工藤は俄然やる気になった。
改めて迫り来る大津波を見据え、バシンッ! 、と両手で頬を叩き気合いを入れる。




