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「バカ……、バカ工藤」
夜の町を一人、お城へと続く大通りの壁にもたれ掛かりしゃがみこんでいる私。
私は西の広場での戦いで、心を折られた。
どうにもならない現実に押し潰されてしまったのだ。
挙げ句の果てには自分の精霊までも失って、全て自分のせいなんだと後悔の念が抑えきれない。
自分の浅はかな考えからこんな結果をもたらしてしまって、本当に心底自分が嫌になる。
私は私自身が好きじゃない。
いつも明るく振る舞っているけれど、それは自分を守るためだ。
明るく元気にしていれば、大抵の人はよくしてくれる。
それは結果的に、自分に利となるのだ。
更に私は周りよりどうやらそれなりに察しが良くて、見えなくてもいいものまで見えてしまうようなのだ。
そんなだからいらない情報まで転がり込んでくる。
その結果傷つくのはいつも自分。
そんな自分を守りたくて、必要以上に笑顔を作ってしまう。
それが本当は嫌。たまらなく嫌だ。
すごくズルくて、自分の事しか考えていない姑息な人間。それが私。
正義のヒーロー気取りで工藤くんを始め、ヒストリアの騎士の人たちを助けようとしたけれど結局無理で。
更にそこから正義感振りかざして自分が身代わりになろうとしたけれど、最期の瞬間は怖くて怖くて本当に涙が止まらなかった。
そして一度はだめかと思った命が、自分の生が繋がって、まだここに生きていられることに心底安堵した。
そんな弱さが情けなくて。
何を今まで粋がっていたのだろうと恥ずかしくて堪らなくなってしまう。
私にはこれから皆と肩を並べて一緒に戦っていく資格すらも無い気がしてしまって。
さっきから立ち上がろうにも体が、いや心が立ち上がってくれないのだ。
私はずっと膝を抱えてここに踞っている。
目を瞑って闇の中に何も考えないで埋もれて溶け込んでしまいたい。
だけどそれも出来ない。
目を瞑れば嫌なことばかり考えてしまうし、目を開けても前を見ることができない。
結局何処にも行けやしないし、逃げ道なんかないのだ。
ドゴオォォン……ドゴン……ドゴオオォン……。
遠くの方で地響きのような、何か大きな物体同士がぶつかり合うような音が耳に入ってくる。
その度に私は肩が震えてしまって両腕で体を抱き、一生懸命抱き止める。
ほんの少し前から聞こえてきた音だ。
方向と距離を考えるとこの音を引き起こしている張本人は、先程自分を置いて走り去った工藤くんなんだと思う。
もうアリーシャと合流出来ただろうか。
この音が私の元へ届く度に、どうしようもなく胸が苦しくなる。
でも戦いのことを考えると、吐き気すら催しそうな気持ち悪さが去来して。目の前がクラクラ、チカチカする。
苦しくてどうしようもない。
胸が張り裂けそうで、怖くて、もう逃げたい。本当に心底逃げ出してしまいたい。
ここまで何とか頑張ってきたけれど。
さっきから体が震えて力が入らない。何も出来る気がしない。
「━━どうすればいいのよ……」
不意について出た言葉に答えを投げ掛けてほしくて。
でも今ここに答えをくれる誰かなんていない。
このままここで大人しく待っていろっていうのだろうか。
ここで待っていれば全て解決に向かうのだろうか。
答えは否。
現実はそんな都合よく回ってやくれない。
ならばもっとここまでもうまくいっているはずだもの。
だから迷っているのだ。
……。
……迷っている? いや、そんな事ない。
迷っているというよりはどうやったらここから逃げ出せてしまえるのかを考えている。きっとそう。
私にはもう力なんて残されていない。
迷うことすらおこがましいのだ。
それに私は迷う振りをすることでまた自衛に走っている。
本当に私は醜い。
どうせ今の私に出来ることなんて……もう何もっ……!
「おいお前っ! 何をやっているのだ!」
突然人の気配がして顔を上げる。
するとそこには西の広場で出会った二人の騎士、アーバンさんとリットくんが立っていた。
二人を見た私は急速に鼓動の高鳴りを感じるのだった。




