表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私のわがままな異世界転移   作者: とみQ
ヒストリア王国編
168/1063

幕間2 ~暗がりの中、俺とあいつは気が合って~

目が覚めてからどれくらいの時間が経っただろう。正確なところは全然わかんねえが、もうすでに一週間はここにいる気がする。

不思議なことに、その間はほとんど寝ないで過ごせたし、何も飲まず食わずだというのに腹が減った程度で済んでしまっている。

この空腹の感じだとせいぜい一日食事を抜いた程度の感覚だろうか。

覚醒してから体は超人的になりタフにもなった。

だが毎日腹は減っていたし、急にこんな状態になった理由は何なのか。

カラクリはよくは分からないが、とにかく飢え死になんてことにならずに済んで助かった。

そんな間にも犬っころは俺の傍らにいつもいてくれた。

状況が状況だけに、こんな犬っころでもいてくれた方が気が紛れて良かった。

ただでさえ暗がりで身動きが取れないのだ。周りの景色も変化はなく、時間の感覚も分かりづらい。

一人ぼっちならばかなり心細くもなっていただろう。


「犬っころ、あんがとな!」


「クゥンッ」


俺と犬っころはすっかり仲良しになっていた。

どういうわけか最初から懐いてくれてたしな。

コイツもこんな所に一人、いや一匹で心細かったんだろう。俺たちは同士ってやつだ。

ずっとここにいて少しだけ分かったことがある。

この場所は薄暗いのもあるが、世界に色がない。全てが灰色に見えるのだ。

まるで白黒写真の世界にでもいるように、肌の色でさえもそう見える。

ここはかなり常軌を逸した場所なのかもしれない。

それこそ歪んだ空間の中とかそんな感じ?

もしかしたら時間の流れとかも違っていて、それで腹があんまり減らねえのかもとも思った。

なんてったってここは異世界だからな。漫画やゲームの中で起こり得るような事が普通に起こっちまう世界だ。

そんな嘘みたいな発想も満更間違ってないように思うんだ。こんな時だけど、そういうのってわくわくするよな!

あともう一つ。

この場所にいるのはどうやら俺と犬っころだけではないみたいだ。

耳を澄ますと遠くの方で何者かの気配がするのだ。

時折雄叫びのような、人ではない何かの咆哮のようなものも微かに聞こえてくる。

それもかなりの数のものだ。

ここはたぶん、人が寄りつくような安全な場所ではないんじゃねえだろうか。


「クゥン?」


俺の考えが分かるとでも言うように心配そうな表情を向けてくる犬っころ。

こういうところはすげえ可愛い。


「そんな心配そうな顔すんな」


思わず俺は笑顔で犬っころに話しかける。

人の言葉が理解できるわけはないとは思うのだが、なぜかコイツには通じている気がするのだ。


「クゥン」


再び俺の足にすり寄ってくる犬っころ。

いや、もしかしたら本当に俺の言葉を理解してんのかもしんねえ。

常識にとらわれんのは良くないからな。


「ありがとなっ、犬っころ!」


「クゥンッ」


もふもふの毛並みの感触が肌に心地いい。そんなコイツの姿を見ていると心底ほっこりする。

しかし出来ることなら何とかここを抜け出さないとと思う。

俺は離れてしまった仲間に思いを馳せる。

あいつらは今どこでどうしているのか。無事なのか。無理をしていなければいいが。

特にあのお調子者は。

不意に頭の中に浮かぶアイツの顔。


『バカ工藤!』


無事再会できたらこんな風に怒鳴られるんだろうなと思いつつ、それが現実のものとなる未来を思い描く。


「クゥン……」


再び犬っころが俺に声を掛けてくる。心配そうな顔に心が痛む。


「すまねえな。犬っころ。うだうだ考えるのはやめだ! 女々しいったらありゃしねえ!」


少しでも気合いを入れ直そうと俺は声を張り上げた。

こんな時、弱気になるのは一番良くないことだ。

この先どうすればいいかは全く分からないが、気持ちだけは強く持とうと思った。

その時だ。

こちらに近づいてくる足音がする。

コツ、コツと石畳を踏みしめる靴音。

遂に何者かがこの場所におでましのようだ。

俺は牢屋の外を見据えながら体に力を入れて身構える。

ゆっくりと、灰色の蝋燭の灯りのようなものが揺らめきながら足音と共に近づいてくる。

友好的なやつならいいのだが。

俺は淡い期待を頭の片隅に抱きつつ、ゴクリと喉を鳴らした。

やがてその者は牢屋の前に立ち止まり、手に持った灯りをこちらへと向ける。

光が俺の顔を照らし、眩しくて顔をしかめる。

俺が起きていることを確認してそいつはニヤリと笑ったようだった。


「勇者だな?」


そいつは思っていたよりちゃんとした格好をしていた。

王宮が似合いそうな豪奢な衣装に身を包み、しかし顔に張り付いた笑みはどす黒い蛇のように俺に絡み付いてきて怖気が走る。

俺はその瞬間確信した。


「魔族か」


その言葉にそいつは嬉しそうな笑みを讃え。


「出ろ……準備は整った」


そう言って扉を開けた。

俺は今鎖に繋がれている。身動きを取れない状態だ。

だがせめて、それでも相手をおもいきり睨みつけた。舐められたら終わりだ。

この期間の間に今の状態で手足の届く範囲は把握してる。間合いに入ったらぶち倒してやる。

そんな決意を心の内でしている間に、男は牢の中に入り俺に近づいてきた。

完全に油断してやがるのかニヤついた笑みを張りつかせたままに。

間合いに入ってきた瞬間が勝負だ。その一瞬に思い切り蹴り飛ばして即倒させてやる。

そんな折、不意に俺の視界が揺らめいてぼやけた。


「え……? なんだ!? しまっ……た」


気がついた時にはもう遅い。

手にした灯りからは煙が立ち上っている。

それを吸い込んだ俺は体から力が抜けていって……。


「クゥンッ!!」


犬っころが足に噛みついている。

寝ないように刺激を与えてくれているらしい。

だがそんな痛みすらも夢見心地。意識は朦朧としてしまっている。

遠のく意識の中で、何度も吠え続ける犬っころの声が子守唄のように頭の奥に木霊した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ