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私のわがままな異世界転移   作者: とみQ
ヒストリア王国領編
151/1062

3-38

ケルベロスの大きな体躯が美奈の魔法による衝撃により、ぶるぶると痙攣している。

流石にこれは効いたようで、ケルベロスは二歩三歩と後退りよろけた。

背中からは椎名のナックルを中心にその周りから煙が上がり、感電によるダメージを感じさせた。


「――流石に効いたようだな」


「うん。でもあれくらいじゃ大したダメージにならないかも」


美奈の言葉通り、少し効いた風に見えたケルベロスだったが、数秒後には何事も無かったかのように再び私達を追い回し始めた。

それどころか痛みを受けた分先程までよりもより憎悪の感情が上乗せされたように感じる分厄介かもしれない。

あの体の大きさにしては規模が小さかったのだろう。それにそもそもタフネスは相当あるように思われる。


「ギャアウウッッ!!」


迫るケルベロスの爪牙。迫力は物凄いが美奈の魔法の恩恵がある。

簡単に捕まるような今の私達ではない。

奴の牙を掻い潜っている合間を椎名が割って入ってきた。


「はああっ!!」


突風を撒き散らし私達とケルベロスとの距離を開けさせようとする。


「私が引き付けとくから、隼人くん、何とかしてっ!」


「――なっ……」


何とも雑な指示が飛ぶ。

私が時間を稼ぐからヤツを倒す方法を考えろとでも言いたいのか。中々に無茶振りだ。

そう言いつつもそんな最中にも彼女は幾つかの技をケルベロスへと浴びせていく。

それで押しきれればいいだろうが、うまくはいかない。その悉くは軽傷程度のダメージしか与えられていないのだ。

彼女も気づいているのだろう。自分の攻撃ではケルベロスに対して決定力不足だと。

それは分かる。

彼女の風の攻撃は多少の打撃力こそあるものの、硬い敵には決定力に欠ける。風の力で吹き飛ばすとか、撒き散らす、とかせいぜい少し切り刻む程度。

それに加えて翔んだりといったところか。

とにかく汎用性はあっても攻撃力自体は弱いのだ。

ケルベロスには正直どの攻撃もあまり通用していない。

ならば自身は機動力で敵を翻弄する役目に切り替える。決定打を与えるのは残ったメンバーの役目、とでも判断したのか。彼女は懸命に前へと出てケルベロスの気を引く役目を担う。


「はああっ! かまいたちっ!」


「……」


椎名は――何というか。大丈夫だろうか。

どこか焦って無理をしているように感じるのだ。

やはり工藤の事が心配で、一刻も早く彼を助けたいという気持ちがそうさせるのか。

いつにも増して必死に見える彼女の姿を見ながらそんな事を思った。

しかしこのままでは決定力不足でじり貧である。

美奈の魔法のお陰もあり機動力に任せて致命傷は受けないものの、どうにかしなければという現状は変わらない。

私と美奈、アリーシャの三人は時間稼ぎに前に出てくれた椎名を横目に、示し合わせたように一度近くに集まり顔を見合わせた。


「ハヤト、私に任せてくれないだろうか。試したい技があるから援護してほしい」


この機に何か策があるようで、アリーシャがそんな事を言った。

彼女の瞳からは強い決意を感じさせる。

これからの戦いに備えて気力は十分である。


「構わないが、勝算はあるのか?」


「……わからない。ただこのままではケルベロスを倒すには程遠いからな。……それに」


「それに?」


「今の私ではライラを倒すことも出来ない。今、一皮剥けるしかないのだ」


アリーシャはやはりライラの事を気にしている様子。

ピスタの街では不意を突かれたとはいえ魔族であるライラにあっさりと斬られ重傷を負ってしまったのだ。

彼女の今の瞳の輝きは、まるでその借りを返してやると言っているようである。

剣を構えケルベロスを見据えるその立ち姿はいつもの凛とした騎士そのものであった。


「――分かった。ではアリーシャ、頼む」


今は素直にその彼女の瞳の輝きを信じよう。

先程昼食の時、私との会話の中で何か掴んだような表情をしていたのは記憶に新しい。

その彼女の閃きに乗ってみようと思うのだ。


「ああ。任された」


アリーシャは剣の束を強く握りしめ爽やかな笑顔を見せた。

今の彼女の心の内は晴れやかで黒い淀みなど一切感じられない。この後きっと何かやってくれそうな。そんな期待がより一層こもるのだ。

だからこそ私は彼女のやりたいようにやってみてもらおうと思えた。

だがアリーシャはそこからフッと目を閉じた。

どうやらすぐさまケルベロスへと突っ込んでいく、という訳ではないようだ。

その場で精神を集中するように佇むアリーシャ。

そんな彼女を少しだけ見つめ、目を逸らす。

ここは任せてみるしかない。

はっきりとは言い切れないが、きっと大丈夫なのだろうと思う。

アリーシャは間違いなく最強の剣の使い手なのだから。

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