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私のわがままな異世界転移   作者: とみQ
ヒストリア王国編
170/1063

4-2

今私達は二人、ヒストリアの城下町を歩いている。

というのも先のケルベロスと三級魔族、グレイシーと魔物の群れとの戦いで椎名と美奈はかなり消耗してしまっていた。

アリーシャは言うまでもなくこの国の姫であり有名人だ。

帰国が悟られない事と、少しでも体力の回復も兼ね、現在三人とも町外れの宿屋で休んでもらっているのだ。

私は今バルと共に町の様子を見つつ偵察、というわけだ。

ここで一つ、解せない事案が発生していた。

バルは私と契約した精霊なのに、常に外に出た状態だということだ。

本来ならば精霊は基本主の中に滞在し、常に感覚を共有している状態だと聞く。椎名とシルフの関係がまさしくそれだ。

だかバルに関しては全くそれが当てはまらないのだ。寧ろ常に外にいる状態でなければいけないのだとか。

離れる事はバルが難色を示した。

離れるとバルの活動自体が危うくなると言う。

精霊は本来精神世界の住人。単体ではこちらの世界で存在を維持することすら難しいのかもしれない。

だとすればこの過剰な接触も、納得出来なくもなかった。だから何だかんだ言いつつも、私はバルと密着する状況を甘んじて受けている。

どのみち私一人では危険だ。二人での行動がやはり今はベストなのだと思う。

ただ独りっ子の私がこうして幼なく見える女の子とと手を繋いで町を練り歩くのは、何とも恥ずかしくもあり、むず痒い心持ちであった。

歩く度に椎名の面白そうに『お似合いよ? 隼人くん』という笑顔が思い出されぐぬぬとなる。


「ハヤト、あれはなんじゃ?」


「――ん?」


不意にバルが何かに興味を示したのか、突然立ち止まりある方向を指差した。

そちらへ目を向けると屋台のようだった。

そこから風に乗って肉を焼いたような香ばしい匂いが鼻腔をくすぐってくる。


「屋台だな」


「屋台?」


バルは不思議そうな面持ちで私を見る。

その表情はやはり幼い少女そのものだ。


「ああ、お金を払って食べ物をその場で渡してくれる所だろう。一つ食べるか?」


聞いておきながら、ふと精霊は人と同じように食事を取るのだろうかと思う。


「ん、ハヤトと半分こなら食べるのじゃ」


「……分かったのだ」


心配は杞憂に終わったようだったが、私にとっては中々ハードルの高い要求をしてくる。

だがそれくらいいちいち気にしている場合でもない。

私は内心で意を決した。


「おやじ、一つくれ」


「あいよ。銅貨一枚だ」


バルを連れ添い屋台のおやじにお金を渡し、一つ購入してみた。

それは何かの肉に火を通し、甘辛いタレをしっかりと染み込ませた串肉だった。

肉の塊は三つついており、上の一つを頬張って残りをバルに渡した。口に入れると中から肉汁がじゅわっと出て来て、それがタレと混ざりあって絶妙な味だった。というかかなり旨いっ!


「ほらバル、食べてみるのだ」


「はむっ……」


バルは私が差し出した串に噛みつきもごもごと咀嚼する。

だがしばらくすると彼女は動きを止め、そのままの体勢で固まってしまったのだ。口に合わなかったのだろうか。


「?? ……大丈夫かバル」


私が声を掛けるとバルは閉じた口をそのまま開き、そっぽを向いてしまった。串を見ると肉は全く口をつけていない状態だった。てっきり噛んだと思ったが――――。


「バル?」


「ウチはいらんのじゃ」


私らその挙動ですぐに一つの可能性に思い至る。


「まさか……食べられないのか?」


私の問いかけにバルはこくんと頷き肯定を示した。

その表情が残念そうに見えて、私は少し悪いことを聞いたかと反省した。


「あ~……バル……大丈夫か?」


バルの反応に色々と不安な考えが頭を過る。何というか、バルは色々精霊として未成熟過ぎはしないだろうか。

身体の大きさや記憶、私の内に入れない事や今のように食事が出来ない事など。

バルの状態は果たして本当に精霊として問題が無いと言えるのか。

そんな考えがどうしても頭に過ってしまっていた。

バルはふと顔を上げ、にっこりと笑う。


「ハヤト、心配は無用なのじゃ。とにかくせっかく買ったのじゃ。冷める前にハヤトが食べてくれ。すごく気に入ったのじゃろう? 旨そうに食べておったしな」


「――ああ……では遠慮なくいただくとする」


何となくバルの笑顔が寂しげに見えて、私はそれ以上考えるのを止めてしまう。

とにかく今は目的を果たす事に集中すればいい。

彼女が精霊として私の力になってくれること、大きな力を持つことに変わりはないのだから。

色々何か理由があるのかもしれないが、その内色々分かってくる筈だ。

彼女とはこれからきっと長い付き合いになるだろうしな。

私は二つ目の肉の塊を頬張った。

やはり旨い。絶品だ。色々解決すればまた皆で食べに来よう。

そんな事を思いつつ、繋いだ手の温もりは彼女の存在を私にしっかりと伝えてくれていた。

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