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私のわがままな異世界転移   作者: とみQ
ヒストリア王国編
221/1063

4-48

「大気に漂いし風のマナよ」


私はネストの村で当然皆と一緒に魔法の特性を調べた。もちろん結果はどの属性にも対応していないというものだった。特性が認められたのは美奈だけ。彼女の光の魔法のみがこの世界で私たちが認められた唯一の使用魔法だった。

けれどそれはあの時の話。

あれから色々あった。修行も積んだし、それなりに修羅場というやつも潜り抜けてきた。そして何より、風の精霊であるシルフとの契約を結んだのだ。

そしてシルフ自身も言っていた。今の私は風の魔法が使えるようになっていると。

確かにそれはシルフの恩恵の賜物なのかもしれない。彼の力を失った今使える道理は無いのかもしれない。でも果たして本当にそうだろうか。

シルフと契約を結んでから私の見えている景色は色を変えた。この世界に輝ける美しいものが前以上に見えるようになったのだ。

それは空間に漂う緑の光の粒子のような、数多く私の周りに散りばめられた光輝く美しい世界。

きっとこれは私に力を貸してくれる。何故だか分からないけれどはっきりと確信を以てそう感じている。これは風と友達なった私と共に戦ってくれる大いなる存在、マナなのだ。


「我が手に集いて大いなる風となれ!」


私の言葉に、心に呼応するように、今まで大気に漂っているばかりだったその粒子がこの掌に集まってきた。

やっぱりそうだ。私は、私たちはまだ戦える。


「シーナッ!!」


アリーシャの悲痛な叫び。今この瞬間、ライラの触手が大きな丸太の如く形成され、私たち目掛けて振り下ろされようとしていた。

けれど全く焦りはしない。私は右手に宿るマナを力ある言葉と共に開放した。


「ウインド!」


私の手から放たれた一陣の風が、私の体を空中で軌道を変える手伝いをする。そして今いる場所よりもさらに上空へ私とアリーシャの体を持ち上げた。

もちろん触手も見事に空を切る。そしてその先に目標であるライラの顔が迫っていた。


「アリーシャ!」


アリーシャは私の背中から跳躍し、光を放つ剣を鮮やかに舞わせ、ライラの顔の額の部分の魔石を目にも止まらぬ速さの刺突一つでくり抜き、返す刀でそれを斬り裂く。

ヒュンッ、と小気味いい音を響かせたかと思うと魔石は真ん中で真っ二つに分かたれた。お見事。

直後アリーシャの剣に宿る光は輝きを失い、属性を変換させると思われる、柄に嵌め込まれていた魔石も同時に砕け散った。


「う……オ……お……」


そこから巨大だったライラの体は急速に縮んでゆく。そして足代わりとなっていた触手も消失し、結果的にライラの上半身だけが残った。


「椎名!」


「おっ……と。……工藤くん」


「お疲れ……、椎名」


「…………」


事の成り行きを見つめながら自分の事は全くお構い無しだった私。

そのまま地面に落ちてしまうかという既の所で工藤くんに抱き止められた。またもやお姫様抱っこだ。

何よコイツ、馴れ馴れしい。しかもその笑顔も何よ。どさくさに紛れてちょっとお尻触ってない? とか思いつつ、何となく彼が受け止めてくれる気がしていたのも事実。

ここは痛み分けということでとりあえず何も言わないでおいた。また今度いつもの三倍くらいいじろう。うん。

アリーシャはというときっちり地面に着地すると、ライラの元へと駆け寄った。続いてアーバンさんやリットくんも駆け寄る。


「ライラ! ライラ!」


目を閉じたままのライラに繰り返し呼び掛けるアリーシャ。声には涙が混じっていた。


「……そんなに怒鳴らなくても聞こえてるわよ」


「ライラ!」


目を閉じたままライラはゆっくりと口を開いた。どうやらうまく正気を取り戻せたらしい。


「……ありがとう、アリーシャ。こんな私を助けてくれて」


とは言えライラの体はゆっくりとサラサラな灰へと姿を変えていく。彼女にはそう長く時間が残されていないのだと、周りにいる誰もが悟った。


「何を言う! 当たり前だ! お前も昔、私が命の危険に晒された時、自らを顧みず傷を負ってでも助けてくれた! あの時から私は! 何があってもお前を……」


そこで言葉に詰まって、アリーシャの目から大粒の涙が溢れて、ぽたぽたとライラの肌を湿らせた。

ライラの手がそっとアリーシャの頬に添えられる。そして一瞬だけ触れたその手も灰と化し。


「アリーシャ……」


「お前を守るって……決めたからっ……!」


アリーシャの言葉が絞り出され、大粒の涙が地面を濡らす。灰がアリーシャの掌をする抜けるように空に舞い、粉雪のように彼女の周りを漂い消えていった。


「ライラ~~~~~~ッ!!!!!」


夜の静寂と暗闇が、アリーシャの声を一層際立たせる。

最後の瞬間のライラの表情が私の胸にひどく残り、ふと思う。

魔族であってもあんなに素敵な笑顔を浮かべるのだと。

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