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私のわがままな異世界転移   作者: とみQ
ヒストリア王国編
178/1063

4-10

「アリーシャ、してそちらの方は?」


ちらと視線をアリーシャの後ろへとやりながら訊ねた。

そこに控えている神父が先程から気になっていたのだ。

今もこちらの様子を見ながらにこやかな笑みを浮かべているのを鑑みるに、悪い人ではなさそうだが。


「アリーシャ?」


「――ん?」


未だ椎名の寝顔を見ていたアリーシャは、こちらを見て一瞬きょとんとした表情を見せた。

だが神父と私を見比べた後、直ぐハッとなり紹介してくれた。


「し、失礼したハヤト! こちらはこの教会の神父でマルス・マッフォイという。私の幼少期からの……まあ叔父のようなものだ」


完全に椎名に興味をそそられていたアリーシャは顔を赤くしつつ居すまいを正す。そんな彼女を可愛いと思ってしまう。もちろん声には出さないが。


「マルスです。勇者様、よくおいで下さいました。そして、アリーシャ様をここまで守ってくださり本当にありがとうございます。感謝致します」


マルスと名乗る神父は相好を崩し私達を出迎えてくれる。

差し出された手に私も握手で返す。

アリーシャとマルスさんは互いに顔を見合わせ笑顔を見せた。

二人はどうやら旧知の仲のようだ。

アリーシャに対する心持ちも温かな陽だまりのようなオレンジ色をしている。

彼なら信用できるのかもしれない。そう思った。


「アリーシャ、事態は一刻の猶予もなさそうだ。とにかく一旦今の状況を共有しておく」


「――承知した」


その言葉でアリーシャとマルスさんの笑顔が掻き消え真剣なものとなる。

そこから私は皆に事の一部始終を話した。

それを神妙な面持ちで聞いている三人。

椎名は眠っているため一旦話は後回しだ。

彼女を起こさなかったのは、助けに来た彼女の事だから大体の成り行きは予想がついていそうだったからだ。

今は回復を優先させるべきだと判断した。

人一倍理解も早い彼女の事だ。置きむくれで要点だけ伝えれば問題は無いだろう。


「――どう考えても我々は誘われている。そして私達が騎士団や国の兵士を味方につける事も封じられた。これからの事は、基本的にここにいるメンバーだけで対処していかなけばならない。しかも時間制限つきと来ている」


話しながら厳しい状況だなと改めて自覚する。

だが工藤が囚われている以上、時間が迫っている処刑を最優先でどうにかしなければならない。すぐに動くしかないのだ。

だが魔族はそう簡単に工藤を救出させはしないだろう。

必ず工藤を助ける際に魔族を相手取る事になるはずだ。

しかも現状騎士団も相手取る可能性が高い。

彼らは一人一人の実力が相当なもので統率も取れている。かといって悪人でもないから深手を負わすようなことはしたくはない。やりづらいのだ。

ここまでの話を美奈もアリーシャも、厳しい表情で耳を傾けていた。

教会の時計をちらと見やると四時半を回っていた。

後たったの一時間程度で作戦を立て、行動し始めなくてはならない。

だが焦りは禁物だ。それこそ奴らの思うツボになる。

今は一つ一つ現状を整理しつつ、成すべき事をクリアする策を練らなければ。

そこまで考えて、私は一度マルスさんと目を合わせた。

彼はすぐに視線に気づくと、こちらを見て薄く微笑んだ。


「――マルスさん」


「はい。何ですかな? ハヤト殿」


「既に色々巻き込んでおいて今更こんな事を言うのも何ですが、あなたは私達とここにいていいのですか? このままではあなたまで裏切り者になってしまうのではないでしょうか」


私は探るような視線を向けつつマルス神父に問う。その間彼の心に妙な変化が現れないかも注視しつつ。気づけばバルが私の手を握っていた。

アリーシャは眉根を寄せて私達の会話を不安そうに見つめている。

マルス神父はというと、私の言葉に笑顔を崩すことはなかった。


「――はい、構いません」


「――何故ですか?」


「隼人くん?」


尚も食い下がる私の言動を見かねてか、美奈が間に入って止めようとしてくるが、それを手で制した。

分かっている。彼に失礼な事を言っている自覚もある。

だがここははっきりしておかないと万が一の時致命的となるのだ。

幾ら能力である程度見極められるとはいえ、もう少し探って、マルス神父の想いがきちんとアリーシャを擁護する側に向いているか。それがほぼ確定的とならなければ彼をこの場に置いておくことは憚られるのだ。

アリーシャには悪いが、この人が騎士団と内通している可能性は否定出来ない。

こうやって味方の振りをして私達を欺く用意をしているかもしれないのだ。

それが彼自身、正しい行いだと断定して行動していた場合、能力で裏切りを見抜くことはできないだろうから。

そんな事を考えていると、マルス神父は静かに語り始めた。


「ハヤト殿――と言いましたか?」


「はい」


彼は一歩前に出てきて一つ頷くと、静かに語り始めた。


「私はアリーシャ様を幼少の頃から見てきました。彼女は……王女でありつつも決して良い待遇を受けていたとは言えません。闇魔法の特性を認められ、周りからは闇の少女と蔑まれてきたのです。それは年頃の女の子にとって、さぞお辛いものだったでしょう」


神父の心の色が灰色に染まる。アリーシャを本気で心配しているのだ。

当のアリーシャの拳は固く握られていた。


「それでもアリーシャ様は腐ることはありませんでした。国の姫として気高く、正しくあろうとされておりました。例え国や親が彼女を裏切り者と罵っても、どうして私がアリーシャ様を裏切り者扱いすることが出来ましょうか。例え命を奪われたとしても、私は最後の時までアリーシャ様を信じ抜きます。どうしても気に入らないと仰るならそこの柱に縛りつけて頂いても構いません。それとも、今ここで私を斬りますか?」


「――――っ!」


真摯な瞳に見据えられ、私は何も言えなくなる。


「……」


暫し気まずい空気が流れ、息苦しい時が続く。

だがその間一辺の(かげ)りも無く、彼の心は澄んでいた。

本当に心の底から彼は聖職者なのだ。彼はきっと潔白だ。

口からふうと軽いため息が漏れた。


「分かったマルス神父。疑って申し訳なかった」


私は腰を折り、マルス神父に深々と謝罪した。

それを見たマルス神父は何故か嬉しそうに笑顔を浮かべている。


「――何か?」


「いえ当然の事です。私も安心しました。あなたのような人がアリーシャ様の側に付いていてくれている事に」


「マルス!」


黙って事の成り行きを見ていたアリーシャは、今にも泣き出しそうな表情でマルスさんの前に立つ。


「……ありがとう」


アリーシャは彼を思い切り抱きしめた。

マルスさんはアリーシャを自分の子供のように優しく包み込み、頭を後ろから数回撫でた。

マルスさんの表情はとても優しくて、こうして見ると本当の親子のようにしか見えない。


「隼人くん」


「美奈、ありがとう。すまなかったな」


二人を見つめながら私の横に並ぶ美奈は微笑みながら首を二度横に振ったのだ。

――その時だ。


「ようアリーシャ。ここにいたか」


教会の扉がガチャリと開け放たれ、聞き覚えのある声がした。

振り向くとそこには招かれざる者が立っていたのだ。

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