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私のわがままな異世界転移   作者: とみQ
ヒストリア王国領編
145/1062

3-32

馬車を走らせること五分程度。

私達が入ってきた方向とは反対側の街の出入口が見えた。

東門というやつだ。

門には門番がいたが、昼間は開けているのだろう。そのまますんなりと通してくれた。

門を抜けると広大な平原が目の前に広がる。

椎名の言った通りすぐ近くに二人は見つけられた。

そこには彼女と共に美奈の姿があった。

見たところ何の外傷もなく、一旦ほっと胸を撫で下ろす。

先程焦って椎名が先行した時には血の気が引いたが、二人とも何事も無かったかのように見える。

私は改めて馬車を停め、御者台から降りると二人の元へと近づいた。


「椎名、先程は一体どうしたというのだ。美奈の身に何かあったのかと思ったぞ」


すると椎名は腕を組み、ちらと横目で私を一瞥。何とも煮え切らない顔で首を捻っている。


「う~ん……。おかしいなあ……気のせいだったのかな……」


「???」


「……確かに感知で何者かの気配を感じたのよ」


「――そうなのか?」


美奈の方を見やると彼女もよく分からないと言った風に小首を傾げていた。


「うん、私も良くわからないんだけど。めぐみちゃん、私が誰かに襲われたのかと思ったみたいで」


だが当の美奈は特にこれといって変わった様子はない。

念のため彼女の胸の内も確認してみるが、別に気を使っているとかそんな事はないように思える。


「私は何もなかったって言ったんだけど、今いち納得がいかないみたいで」


「美奈はここで何をしていたのだ?」


短い時間とはいえ一人になるという事はやはり危険な事だ。

今回も二人で行動していればこんな事にはならなかったはずである。

だが私自身も昨日工藤の件で同じ失敗をやらかしている。強く言えた義理では無いのだが、もやもやと煮え切らない想いを抱えてしまうのは否めない。

それに私としてもやはり椎名と美奈の二人と別行動を取る選択をした責任がないわけではない。

そう思うと益々椎名のせいにするような発言は憚られた。というか彼女だけの責任では決してない。


「新しい魔法の練習だよ」


彼女は予想通り、そんな答えを返してきた。

やはり二人して新しい魔法の修得に勤しんでいたのだろう。

美奈は自身の戦いにおける戦力にならなさを気にしていた。

宿屋から魔石屋へと向かう道中魔法屋を前にしてじっと建物を見つめていたのだ。

新たな魔法をそこで修得し、試し打ちをしていたのだろう。

美奈は一度集中し出すと他が手につかなくなったりする。

椎名が気を使ってそっとその場を離れるのが容易に想像出来た。


「私、光魔法の適性があるから、戦いに役立つ魔法がないかなって。探したら二つ見つけることができたから」


「なるほど、そうか。で? 成果はあったようだな」


美奈の顔は魔石屋で離れる前と比べると、随分と晴れやかな表情に見えた。

彼女の胸の内のもやもやも少しは晴れたように思う。


「うん……実際どれだけ役に立つのかはわからないけど、少しは皆を助けられると思う」


「そうか。美奈、期待しているぞ」


「――うん!」


元気な返事をくれる美奈はとても嬉しそうであった。

光魔法が具体的にどんな物があるのかは分からないが、美奈の皆の役に立ちたいという想いが伝わりそれだけで力が湧いてくるようであった。

そこで思う。

何だかんだ言いつつも、今現在最も戦力として心許ないのは私だ。

エルメキアソードが全く出せなくなってしまい、今の私は身体能力が少し高いだけの剣士なのだ。

それも素人に毛が生えた程度。

そんなでは魔族との戦いで何の役にも立たない。寧ろ相当の足手まといだ。

もし椎名のように精霊の力を借りられれば話は変わってくるかもしれないが、そのために何をすべきかはさっぱり見えてはこない。

シルフは精霊と私はまだ繋がっている状態だと言う。思考や想いは精霊に届いているのだとか。

だから反応は返ってこなくとも説得し続けるしか無いと言っていたが。果たして本当にそんな事で効果があるのだろうか。

今この瞬間も私の声を精霊は聞いてくれている。

私はふうと短いため息を吐き、澄みきった青空を見上げた。

私の中の精霊よ――。

頼む。今の私はどうしても精霊の力が必要なのだ。

――皆の力になりたいのだ。どうか私を助けてくれ。

――お願いだ。

そう一縷の望みをかけるように、心の内へと切実な吐露をする。


「…………」


「隼人くん?」


ぼうっとしていると思ったのだろう。美奈が訝しげな目を向ける。

私は彼女ににこやかに笑みを送る。


「あ、いや。すまない。ちょっと考え事をな。とにかく皆揃ったのだ。そろそろ出発しようか」


「うん、そうね」


椎名はそれだけ言うとまだ得心がいかないような顔をして馬車へと乗り込んだ。それに美奈も続く。

二人の背中を見つめつつ、不意に振り返ってもう一度虚空を見つめてみた。

だがやはり、私の声に応える存在など一切感じられなかったのだ。

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