表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私のわがままな異世界転移   作者: とみQ
ヒストリア王国領編
159/1063

3-46

遥か彼方の地上に雷鳴の音が響き渡る。あれは恐らく美奈の魔法だろう。

とは言っても今いる場所は風の轟音が耳に煩く確信はない。

だが美奈はきっと、私の言葉を真摯に受け止め光の上級魔法を成功させたのだと思う。

彼女へと想いを馳せながら、私はと言えば遥か彼方の上空にいた。

椎名の操る風の能力により、空に上昇できるだけ上昇した後、自由落下を始めていたのだ。

私は手元のツーハンデッドソードをしっかりと両手で握り直し、スピードが増していく上空にて剣を構えた。

徐々に速度が上がり、目も開けていられない程の風圧が顔にのしかかってくる。

私はふと目を閉じる。

地上を見据えてしまうとその高度にびくついてしまうと思ったからだ。

ここは椎名に全てを託す。

目を閉じ、全神経を集中する。


「はあ……」


小さく、長い息が漏れ出た。

私はこの世界に来てからずっと、この世界が自分がいた世界よりもとても美しいと感じていた。

美奈も同じ認識を持っていたことは記憶に新しい。

それは景色の綺麗さや自然の多さ。また見知らぬ土地に対する新鮮さ。そんなものだと思っていた。

だがそれは果たして本当にそうなのだろうか。

私は思う。この世界の美しさには何か他にそう思わせる決定的な何かが在るのではないかと。

それは何か。

マナだ。

マナとは魔法を行使するに当たって、魔力を媒介としてこの世界に顕現し得る大いなる力の源だと言う。

私はこう思う。

それはきっと人がこの世界で持ち得る超常的な困難に立ち向かう力の根源なのだと。

確かに私は精霊の力の多くを使えなくなってしまった。

だがそれは自分の中の魔力が、自身のマインドが消失してしまったというわけではない。

たとえ精霊の助けがなくとも、その力を使いこなすことはできるのではないか。

できる。

少なくとも私はそう思っている。

精霊を感じられなくとも、魔力も、マインドも私の中に溢れているのだから。それはこの世界でずっと感じていることだ。

――――イメージしろ。

私の中にある力を引き出せ。

精霊の力など借りなくても私は戦える。皆と共に進んで行けるはずなのだ。


「――はああああっ!!」


列泊の気合いと共に私の中にあるマインドが溢れた。

それが強く握り締めた剣へと伝っていく。大丈夫だ。私はやれる――――。


「うおおっっ!!」


目を見開き、イメージの向こうにある形を顕現させるため、私は力ある言葉を解き放った。


「エルメキアソード!!」


手にした剣が神々しく光輝く。

私が思い描いていた通りに剣が輝き、光の粒子の膜のようなもので覆われた。

丁度目の前にケルベロスの首が迫っていた。


「ずあああっ!!」


私は力任せに思いきり剣を振り下ろす。

腕に一瞬衝撃が走ったが、刃は思った以上に鋭かった。ケルベロスの首の中へと剣は素通りするように入り込み、しゅるりと首を切り落としてみせた。

滑らかにケルベロスの首は胴体から切り離されとさりと地に落ちる。

断末魔の声すら上がらない。

やってやったぞ。

そう思ったらすぐに地面が目の前に迫る。

余りにも勢いが殺され無さすぎて地面に激突するかと思われた


「はあっ!!」


そう思った矢先、椎名の声が近くで聞こえた。

再び風の能力を発動したのだろう。

私の体は地面に激突するほんの数センチ手前で強い浮遊感に包まれ停止。最後にポスンと地面に尻餅をついたのだった。

直後にケルベロスの体はさらさらと砂のように消失していく。

残ったのは黄色い魔石だけ。

私達を苦しめた三つ首の魔物はようやく倒されたのだった


「ふう~っ! けっこうしんどかったわね~……」


椎名が額の汗を拭いながら呟く。

とことことこちらに歩いてきて私達へと手を差し伸ばした。

その手に掴まり私は立ち上がる。


「何とか倒せたな」


「ほんと、無茶なこと言うんだから」


「うまくいったろ?」


「私のお陰でねっ」


私達は軽口を叩きながら、にこりと笑顔を交わし合う。


「最高は見事だったぞ、ハヤト」


気がつくとアリーシャもすぐ近くにいて優しく微笑んでくれていた。

その向こうには美奈もいて、小走りで私の元へと向かう。


「隼人くんっ、だいじょうぶ!?」


「ああ、大丈夫だ」


超スピードで落下する私を目の当たりにしていたからだろう。

美奈は心配そうな顔で下から私を見上げていた。

だが私としては自分より彼女の方が心配だった。

というのも顔色は少し血の気が引いて青白く、ふらついているように見えたからだ。

身の丈に合わない高位な魔法を使用したからだろう。いつ倒れてもおかしくないように思われた


「美奈こそ大丈夫か? 魔法は成功したようだがかなり辛そうに見えるのだが……」


美奈の肩に手をやり支える。

彼女は薄く微笑むと首を横に振った。


「ううん、そんな事ないよ? 疲れよりも今は皆の力になれた事が嬉しいから」


その表情にはやはり疲れは見えるものの、笑顔は実に晴れやかだ。


「そうか……良かった」


彼女の笑顔に私の胸は安堵感に包まれる。

そんな私を嬉しそうに見つめ、穏やかに笑う美奈はとても美しかった。雪のように白い肌がまるで彫刻かと思わせるほどに。引き寄せ抱きしめると彼女の温もりが胸に広がる。


「隼人くん……痛いよ」


「美奈……」


「ちょっと……あんたらねえ……」


「「っ!!?」」


気づいたら二人の世界に入り込んでしまっていた私達に非難の声が飛んできた。

見ればアリーシャも顔を真っ赤にして俯いている。


「このバカップルがっ!!」


「いたっ」

「いてっ!」


椎名の叱責と共に飛んできたチョップを甘んじて受けた。

まあ何はともあれケルベロスに何とか勝てた。

黄色い魔石を落とす程の魔物だ。よくやったと自分達を褒めたい。

とは言っても赤、青、黄の順番に魔物が強くなっていくはずだ。

ようやくこれで三段階目。まだまだ強い魔物はいくらでもいるのだろうとは思うのだが。

ここから更に緑、白、黒と段階的に強くなっていくのかと考えると気が遠くなりそうなので、今はそれ以上の思考には一旦蓋をして、安堵の息を吐く。

それでも今は少しだけ自分達の力が誇らしい。

私は微かな胸の高鳴りと、達成感という余韻に浸っていた。

この戦いで得たものは、きっとこれからの戦いに向けて大きな力となるものなのであろうから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ