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私のわがままな異世界転移   作者: とみQ
ヒストリア王国最後の激闘編
234/1062

5-4

「魔族……守る……めぐみ……ちゃ……」


揺れながらフラフラとこちらに向けて再び弓をつがえる美奈。


「美奈? ……」


そんな彼女を見つめていると今度は放たれた矢が明後日の方向へ飛んでいった。私を掠めもしなかったのだ。私は美奈を見つめ続ける。依然としてフラフラと体を揺らせながら今にも倒れるんじゃないかというくらい彼女は不安定だった。



「……工藤くん、フィリアの方をお願い。美奈のことは私が何とかするから」


「え? ……でも、お前」


「いいから! 私と美奈は親友よ。絶対に何とかしてみせるから。それより今はアリーシャの方が心配なの。フィリアに異変があったらアリーシャを守れるのはあなただけよ」


フィリアが正気に戻ったようになって、アリーシャは現在フィリアとの再会に浸っていた。壇上の上で二人、私たちからは少し離れてしまっている。

フィリアは訳が分からないといった様子を見せており、ポセイドンの面影が一切無くなってしまったのだ。まるで今までの記憶が飛んでしまったかのように。

もし仮にまだフィリアの心が無事に残っているというのなら、まだ助けられる可能性はあるかもしれない。

けれど、そうやってフィリアを表に出させたように見せて不意を突いてポセイドンから攻撃される可能性もある。いや、むしろそっちの方が可能性としては高いと思ってる。

アリーシャはライラのこともあって、さらにフィリアを失う現実を受け入れきれない気持ちからか、素直にフィリアの無事を受け入れてしまっている。

このままではポセイドンの思うツボだ。工藤くんの力でアリーシャを守ってもらうのが最も安心なのだ。

今この場にいる中で、一番強く、体力に余裕があるのが彼なのだから。


「それに、美奈は魔法さえ気を付ければ今の私でも簡単にやられはしないわよ。もしヤバそうなら後ろのナイトさんが守ってくれるしね」


そう言って後ろを振り向くと、すぐ近くにアーバンさんとリットくんが立っていた。


「もっ、もちろんッス!!」


緊張気味のリットくん。返答は勢いよくて好ましい。


「……ちっ、わぁーったよ。その代わりあんまり無茶すんじゃねーぞ」


「何言ってるの、安心と安全の椎名ちゃんよ?」


「おま……まあいい」


サムズアップを決める私に観念したようにアリーシャとフィリアの方へと向かう工藤くん。彼は二人の近くまでいって様子を見つつ、いつでも助けに入れるよう控えていてくれた。

これで一旦フィリアは彼に任せる事にする。

さて、それではいよいよ美奈を何とかしようじゃないの。

私は美奈を見据え、先ずは声を掛ける。


「美奈! 目を覚ましなさい!」


「めぐみ……殺さなきゃ。魔族を守る……ために」


私の声に反応した美奈はゆっくりとした動きで手にした弓に矢をつがえ、引き絞ってそこで止めた。


「美奈! 私を殺すの!? その矢で!

あなたの親友を殺すの!?」


再び私の声を、言葉を聞いて、美奈の動きがピタリと止まる。


「しん……ゆう……?」


「そうよ! あなたの親友よ! 椎名めぐみよ! 私はあなたの敵でも仇でもない! あなたの仲間よ!」


「椎名……めぐみ……な……かま」


言葉を復唱しながら、段々と体を震わせ始める美奈。そう思えば今度は突然弓矢を落として頭を抱えながら苦しみ出した。


「う……ああああああああっ!!!」


やっぱり思った通り。

美奈はそんな弱い子じゃない。いや、むしろ私たちの中では一番強いんじゃないかとさえ思う。

こんなことで心全部を操られるなんて、絶対にあり得ないのだ。

もしそれが私ならあり得たかもしれないけれど。


「美奈! 目を覚まして! 魔族は私たちの敵よ!」


私は美奈へと向かって駆け出した。このまま押しきる覚悟で二人の間の距離を詰める。それには流石の美奈も警戒を示した。


「う……いや! ライトニング・スピア!」


「危ない! シーナ!」


「くっ……!!」


アーバンさんの声を背に受けながら私は進行速度を弛めることなく美奈に抱きついた。

大丈夫だ。結局美奈の魔法は私の左肩を貫いたに留まった。痺れるような痛みがその場所に走ったけれど、このくらい今さら何てことはない。


「美奈!」

「あああっ!」


私と美奈は互いに声を発しながらそのまま広間の床を転がり、最終的に私が美奈にマウントを取られたような形となった。

美奈はすぐさま右手に光のマナを集め魔法を打つ体制になる。今度こそ私をその魔法で貫かんとして。


「シーナッ!!」「シーナさんっ!」


こちらに近づこうとするアーバンさんとリットくんを手で制し、覚悟を決めて美奈の瞳を見据えた。


「いいわ、美奈。やりなよ。魔族なんかに殺されるより、親友のあなたの手で最期を迎えた方がよっぽどいいもの」


途端に美奈の手が頭上に振り上げられ、そこで止まる。そのまま震える指先が私に向けて振り下ろされる事は無く、微かに唇も震えているのが分かった。

戦っているのだろうか。自分の中に巣食う、魔族の魔力と。


「私は! うう……めぐみ……ちゃんっ!」


美奈の右目から一筋の涙が溢れた。それがまるで私に助けを求めるようで胸が切なくなる。私は起き上がり美奈の肩を力強く掴んだ。


「美奈! 負けないで! あなたは強いはずよ! こんな魔族の力に屈するような子じゃないって、私は、私は信じてる!」


もう一度強く強く美奈に訴えかける。私の言葉がほんの少しでも美奈の助けとなってくれれば。その一心で、心の限りに叫んだ。


「美奈! 何があってもあなたは私の親友だからっ!」


私の言葉を受けて美奈は堪らず立ち上がり、苦しそうな面持ちで後退っていく。


「う……ああああっ……!!!」


頭を抱え半ば発狂するように震え上がっている。皆の視線が彼女に注がれる。


「美奈っ!!」


もう一度名前を呼んだ瞬間、彼女と目が合った。潤んだ瞳は虚ろでは無くて、しっかりとした輝きを持って、彼女の勝利を思わせた。

そしてゆっくりと彼女の右手が頭上へと持ち上げられて、人差し指が天を指し示す。


「ライトニング・ジャッジメント!!」


力ある言葉と共に光魔法が放たれ、一柱の光状が頭上に出現。

その無情な程に太く力強い輝きを放つその光は、一瞬にして身体全体を焼き貫いたのだった。

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