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私のわがままな異世界転移   作者: とみQ
ヒストリア王国領編
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第4章 地獄の番犬 3-33

「椎名、そろそろ行かないか?」


「――ん?」


馬車でガタゴトと数分進んだ頃。

今尚ぶつぶつと一人ごちていた椎名は私に名前を呼ばれ小首を傾げた。

一人言というよりは風の精霊シルフと何やら言い合いのような相談のような話し合いをしているのを察してここまで特に声は掛けなかったのだが。そろそろ頃合いかと思う。

手筈ではここから椎名の風の能力で馬車ごとヒストリア王国の近くまで飛んでいく予定だったのだ。

別にすごく急いでいるわけではないが、このまま放っておいて何か状況に変化があるようにも思えなかった。

美奈の事が気にかかったのは理解できるが、現状特に何も起こってはいない。

何もないのにあーだこーだとやり合っているのは生産性のないことだと思うのだ。


「いや、そろそろ手筈通り事を進めようかと思ってな」


「――あ、ああ。うん、そうね、ごめんごめん! じゃあやりますかっ。ちょっと一旦馬車を停めてくれる?」


ようやく自分の世界から帰って来た椎名。

彼女の言う通り馬車を停泊させると、御者台の私を中に入れて、自分は荷台の上へと跳び移った。


「じゃあ、いっちょ行きますか。あ、そーだ、アリーシャ」


「どうした、シーナ?」


「ここからヒストリア王国まで馬車で1日もあれば行ける場所ってどの辺りなの? そう言えば肝心なこと聞いてなかったなって思って……何か目印とかある?」


そう言いナハハと笑いつつ、頭を掻く椎名。

何というか、しっかりしているのかそうでないのか時々分からなくなる時がある。

そんな椎名を横目で見ながら、しばし顎に手を乗せ考え込むアリーシャ。


「――うむ。ここからの道程だが。半日程行くとヒストリア山脈の麓に着く。そこから山道が続いて、そこを越えるのに一日。更に下って一日。そこからまた半日程行けばヒストリア王国に辿り着く。よって山脈の反対側の麓まで行ければ十分だろう」


今走っている道はなだらかな平原が続いており、目の前に山々が連なる山脈が見える。

頂上付近が白く、雲が懸かっているのを見ると、それなりの高さなのだろうと容易に想像できた。

その高さを馬車で登るとなると一日は早すぎるくらいに思えた。

更に道中魔物と遭遇するかもしれない事を考えると、この限りではないのは明らか。場合によっては更に一日二日時間を擁したとしてもおかしくはない。


「オッケー。じゃあ一気に山越えして、反対側の麓まで下りれれば上々ね!」


あっけらかんとそれだけ言ってのけると椎名は目を閉じ、自身の内の力に集中し始めた。

何となくだが私の周りの空気が一変して、ぴりついたように感じた。

それと同時に椎名の周りに風が生まれる。

その風は彼女を中心に巻き起こったかと思うと、やがて私達の乗る馬車をも包み込んだ。


「ぬおっ!?」


直後ふわりと宙に浮く馬車。

急だったもので変な声が漏れでてしまった。

周りの面々も落ち着かなく緩やかに上昇していく馬車の窓から遠くを見ていた。


「――すごいな」


アリーシャの呟きが隣で聞こえ、さながら気球のように高度を上げていく馬車の中で誰もが感心していた。

馬は四頭いるのだが、そのどれもが驚いてジタバタしたり、おののき鳴いたりしている。


「おお……」


少し余裕が出てきたのか、アリーシャが窓から外を見つつ感嘆の声を上げた。

そんな大胆に動いて大丈夫かなとも思う。それに思いの外肝が据わっている。

これは以前椎名に連れられてピスタの街まで中空を行った経験があるからだろうか。

あの経験により少し耐性がついているとか?

でなければとてもではないがどんどん高度を上げていく馬車の窓から地上を見下ろすなど到底無理な話だ。

そんな事を考えていると、やがて上昇する馬車の動きが中空でピタリと止まる。

今度は動きが変わり、前方に進み始めたのだ。

力の掛かる方向が変わった拍子に窓の縁を掴み、ついでにちらりと横目で下を見る。

――正直かなり高い。

こんなアトラクションが遊園地にあったら絶対に乗りたくはないものだ。


「それじゃあそろそろスピード上げるわね!」


「――なんだと……?」


その声を合図にゆっくりと進んでいた馬車が、速度を上げ始める。

その勢いは増すばかり。


「みんなっ、しっかり掴まってて!」


「――っ!!?」


どんどんと速度を上げていき、何かに掴まっていないとバランスを崩しそうだ。


「な、何という速さだ……!」


血の気が引くとはこの事だ。

馬車の外ではびゅうびゅう風切り音が鳴っていた。

だが実際馬車の中には殆ど風が入り込まないところを鑑みるに、彼女もそれなりに気を使って風を調整しているのだろう。

一番可哀想なのは馬だ。

彼らは外に居っぱなし。流石に馬車の荷台に押し込むことは難しいので仕方ないのだが、どれも痙攣しているように見える。

こんな事では着地してすぐに出発は難しそうだなと思う。

どうか気を強く持ってくれ。


「もうすぐ山脈を通過するよっ!」


「――もうかっ!?」


彼女の言葉に下を見ると割と近しいところに地上が見えていた。山脈の頂上付近なのだろう。

ちらと後ろを見やるとピスタの街はだいぶ小さくなっていた。


「すごいね……めぐみちゃん」


「ああ……あっという間だ」


「精霊魔法とは、これ程のものなのか」


「ちょっと一旦休憩っ~」


三人共に圧倒される中、椎名の合図で馬車の飛行速度は緩やかになっていく。

程無くして一旦馬車は山頂付近の山道に着地したのだ。

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