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私のわがままな異世界転移   作者: とみQ
ヒストリア王国編
204/1064

4-31

「これで少しはましだろう」


「……ありがと」


 椎名の傷は騎士団の部隊長であるアーバンが治療を施してくれた。

 この男、騎士でありながら回復魔法も嗜む。

 そういったプラスアルファの能力がある事も買われ部隊長に任命されたのかもしれない。

 治療後、椎名の怪我は痕すら残らぬ程にまで回復していた。

 後は体力面が心配だろうか。

 相当動きっぱなしで疲労の色が濃く見える。

 そこで役に立ったのが、ピスタの街で購入したポーションであった。

 椎名、工藤、アーバン、そしてもう一人アーバンと同行した騎士の四人でそれぞれ回し飲みをし、皆全快とは行かないまでも充足な回復は得られたようである。


「しかし本当にお前の行動はどうかしているな。私達を戦線から離脱させておきながら結局何だこのザマはっ」


 不意にアーバンが未だ俯きしゃがみ込んでいる椎名へと苦言の言葉を放つ。

 それには椎名も苦い顔をするしか無い。


「……ごめんなさい」


 素直に謝罪の言葉を述べる椎名にアーバンは尚も追い討ちを掛けた。


「更に自分一人では許容しきれないと分かった途端あっさり諦めてしまうとはな。お前のような者が戦いの場に於いて一番質が悪いのだ」


「……ごめんなさい」


「何だ、謝ってばかりだな。あの時の威勢の良さはどうした? びびって怖じ気づいたか?」


「……」


 アーバンの言葉に、椎名は何も言えずただただ謝るばかり。

 椎名からすれば本当の事だから受け入れるしか無いのだ。

 だがそんなアーバンの言葉に対し、工藤が苦言を呈する。


「おい、いい加減……」

「まあ……何だ。それでも、騎士でも無い者に我々が助けられた事は紛れもない事実。実際今命があるのもお前のお陰だと思っている。……その、そんなに気を落とさないでほしい」


「え? ……」


 工藤が文句を言い始める直前、間髪入れず今度は謝辞を述べ始める。

 そんなだから工藤は勿論、椎名も顔を上げてアーバンを見つめている。

 当のアーバンはというと椎名からは目を逸らし、明後日の方向を向いていた。


「隊長~、ホント素直じゃないッスね~。ここに来る前は必死に彼女を助けなければとか何とか言って一人で突っ走っていくもんだから、オイラもめちゃめちゃ慌てたんスよ~? このお嬢さんがえらく気に入っちゃって、助けずにはいられなかった、ってはっきり言ってもらわないと振り回されたオイラの溜飲が下がらないっス」


 横から割り込んできたのは駆けつけたもう一人の騎士。

 顔にはニヤニヤとした笑みを張り付けて、おおよそ騎士という雰囲気からはかけ離れているように見えた。


「――は!? リット貴様っ!? ふ、ふざけたことを言うな! 斬り伏せるぞ!?」


「えっ!? 剣抜きます!? 隊長マジすぎっス!!」


 アーバンのこの姿を見て、工藤も流石に椎名には深く感謝しているのだと気づいた。

 それと同時に椎名のあの行動はとても褒められたものではなかったけれど、騎士達の心を動かしたのだと誇らしくも思う。


「椎名、良かったな」


 安堵の息を漏らしつつ、椎名の肩をぽんと叩く工藤。

 だが未だ椎名の表情は暗いままだ。

 その場に座り込んだまま俯き、明らかに沈んでいた。

 いつもの彼女とは全く異なる。


「……ふむ」


 これまでの椎名との付き合いの中で、こんな彼女を見るのは初めての事だった。

 工藤の中の椎名は、どんな時でも明るく元気で笑顔を絶やさない。

 皆の事をよく見ていて、いつだって前を向く勇気をくれる。そんなだったのだ。

 だから今の彼女にはすごく違和感を覚えたが、工藤の中の椎名はどんな時でも諦めたりするような奴ではない。

 仮に今は落ち込んでいるのだとしても、きっとまた直ぐに立ち上がり、自分達の前を颯爽と歩き始めるに違いない。

 だからそんな時、自分が彼女の横に立っていられるように。彼女が前を向いて走れる場所を失くさないように精一杯今自分が出来る事をしようと、そんな風な決意を密かに胸に灯した。

 さらりと一陣の風が吹き、ふと視界の中にヒストリア城のフォルムが浮かび上がる。

 城は暗闇の中で星の薄明かりに照らされて不気味な程に荘厳な雰囲気を漂わせていた。


「……うしっ」


 工藤は決意の眼差しを向けつつ、拳をぎゅっと握り締めたのだった。

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