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私のわがままな異世界転移   作者: とみQ
ヒストリア王国編
169/1062

第1章 あまりにも残酷な世界、それでも世界は美しいのか 4-1

ヒストリア王国。

そこは西に海を臨み、周りを河川に囲まれた天然の要塞の様相を持つ国であった。

約五百年前。勇者ヒストリアと共に魔王と戦った剣士、アレクシア・グランデが築いた王国。友であり勇者であるヒストリアの功績を讃え、国の名前も、剣術の名前すらもヒストリアと名付けた。

それについては剣士アレクシアが余り表舞台に立ちたがらない人柄であったとか、ヒストリアの事を心底気に入っていた。何なら愛していたのではないかという変わった噂まで諸説あったが、実際の所は最早定かでは無い。

魔王の封印に成功した後、自身の剣術を国に広め、国を守る騎士達を育て、その後も廃れること無く剣術の大国として繁栄の一途を辿った。

現在ではおよそ三十万人の人々が暮らし、約一万の一般兵と千人の精鋭であるヒストリア流剣術を扱う騎士達が、来るべき戦いに備え、或いは今の暮らしを守るため、日々剣の研鑽に励んでいる。

その一方で町の人々は、海に面しているこの国の立地を活かし、その多くは漁業を生業にしていた。

また船を利用し、北に位置するインソムニアとの交易を行ったり、また剣の鍛治士の職を持つ者も少なくはなかった。

隼人達はヒストリア王国の姫アリーシャと共に、捕らわれた工藤とフィリアを救うため、そして二人を拐った魔族の陰謀を阻止するため、ここヒストリア王国の城下町に足を踏み入れていた。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


「……納得がいかないのじゃっ」


「いや……納得してほしいのだが」


先程からずっと膨れっ面をしているバル。

私達は石畳の道を手を繋いで歩いていた。

契約をしてからというもの、バルは一向に私の元から離れようとしなかった。

私達二人の関係性は端からどう見えているのだろう。

仲の良い兄弟か、それともそれ以外か。

そんな事を考えていると少々気が気ではなくなるのだ。

私自身普段からあまり人とスキンシップを取る方ではない。恋人の美奈とでさえこんなにもベタベタすることはないのだ。

この状況で正直私は落ち着きなく周りの目を気にしてしまうのであった。

ヒストリアの城下町は思いの外人々でごった返している。

アリーシャに魔族が出没する事件の話を聞いていたので、もっと仰々しく兵士が彷徨いているものと思ったが、そうではないらしい。

町の人々も当然のように不安に駆られ、暗い顔をしているのかとばかり思っていたのだが、行き交う人々には笑顔に溢れ、子供達も楽しそうに町中を走り回っていた。

ここ最近は特に何事も無かったのか、そんな感じで所々兵士はいるものの切迫した雰囲気は一切感じられなかった。

ヒストリアへの侵入は念のため町を取り囲む十数メートルの高さの壁の上を乗り越えるやり方にしておいた。

正規の手順ならば川に架かっている大きな橋を渡り、入り口の大門にて検問を通過して入国することになる。

だがそれにより、魔族に私達が来たことがバレるのはどうかという椎名の意見だった。

工藤とフィリアを人質に取られている以上、出来る限り隠密に行動しようと。

一旦はその意見に便乗したのだが、本音ではそんな事は無駄だろうと思っている。

どういう訳か私達の動向は不思議と魔族側に筒抜けのように思えるからだ。

ピスタの街での事、ケルベロスとの遭遇。どう考えてもタイミングが良すぎるし、その可能性は高いと考える。

そうしたらこんな侵入方法は大して意味は成さないだろう。

だがそれでも出来る限りの事はしておきたい。

後であの時やはりこうしておけば良かったと、何も考えずに思い知るよりはずっとマシだとは思うのだ。


「ハヤト――おん」

「だから駄目だといっているだろう。諦めろ」


私は先程からちょくちょく同じ願いをせがんでくるバルの事を最早食い気味に否定する。


「ちっ……ハヤトはけちなのじゃ」


「何とでも言え」


バルは拗ねた子供そのまんまにふてくされて俯いていた。

これが先程三級魔族であるグレイシーを一瞬にして葬り去った精霊と同一人物なのかと戦慄しつつも、心の中では思った以上に彼女の柔らかな態度に戸惑いと安堵がないまぜになった気持ちを味わっていた。

だがどうしてこうもバルは私と密接する事をせがんでくるのだろう。

本当は何か大きな理由があるのか。

私は彼女のむくれっ面を見ながらそんな事を思い始めていた。


「む、何なのじゃハヤト。ウチの顔ばかり見つめて」


「いや、何というか……思っていた以上に子供だなと思って」


「むむっ!? それは聞きづてならんのじゃっ! こう見えてウチはハヤトより年上じゃっ!」


何の気はなしに漏れでてしまった本音。それにバルは目を見開き食いついてきた。


「一体いくつなんだ?」


「――ん~……100才くらい??」


「いや、何故疑問系なのだ」


私の問いにバルは思案顔で小首を傾げ、自信なさげにそう呟いた。


「うるさいっ! とにかくっ、いっぱいじゃ! それくらいは余裕で生きておるのじゃ! だからおんぶっ!」


「それはない」


「ぐっ……ぐぬうぅ……強情なやつじゃっ」


そう言いまたそっぽを向く。だが手はしっかりと繋いだまま。

バルについて不思議に思うことは多い。

だが今はそんな思考には一旦蓋をし、まずは目の前の事を優先させようと思うのだ。

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