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私のわがままな異世界転移   作者: とみQ
ヒストリア王国編
177/1063

4-9

「ハヤト! 無事か!」


「隼人くん!」


教会の中に入るなりアリーシャと美奈が心配そうな顔で出迎えてくれた。


「二人共、心配をかけたな。私はこの通り大丈夫だ」


その折、ちらと後ろにいる壮年の男と目が合う。

彼は恐らくこの教会の神父だろうか。

アリーシャの知人か。こんな状況でも私達を(かくま)ってくれるくらいた。それなりに信用の置ける相手なのだろう。だが果たして本当にそうか。

男に警戒心を抱きつつ、胸の内を見回した。

見たところ薄暗い色は感じられない。少なくとも悪意や憎悪といった負の感情を持って我々に接しているわけではないだろう。

かといって完全に安心出来るとは限らないが。

ヒストリアの騎士達も胸の中に黒いものを秘めた者はいなかった。

我々にとっては不都合があっても彼らも自分達の正義や信念を持って戦っているのだ。

悪意がなくとも十分に敵となり得るのだ。

そんな事を考えながらふと周りを見回す。

ここは百人分程の木製の長椅子が連なり、それなりの広さを有していた。

奥の壁にはステンドグラス製の絵柄がある。そこには聖母のような細工が施されていた。

この世界でも聖母マリアのような存在はいるのだろうかと。そして神を敬う信仰心のようなものはあるのかと。


「ふい~! ちょっと疲れたわ」


「――椎名。来てくれて本当に助かった」


「ほんと、念のため探しに出て良かったわよ」


椎名は教会に入るなり手近な椅子にゆったりと腰掛けていたが、そこにパタリと寝転んで横になった。

バルも私の手を離れ椅子に座る。取り敢えず一旦は落ち着いてくれたようだ。

どちらかといえば今は椎名の方が気になってしまう。

あまり表には出していないが相当疲れているだろうことは伺い知れた。

彼女には常に無理を強いてしまっている。急に申し訳ない気持ちが込み上げる。

今思えば先程のバルとのやり取りに口を挟んで来なかったのも、単に余裕が無かったというだけだったのかもしれない。

皆に気を使い、その事を悟られないようにしているのかもしれない。


「椎名、大丈夫か」


私は椎名に近づき声を掛ける。すると彼女は私を一瞥して手をぱたぱたと振った。


「あ~……大丈夫。ただちょっと寝かせて? ほんの少しだけで……いい……か……ら」


そう言ってる側から寝息を立て始めた。

私と話してる最中に寝落ちをしてしまうとか。余程疲れているのもあるのだろうが、それよりも何という早業なのか。心配というよりその行動に多少の呆れも感じさせる。私が真面目すぎるのか、だがそのマイペースさも椎名の良いところなのかもしれないとも思う。


「大丈夫――かな」


気づいたらすぐ後ろに美奈の顔があった。

肩口から椎名のことを覗き込んでいたから振り向いた際、思いの外顔が近くて彼女のサラサラの髪が頬に触れる。

それだけで胸の中に愛しさが込み上げてくるが、今はその気持ちは措いておく。


「あ――ああ。大丈夫だろう。今は寝かしておいてやろう」


美奈も思ったより距離が近いと思ったのか、半歩だけ後ろに下がり、再び椎名を見つめる。


「――うん、だね。めくみちゃん、おやすみ。隼人くんを助けてくれてありがとう」


そう言う美奈の表情が慈愛に満ちていて椎名も、私も愛されているなと思う。

とにかく今はこの後の戦いに備える時だ。ほんの少しの間かもしれないがそっとしておいてやろう。

私も美奈の隣で椎名の寝顔を見ながら改めて心の中で深く感謝した。


「シーナは大丈夫なのか?」


いつの間にかアリーシャも心配そうに椎名を覗き込んでいた。


「ああそうだな。流石にお疲れのようだ。今は少しの間でもそっとしておいてやろう」


椎名の頬を軽く指でちょこんと突いている美奈を横目に微笑ましく思いながらそう告げる。

美奈にいじられた椎名は表情をぴくりと動かした。


「もう食べらんないから……」


「「……」」


「――なんというか……強者だな」


「ふふ……だね」


椎名の様子を見つめつつ、私と美奈とアリーシャの三人は顔を見合せにこやかに微笑み合うのだった。

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