第1章 秘めたる真の力 5-1
「おい、急いだ方がいいぜ! でっかい部屋で立ってた四人の内の二人が倒れた! 今中で立ってんの二人だけだ! これって誰かやられたんじゃねーのか!?」
「もうすぐそこよ! 行くわよ!」
城の中。王がいると思われる広間へと続く長い廊下を駆けながら私は叫ぶ。
工藤くんの説明に良くない予感を抱きつつ、それでも皆の無事を願った。
そして広間へと続く扉の前に辿り着き、躊躇することなくそれを思いっきり開いた。
ガチャリと音がして奥へと開かれる扉。私の背中から前へ風が舞い込み目の前に広がる光景。
「高野っ! フィリア!」
最初に声をあげたのは工藤くん。
今この場に立っているのはこの二人だけ。彼は見知った二人が無事な姿を確認して若干安堵の色を滲ませる。
けれど私はこの広間全体の様子を見て全く別の事を考えていた。
倒れている人たち。目の前のフィリア、美奈。そして浮かび上がる最悪のシナリオ。
「なんて……残酷な……うっ……!! うあああああああああああっっ……!!!!」
「どっ!? どうしたんだよ椎名!? いきなり大声出して!?」
急にうずくまり半ば錯乱気味に発狂したような声を上げた私を覗き込む工藤くん。
気持ち悪くて内臓がぐちゃぐちゃに潰されたような心持ちになる。吐きそうなほどに苦しくて、それでも目を閉じ錯乱しそうになるのを既の所で堪える。
心配そうに私の顔を覗き込む彼。
私は身体中を掻きむしりたくなるような憎悪と後悔と怒りの感情がない交ぜになり発狂しそうになる。息が荒く、呼吸困難になって倒れそうだ。
それでも彼の手を強く握りしめ、何とか自分を律する。
そうだ。今叫んでいる暇なんてない。倒れるなんて最悪だ。
そんな暇があったら考えろ。この先私が、私たちがとうしていくべきなのかを。
理想の答えは見つからない。いや、正確にはもう無くなってしまった。
けれど私たちはまだ生きている。このまま負けて全部終わりだなんて事にはしたくない。絶対にそうならない。なりたくない。
私は覚悟と決意を内に秘め、冷静さを失うことなく何とか立ち上がった。そして大きく深呼吸。
皆私を不思議そうな、心配そうな目で見ている。
涙が出そうになるのを堪え、ふっと笑顔を作る。
「ごめんね……、大丈夫だから」
「大丈夫っておい……」
私は尚も心配そうにしている工藤くんを横目に美奈とフィリアへと体を向ける。
今は感傷に浸る気持ちを切り換える。冷静になれ。私がしっかりしなくっちゃ。
全てを理解した私だけがこの場を支配できる権利を得ているんだ。
もしここからの選択を誤れば、きっと全滅は免れない。つまり私たちにも命の危険が迫っているということ。これ以上の被害だけは避けなければ。もうこれ以上、何も失いたくはない。
こんな気持ち、非情なのは解ってる。人でなしだって自分でも思う。けれど私は一度心に蓋をする。フラットな気持ちで事を運ぶよう心掛けるのだ。
「フィリア! 美奈! 無事!?」
扉の前に立ち止まり、まず二人に声を掛けた。
他の皆を手で制し、そこから動かないよう目配せする。
「シーナさん! クドーさん! アリーシャ様! ご無事で何よりです!」
フィリアが答え、こちらに近づいてこようとする。
「待って! 動かないで!」
そんなフィリアに動かないよう指示する。フィリアはきょとんとした表情で首を傾げた。
「どうしてですか? もうここに敵はいません。何も危険はありませんよ?」
「どうしてそう言いきれるわけ? 敵が誰なのかも分からないこの状況で?」
彼女を見据え発する私の声は既に震えていた。心と体がちぐはぐで訳が分からなくなりそうだった。
いや、ちぐはぐはウソだ。心の叫びが身体に直接的に影響を与えて、それを自分でも止められない。どうしようもない。
頬に手を当て不思議そうに呟く彼女の仕草に私は一人恐怖を覚えていた。
こんな時いつも自分がとうしようもなく孤独に思えてくる。私は一体何と戦っているのだろうかと。
一呼吸置いてゴクリと唾を飲み込んだ。
「白々しいわね。あなただったんでしょ? 今回の黒幕は」
頬を汗が伝うのも構わずに私は言ってやった。
さらりとそう告げた私の後ろでアリーシャの息を飲む声が耳に届く。
正直心が挫けそう。
こんな惨状の中平然と話している自分も嫌になるのだ。
唇を噛み、拳を握りしめる。胸が苦しくて、張り裂けそうだった。
フィリアは私の目をまじまじと見る。すると彼女はそのまま一度、薄く微笑んだ。
その顔はにこやかで晴れ晴れしく。今までのどんな彼女の表情より輝いて見えて、それが私の恐怖を一層掻き立てた。ぞくりと背筋に冷たいものが走る。
「ふむ……そうですね。さすがにバレますか。これ以上引っ張るのも面倒ですし、もういいです。それにここからはネタバラしをした方が楽しめそうですしね」
私の問いかけをあっさりと受け入れるフィリア。そして突然彼女の雰囲気が一変した。




