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私のわがままな異世界転移   作者: とみQ
ヒストリア王国領編
150/1062

3-37

「ストーム・プリズン!」


「ぎゃうっ!!」


ケルベロスの周囲の風を圧縮させ、こちらに向かってくるケルベロスの動きを封じる椎名。

彼女の風の扱いは日に日に器用になっている気がする。

私達の手前、十数メートルの所で足をバタつかせながらその場に停滞するケルベロス。


「今よ!」


椎名の掛け声に三人は一斉に動いた。

美奈は弓につがえた矢を放ち、私はケルベロスの前足に斬りかかる。

アリーシャは大きく跳躍し、ケルベロスの頭目掛けて袈裟懸けの太刀を放つ。


「ヒストリア流剣技、火!」


我々三人による同時攻撃は、しかし硬質な金属音を上げて弾かれたのだ。

私や美奈はもちろん、アリーシャでさえもケルベロスに手傷を負わせる事は叶わなかった。


「――硬いっ……!」


アリーシャが着地と同時に舌打ちしながら距離を取る。

ケルベロスの皮膚は鉄か何かのように硬い。この硬さは予想以上だ。


「くっ……凄い力! ごめんっ、一旦解放するわ!」


その言葉が終わるか終わらないかのタイミングでケルベロスの体の自由を阻む風が消失。

その瞬間、巨体に見合わないスピードで直線上に位置していた美奈に突き進み獰猛な牙を光らせた。


「美奈っ!」


不意を突かれて完全に捉えられたと思った美奈の体は、ケルベロスの顎が眼前に迫ったその瞬間に露と消え去った。

完全に討ち取ったと思ったのか、ケルベロスは口を閉じて咀嚼するように口をもごもごと動かしていたが、肝心の中身が無いことに首を傾げる。


「この魔法があれば、ケルベロスのスピードにも遅れは取らなそう」


振り向けば後ろに美奈が立っていた。

先程の魔法、ライトニングギャロップの効果だ。

私はその結果に一旦安堵の息を漏らす。

だがすぐさまそんな場合でもないと頭を切り替える。

どうにかケルベロスにダメージを負わせる術を見つけないといずれやられるのは我々なのだ。


「じゃあこれならどう!? ストーム・バレットッ!」


椎名の指先から圧縮された風の弾丸が放たれる。

確かピスタの街で狼の魔族を打ち倒した技だ。

彼女を中心なして突風が吹き荒れ、一直線にケルベロスに迫る。


「ガアアアッ!!」


そのまま風の弾丸は見事ケルベロスの背中に着弾したようだった。

その衝撃にケルベロスの体がのけ反り砂塵が舞い上がる。

砂煙に一瞬ケルベロスの姿が見えなくなるが、次に姿を見せたケルベロスは多少苦痛に顔を歪めてはいるものの大したダメージにはなっていないようであった。

それどころか痛みに憎悪の眼差しをこちらへ向けた。


「き、効いてないの!?」


驚愕の声を挙げる椎名。

当然だ。

四級魔族ですら一発で葬り去った技であるのに、ケルベロスに対してほぼ手傷らしいものすら負わせられなかったのだ。

そうこうしているうちに今度はケルベロスからの攻撃が来た。

右側の首の口が開き、再び光線が吐き出される。

今度はその直線上に位置していた私とアリーシャが的となった。

しかし美奈の魔法で移動速度が跳ね上がった状態なのだ。

躱す事自体は造作も無い。

この攻撃により一度皆が散り散りになりケルベロスから距離を取った。


「このおっ! かまいたち、三連っ!!」


そんな中、椎名だけが懸命に攻撃をし続ける。

次から次へと多彩な攻撃を繰り出していく。

まるで一つ一つの技の威力を確かめているようにすら感じる。

実際そうなのかもしれない。

シルフと契約してまだ時間は幾らも経過していないのだ。

実戦の中で少しずつ技の有用性を見極めている、そんな気がした。

しかし彼女の繰り出すどの技も、ケルベロスには大したダメージになっていない。

今の技も多少ケルベロスの皮膚を傷つけた程度だろうか。ほんのかすり傷程度と思われた。


「ダメッ! 硬すぎるわっ!」


「ガアオォウッ!!」


傷は浅いとはいえ痛みはあるのだ。

かえってケルベロスを逆上させる結果となったようであった。

ケルベロスは椎名に狙いを定め突進してくる。

三本の首を器用にしならせ鋭い牙をギラつかせ、彼女に波状攻撃を仕掛けている。


「くうっ!」


ここは一旦距離を取るため跳び上がり、空へと逃れた。


「エンチャント・ストーム!」


次は右手のユニコーンナックルに暴風を纏わせた。


「はあああっ!!」


そのまま勢いをつけながら空から急降下。スピードをつけてまっ逆さまにケルベロスの背中へと降りてくる。突き出したナックル。それをケルベロスの背中へと突き立てた。

今度はナックルはぶしゅりと生々しい音を立て、ケルベロスの背中に突き刺さる。


「――ゴガアアアァッッッッ!!!!」


流石にこれは効いたようだ。

線ではなく点による攻撃。範囲は狭けれど、ナックルは深くケルベロスの体にめり込んだのだ。

体を痛みにでたらめに震わせる。その拍子に椎名は明後日の方向へと飛ばされたように見えた。だが実際は違ったのだ。


「美奈っ! 背中にユニコーンナックルを突き刺したままよ! あそこに光魔法をっ!」


飛ばされながら、いやケルベロスの背中から飛び退いたのだ。

ケルベロスの背中にはユニコーンナックルが刺さったまま。あれを避雷針のようにするのだと彼女の意図を私も美奈もすぐに察した。


「この身に宿りし光のマナよ この手に集いて光を宿せ」


美奈はすぐな詠唱を開始。右手に光が灯り始める。


「この手に集いし閃光以て 一条の力を宿し 彼の者を穿て」


詠唱が進むと共に美奈の右手の光が輝きを増し、電撃のようにびりびりとした雷光が迸る。


「ライトニングスピア!!」


力ある言葉と共に魔法を放つ。

同時に一筋の雷光がバチッという音を轟かせ空間を駆け抜ける。


「ギャワンッ!!」


光は雷のような直線的な屈折を経て見事ナックルへと吸い込まれていき、犬のような悲鳴を上げてケルベロスは苦痛に顔を歪めた。

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