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「流石に大きいわね……」
目の前に悠然とそびえるヒストリア城。遠くからでもその大きさは確認出来ていたけれど、いざ目の前にしてみるとさらにその数倍もの大きさに感じられる。
私と工藤くん、アリーシャ、そしてアーバンさんとリットくんの五人はようやぬその正門へとたどり着いていた。
私はふと後ろに控えているアリーシャの顔を伺う。
正直アリーシャはすぐには立ち直れないかと思ったけれど、目を赤く腫らしてはいるものの、いつもの凛とした表情に戻っている。
その表情からは、これからの戦いに赴く決意のようなものが感じられた。
そんなアリーシャを私は本当に強いと思う。私なんかよりもずっと、ずっと。
「工藤くん、突入する前に一応中の感知をお願い」
私は再び前を見据え、隣にいる工藤くんに中の様子を伺うようお願いをする。
「ああ」
工藤くんは目を閉じ、城の中へと意識を集中させた。
「調べてほしいのは二階の大広間よ。そこが王のいる玉座らしいから」
「わかってる」
先程私たちはアリーシャから玉座までの道のりを説明してもらった。けれど工藤くんのことだから、しっかり聞いていなかったとか説明が早くて覚えらんなかったとか、そんな感じの理由で頭に入ってはいないかもとは思ったけれど、どうやら取り越し苦労だったようだ。
工藤くんは目を閉じ自身の内に意識を集中させながら、何かを感じたように肩が揺れた。
「……人が三人倒れてる。立ってるのは三人……か? あと一人、牢屋みたいなのがあって、そこにも倒れてるぞ? 今は戦ってる形跡はないようだが」
「……」
私は工藤くんの言う情報から現在の中の状況を推測していく。
立っている三人が隼人くん、美奈、バルっていうのが私たちにとっての一番いい形。最悪はその逆。
戦ってる形跡がないということは、戦いが終わったということだろうか。
だけど牢の中の人も倒れてるというのはしっくりこない。まだ私達がいるのだから人質だとしたら生かしておく価値はあるはずだ。
それにおかしい。
私が教会で感知した時は確かに牢の中に複数の人影を感知したのだ。
いつの間にか一人になっているというのは一体どういうことだろうか。
一人を残して外に出された?
盾のように人質に刃を突きつけながら戦ったとか?
それとも複数感知したのは私の単なる勘違いか。
今となっては私の記憶にしか留まっていない出来事なので、その時のことを再度確認する術はない。
私は浚巡し、再び工藤くんを見る。すると彼も私を見ていたようでバッチリ目が合った。ちょっと何ジロジロ私のこと見てんのよつねるわよと思ったけれど一旦それは心の中に留める。
「工藤くん、一応確認だけど。あなた、玉座の牢の中にフィリアと一緒に捕らえられてたってことはないわよね?」
「は? んな訳ねーよ。俺は精神世界の牢獄にずっと捕らえられてたんだからよ。そもそもさっきまでフィリアも捕らえられてるなんて知らなかったし」
一応工藤くんに確認を取ってみたけれど、やはりそんなことはないようだ。
一時は二人で捕らえられていたというのが一番自然なのだけれど、やっぱり工藤くんとフィリアは別の場所に捕らえられ拘束されていたのだろう。
そして今玉座で捕らえられているのはフィリアだと思ったのだけれど。フィリアだとして、倒れているというのはどういうことだろうか。やはり皆もうやられてしまったのだろうか。
最悪の予感を感じながらも、私は胸の中に変なもやもやを感じていた。
その時だった。
「あっ……!? どうなってやがんだ!?」
私の思考を遮って、突然工藤くんが動揺して叫んだ。
「どうしたの!?」
「牢の中のやつが……急に二人になっ……た?」
「えっ……!?」
私の頭の中で何かが弾けた。
牢の中の人は十中八九フィリアなんだと思う。
それが二人になった可能性として考えられること。
全てのことは単に私の憶測に過ぎないけれど。工藤くんの不確かな言い方も私の中で一つのある答えを導き出すピースとしてぴたと嵌まるのだ。
「みんな! 急いで合流するわよ!」
私は先陣を切ってヒストリア城の門を開く。開いた隙間からスッと風が吹き抜けていく。




